魔族と婚約破棄(笑)された令嬢
「もう少しで着くから待ってろ」
四人の中でもひときわ目立つ男はそう言った。
その男の顔はこの世のほどとは思えないほど麗しい顔だった。
* * *
「ユリア!!お前との婚約を破棄させてもらう!!」
そう、仰ったのは私の婚約者のガッセル様です。
ちなみにこの方はこの国の第一王子というお偉い位置についておられる方。
申し遅れました。初めまして、私ユリアと申します。
ところで今、なんて言いました?
こんにゃくはきといいましたか? え? 婚約破棄ですか?
えー……なにそれめっちゃ嬉しいじゃないですか!?
毎日毎日繰り返されるお妃修行は辛いものでした……。講師のメガネのキッツイおばさんは少しでも間違えると顔じゃない見えないところを殴ってきました。母も父も兄もそれを知っていましたが、公になり注目されることを恐れてか助けてはくれませんでした。それどころか両親は私に対し「お前はこの家の道具だ。失敗は許さない。」と手厳しく教育をされました。二つ上の兄は私のことを何故か嫌い邪険に扱いました。
この家の使用人もみな、同じように私のことを邪険に扱いました。
……流石に精神年齢30歳は超えてることはありますね!私!愚痴が多い!年を感じます。
私は元は日本という国にいた、ちょっと料理が得意な普通の女子高生でした。
ですが、不幸にも通り魔にあってしまい、天に召されてしまいました。お母さんとお父さんには悪いことをしてしまいました。ごめんね。
そんな訳で私の口調はこんなのです。心の中だけですよ!
そして、私が気付いた時にはもう、異世界に転生していた訳です。転生した世界は魔族やら、精霊やら魔法やらあるのにどうやら乙女ゲームだったらしいです。この瞬間まで気付いてなかったけどね!?
何故、そう思ったかと言えば、逆ハーが起こっているからです。……ヒロインちゃん(仮)の手腕は凄かったです。攻略キャラクター(仮)の欲しい言葉を一言一句間違い無く言える姿には尊敬でしかなかったです。
おっと話がズレましたね。
本来逆ハーなど起こってはいけないものなのです。貴族と貴族の結婚は力を大きくするためにありますからね!自分で言ったけどロマンがないぞ!
というか、公爵令嬢である私との婚約を破棄して大丈夫なんでしょうかね?
まあ、私には関係ないですが。
別に私はこの乙女ゲーム(仮)を知りませんし、このあと私がどうなるかは知りません。
それでも私がこうして冷静に心の中で喋ってられるのは彼ら、彼女らのお陰でしょう。
同じく、酷い扱いをされても笑って、挫けずにいられたのも。この場にはいないけれど。
「黙ってないで、何か言ったらどうですか?」
そういったのは次期宰相の人です。名前忘れたので眼鏡野郎って呼びます。いや本当は覚えてますがね。
それでもだんまりを決め込んでいると
「ねえ、今更になって事の重大さに気づいたの?君が犯した罪は重いよ。メルはとっても辛い思いをしたんだよ?それの報いだよねえ?」
ふふっと笑ったのは多分腹黒キャラ(笑)の、第二王子です。
おい、てか大丈夫ですか、この国。王子二人を虜にされちゃってますよ!?
「お前 メルにした行い……許さない。」
おおっとぉ!これは無口キャラですか!? 接続詞は言いましょうよ!イタイです。
彼はこの国1番の魔法使いです。
「窃盗、暴行、殺人未遂……そして暴言。メルに謝れ。嫉妬からかは知らないが、やっていい事ではない。」
これを仰ったのは隣の国の第二王子です。王子多くないですか、大丈夫ですか。
と、いうか私はそれらの事をやっていませんし、嫉妬など抱いた事すらありません。てか王子の事を私は嫌いです。だって自慢ばっかりですし。
「……私はそのような事を行った覚えはありません……。」
ほら、見てください。私やるときはやる子なんです。喋り方変えちゃいます。てへっ☆……やだ……全然可愛くない……むしろ吐き気です。吐き気。
「シラをきるつもりか!?」
騎士団長がこんなんでいいでしょうか……? 血圧上がりますよ〜?
