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96話「破壊神」

 義父イシタラによると、神になるにあたり、いくつか確認すべきことがあるらしい。

 そこで義母ドゥリッキも交えての、初めての家族会議が開かれることになった。


「……義父と義母か。私は自然発生した精霊だから両親がいないので、親というのは新鮮な感覚だな」

「遠慮なく義母さんと言っていいのよ。ふふ、息子っていいわぁ。――それでアナタ、二人はどんな神になるのかしら? 私の見たところ、バーツ君は平気だと思うんだけど」

「うむ。二人とも、少しじっとしていなさい」


 義父が手をかざすと、私とフィンディが白い光に包まれた。優しい光だ。


「…………バーツ君は問題ない。調和神となり、世界を管理することができるだろう。元々、あの世界の精霊なのだから適役だ」

「ありがたいことです…………」


 これで一安心、か。

 次に義父は厳しい目でフィンディを見た。


「フィラルディア」

「な、なんじゃ父上…………」

「お前は破壊神になるのが嫌であの世界に残り、大地を癒やすことで地母神としての性質を高めると言っておったよな?」

「…………そ、それがどうしたのじゃ? ちゃんと大地は癒やしておったぞ」

「バーツ君、実際はどうだったのかしら?」

「私の知っている範囲では、破壊神よりの行動が目立っていました」


 私は義両親との良好な関係のため、正直に事実のみを口にした。


「お、お前様っ! ここは妻であるワシの味方をするところじゃろう!?」

「嘘を言っても確実にばれるだろう……」

「確かにそうじゃが………」


 この二人を相手に嘘を突き通せるとは思えない。何より、私もフィンディもそういうのは苦手だ。


「儂の見たところ、フィラルディアが該当するのは破壊神のみだ。残念だったな」

「な、なんということじゃ……」


 父の無慈悲な宣告に娘は絶望し肩を落とす。

 そしてすぐに抗議を始めた。


「しかし、破壊神一択は流石に酷すぎじゃ! 確かにそこそこ暴れてはいたが……っ!」

「義父上、フィンディは礼節を持って接してきた相手には、親切に対応していました。大地も癒やしていましたし、多くの人を救ってもいます」


 嘘は言っていない。それ以上に暴れていたという事実もあるにはあるが。


「それで、礼節を持っていない人には、どうあたっていたのかしら?」

「だいたい、ご想像の通りかと…………」

「もて囃す相手には加護を与え、それ以外には災いを振りまく。相手によって気まぐれにふるまう。――――まさしく破壊神そのものといえるな」

「…………なるほど。勉強になります」


 そう断言されると、納得するしか無かった。


「ぬおおお。バーツが納得してしまったのじゃああ」

「それで、フィラルディアは破壊神が不服なの? 拒否して修行をしなおす?」


 義母の「嫌ならいいのよ」といわんばかりの投げやりな問いかけに、フィンディは若干頬を膨らませながら返事をする。

 