「辞めてっ……アル。わ、わたしはもういいのっ……。ごめんなさい……こんな大きな騒ぎにしてしまって。でもっ……辛くてっ……。」
うるうると涙を流すヒロインちゃん(仮)はいかにも「私大丈夫だよ!本当は辛いけど大丈夫!」感を出しています。
……どうもこの子は私と同じく転生してきた様です。前に「攻略なんて簡単ね!」とか言ってましたし。
私と違うのはこの世界の筋書きを知っているという事です。知っていたら、私も努力はしたんですが、ね。それでも好かれる様に頑張ってきたつもりだったんですが……。
さしずめ、彼女の知っているゲームでは私は悪役令嬢なのでしょう。彼女にした事と言えば「あまり、異性を侍らすなんてはしたないですわ」だけですからね。
ちょっと暗くなってしまいました。
「きゃっ……!?睨まないでくださぃ……」
きゃっ……って!?きゃっはないでしょう。きゃっは。
ですがその一言に保護欲をかられたのか
「お前という女はっ……!」
逆ハーメンバーの私の兄が怒鳴ってきました。
そして、極めつけには父上に
「お前の様な子に育てた記憶はない!ここで親子の縁を切らせて貰う!」
と言われちゃいました。観衆もみな私が悪いと決めつけています。王子達が流した噂のせいですかね?
まあ、今更親子と言われても困るだけですけど。強がりじゃないよ!
「……ユリアとの婚約を破棄し、メルシーとの婚約をする事を認めよう。」
そう、王が仰った瞬間ヒロインちゃん(仮)と攻略キャラクター(仮)達はとても喜んでいます。
しばし、それを傍観していると
「いつまでそこにいるつもりだ。早く出て行け。」
そう王子に言われ、兵士に肩を荒々しく掴まれそうになった瞬間でした。
パリン_____________
大きな窓が割れました。
あ。見覚えのある、姿。
本当、彼らの行動はよく、つかめません。
そして、本当 私が苦しいときに助けてくれる人達……いや
魔物なのでしょう。
「ユーリ、遅くなって悪かったね。でもこれでもうこの国……いや人間に興味はなくなっただろう?」
「わあ〜!人間って醜いね〜!僕怖いよ〜!!ユーリ助けて〜!」
「オイコラてめえ、なに魔王様差し置いてユーリに抱きつこうとしてんだおら。」
「お前も行きたい癖に。」
「ああ!? てかヴァル!お前もなにおーじさまぶってんだよ!遅くなって悪かったって「うるさいなあ。」
「ああ!?」
「ああ、もう、お前らうるせえよ。」
「「「すいませんでした」」」
「まあ、嬉しいのはわかるけどな。オウルの言う通りまず俺だ。ユーリ、久し振りだな。拐いに来たぞ。」
ああ、もう……久し振りに見た。コントみたいな会話が面白すぎて涙が出そうです。
私を……助けてくれたのは魔族です。
何故、拐いに来たという表現を使うと言えば、私は幼い頃この魔王に誘拐されました。
そこで私は料理を作り、見事彼らの胃を掴み二年ほど全魔族と仲良くなり楽しいひと時を過ごしていました。
ですが、ある時この国の戦争の時に不意を狙われ私は連れ戻されてしまいました。
その後二日後にやってきた魔王……らーちゃんに「帰るぞ。」と言われましたが、私はもう少しここに残ると言いました。
私を連れ戻す事でまた、戦争が始まり、いくら魔族が強いといえど血を流すのは見たくなかった。
私を大事にしてくれた人達を私のせいで傷付けたくないと言う私の我が儘です。
それを聞いてくれたらーちゃんは、毎年一度会いに来るという事と、お前が辛そうだったらもう一度拐いにいくという約束を私に言いつけました。
辛いお妃修行に耐えられたのも一年に一度、全員というわけにはいけないけれど魔族の人達に会えるのが心の支えとなってくれたからです。
今日、私を拐いに来てくれたのは魔族のトップ、らーちゃんと幹部であるワーちゃん(幼い頃ヴァが言えなくてこうなった。)チェル君、オーちゃんです。
拐いに来てくれたって言う表現も些か恥ずかしいですが……それでも私はとても嬉しかったのです。
浮いていた身を地上に降ろし、四人は(人じゃないけど人型なので)私に近づいてきました。
その光景にいち早く正気を取り戻したのはヒロインちゃん(仮)でした。
(仮)言うの疲れたのでもう止めて良いですかね……?