「いや、破壊神でいいのじゃ。世界の管理は夫に任せ、ワシはそれを支える役割じゃ」

「なんと。素直に認めるとは、成長したものだな」

「ワシにとっては、バーツと一緒にいるのが最優先じゃ。それに、破壊神になった後に別の側面を育てれば良い話じゃし」

「ほう。神になっても成長できるのか?」

「うむ。神になった後の活動で神格に幅が出るのだ。破壊神は同時に再生神も兼ねることが多いのが、フィラルディアの性格では、思った通りにはならぬだろう」

「べ、別にそれでも構わんのじゃ」


 神になった後のフィンディの頑張りに期待するとしよう。私としては、どんな神であろうと、彼女と一緒なら構わない。


「そこまでしてバーツ君と一緒に居たいのね。我が娘ながら一途だわ」

「義母上も似たような感じで?」

「ふふ、色々あるのよ。今度ゆっくり昔話を………」

「やめぬか」


 なんか微妙な顔をした義父が話を遮った。都合の悪いことでもあるのだろうか。


「話は決まりだ。バーツ君とフィンディを神にする儀式の準備をする。そうだな、ここの時間で7日ほど必要だな。ドゥリッキ、手伝いを頼む」

「もちろんよ。最愛の娘夫婦のために頑張るわ」


 そんな感じで、家族会議は終了し。その後は和やかなお茶会が始まった。話題は主に、フィンディの過去の所行についてだ。

 興味深かったので色々聞いたら、後でフィンディにとても怒られた。


 ○○○


 一週間後。

 私達は神樹の麓にいた。

 近づいてみると神樹は想像以上に大きかった。完全に山だ。根元にいると巨大な壁にしかみえない。

 周囲を見ると、そこらじゅうで巨大な根がうねり、たまに神々の魔力が光として降り注いでくる。


「儀式というのは神樹で行うのですね」

「そもそも神というのは神樹から生まれた生命なのだよ。神樹は神々の魔力の流れ出る泉のようなもの。そして、神々の魔力から生み出されたものが神を名乗っているのだ」

「……まるで精霊ですね」


 義父の話の通りなら、生まれた場所が違うだけで、形としては私に近い。


「そうよ。バーツ君は本質的にはフィラルディアより私達に近いの。だから神になれるし、神樹の枝も使いこなせたのよ」

「なるほど。そんな理由が……」

「さて、父上、どの辺りがいいかのう?」

「うむ、そうだな……」


 私が知らされた事実に驚いている横で、義父とフィンディが儀式に良い場所を探していた。

 儀式にあたって真新しいことが一つだけある。

 両親からフィンディに新しい杖が渡されていた。

 杖と宝玉は以前と同じものだが、宝玉の周辺から突き出るように白い翼が浮かんでいるのが特徴だ。

 神になるために、彼女の杖は作り直されたのである。


「実のところ神樹の近くならどこでも良いのだが。……あの辺りがいいだろう」


 義父が杖で指したのは、神樹から突き出た太い枝が屋根のようになっている場所だった。


「儀式は簡単だ。儂とドゥリッキが作った新しい杖に封じられた魔法と神樹の魔力で、フィラルディアの身体を作り直す」

「意外と強引な方法ですね。……えっと、つまり、文字通り生まれ変わるわけですね?」


 思った以上に力技の儀式が行われるようだった。


「そういうこと。フィラルディア、覚悟はいいわね? 痛くないから安心なさい」

「……別にそんなこと気にしておらんと言うのに。――――では、始めるのじゃ」


 神樹の近くに立ったフィンディが宣言した。

 新しい杖から魔術陣。いや、魔法陣が展開する。

 魔術とは違う形式の文字や紋様が周囲に踊る。

 術式の展開に合わせて、フィンディはゆっくりと球形の光に包まれていった。

 

 その直後、神樹が光を放ち始めた。

 神々の魔力だ。私達の周囲で神々の魔力が大きく渦巻いている。

 まるで滝のように魔力の光が周囲に降り注いでは散っていく。

 そして、フィンディを包んだ光は、その魔力をどんどん吸い込んでいく。

 見れば、彼女は四方から神樹の魔力を受けていた。


 時間にして十分ほどだろうか。

 神樹の光が収まると、フィンディの展開していた魔法も収束し、光の球が解除された。

 

 儀式を終えたフィンディは装いが変わっていた。

 杖はそのままだが、服が替わっていた。紋様が記された白いローブだ。

 後ろでまとめていた髪も下ろされている。銀髪も少し色が明るくなったように見える。体格は変わらず、そのままだ。


「フィンディ……なのか?」

「うむ! 今のワシは破壊神フィンディじゃ! 安心するがいい。ワシはワシのままじゃからな!!」

 

 杖を掲げ、フィンディは声高らかに宣言した。


「すんなり破壊神になれたわねぇ……」

「わかっていたことだ。何でこんなことに、予定では地母神になるはずだったのに…………」


 なんか義両親が悲しんでいた。


「……見た目が成長するのをちょっとだけ期待してたんじゃが。やはり駄目じゃったか……」


 そしてフィンディも落ち込んでいた。


 ○○○


「バーツ君の分は後日だ。儀式は短いが準備が大変でな。大体整ってはいるんだが」

「いえ、問題ありません」


 無事に儀式を終えた私達は、フィンディの実家に戻り、お茶を飲みながらそんな話をしていた。


「それで、フィラルディア。神になった感想はどう?」

「まだ何とも言えんのう。力は漲っておるが。魔法もあまり知らんしのう」

「なに、おいおい覚えていけばいい」


 室内は落ち着いた、和やかな空気だ。なかなか居心地がいい。


「そうだ。邪神エヴォスについてだがな、時間を見て探りをいれているのだが、まだ掴まらん。何分、隠れるのが得意な奴だからな」

「あの子、昔はちょっと無邪気なだけな神だったのに、信者も持たずに色んな世界を渡り歩いてる間に変わったわね」

「全くだ。……まあ、ここにいる限り手出しはできないだろうし。どこか遠くに行ったのかもしれないな」


 義両親はエヴォスについても調べてくれていたようだ。

 この二人がそう言うなら、安心してもいいだろう。実際、私達は目的を達しつつあるのだ、エヴォスがこちらに何かしてくる段階では無い。

 そこまで考えて、私は席を立った。

 

「む、お前様。どこに行く気じゃ?」

「ちょっと外の空気を吸ってくる。せっかくだ、ご両親と積もる話でもするといい」

「ふふ、お気遣いねぇ」

「あまり遠くにいかぬようにな」


 思えばフィンディはせっかく帰ってきたのに、いつも私といて親子の時間というものがなかった。めでたく神になったことだし、親子水入らずで話でもしてもらおう。

 その間、散歩でもするつもりで、外に出るべくドアを開き、一歩踏み出した時だった。


 声が聞こえた。


「あまり順調だとつまらないよね? だから、ボクの方から面白くしてやるよ」


 直後、私の視界は暗転した。

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