ヒロインちゃんはなんと、四人に近づき猫撫で声を出し始めました。
それを見て、正気になった攻略キャラクター達が焦って「やめろ!!そいつらは魔物だ!」と青ざめて止めていますが聞きません。
確かに、らーちゃん達はとても美しい人達です。カッコいいしこの国のイケメンなんぞ「ナニコレ」っていうくらいに。
ですが、どれだけ男が好きなんでしょうね……。
ヒロインちゃんはらーちゃんの腕に自分の腕を巻きつけると
「こんばんわぁ!お兄さんたちだあれ?」
と気持ち悪い声で言いました。うわあ……
まあ、でもそれを聞いたらーちゃん達は露骨に嫌悪感を出しました。らーちゃんはヒロインちゃんの腕をベリッと剥がすと、ペイっとヒロインちゃんを攻略キャラクター達の元に投げました。
慌てて攻略キャラクター達は受け止めます。
わあっ人間ってお空飛べるんですね!
……じゃなくて……。
「らーちゃん!? 流石にそれは駄目です!!死んじゃうから!!」
「……? よくね?」
「駄目です!!」
そんな言い争いをしていると第一王子が口を開きました。
「な、何故……魔王がここにいる!? そして何故ユリアと話す!?」
それは最早絶叫に近いものでした。まあ……魔物はとても力が強く怖いものだと教えられますからね。
「ねーぇ?」
とても男の子(多分)に聞こえないような可愛いらしい声を出しながらチェル君は王子に近づきました。
「なんで、ユリアってその口で呼ぶの? 今すぐそのお口チャックしよ? そしてユーリのことをもう二度とそうやって呼ばないで」
「ひいっ」
情けないお方ですね!これを見てちょっとスッキリしてる自分がいます!チェル君カッコいい!ありがとうございます!
「殿下、私は昔魔族に拐われた、といのはご存知ですよね? その時、私はこの……魔族達と親しくなったのですわ。そして、私は今婚約破棄を言い渡され、親子の縁を切られました。ですので、もうこの国に私が留まる理由はありません。」
「なっ……お前は魔物という存在に怯えていたじゃないか!」
「演技です、殿下。そのくらい見抜けなくて、この国の王となるおつもりですか?」
私は魔族に拐われたあとワーちゃんの指示で魔族を怖がってる、という設定にしました。
「っ……!?」
その瞬間周りにいた兵士達がガチャっと音を立てました。
「あのさあ、君たちが相手にしてるのは恐ろしい魔物だよ? 気づいてないの?
あ、あと魔族とこの国とで行っていた貿易やめにしていいよね。もうユーリがいないなら別に人間と関わらなくていいし。」
ワーちゃんは王を見つめて、笑いました。
魔族との貿易、というのはこの国にとって大事な収益です。それがなくなってしまったら遅かれ早かれこの国は立ち行かなくなるでしょう。
「まー、そうだな。面倒くせえことがなくなったな」
そう言いつつオーちゃんは攻略キャラクター達とヒロインちゃんを見つめて舌打ちをしました。
「なっ……待ってくれ!!ユリア悪かった!!」
「今更そんなこと言われてもなあ、ユーリは返さねえぞ。さっさと帰って俺はユーリの作った飯が食いてえ」
普通に言われたら恥ずか死ぬ言葉ですが、らーちゃんの目あてはご飯です。ご飯。
餌付け効果は凄いですね!
「ユリア……。お前は私のことを好きであったのではないのか……?」
王子は私にひとつの希望を目に宿し問いました。
「ほら、一回スッキリ言っちまえ。」
らーちゃんが私の背中をぽんと押しました。多分かなり力は抑えてるんでしょうが痛いです、イテテ。
ではお言葉に甘えて一度言わせていただきましょう!!
「そんなことあるわけないでしょう。」
「は……?」
「幼い頃から暴力をふるわれ続けた私の境遇を知りながら助けてもくれなかった男に誰が好意を持つのです?
それどころか、婚約破棄をすれば私がどんなことを家族に言われるかどうかも考えずこんな大規模なパーティーで言うなんて馬鹿の極まりですわ。
と、いうか私が彼女をいじめた証拠はあるんですの? 彼女の証言では駄目ですわよ?
あら、ないんですか。
私は精一杯この国に尽くそうと思いましたが、もう愛想が尽きてしまいました。」
笑って一言。
「さようなら」
その瞬間私はらーちゃんに抱きかかえられ空へととびました。
「ユリア!?!?ま、待てっ」
「誰が待つか。残念だったな、チャンスはあったのに。 ああ……ひとつ予告してやるよ。最近魔物狩りっつうのをやってるみてえだが魔物は不死だ。生き返るぞ。この国に保管してある魔物の死骸ていうのはまだ生きてる魔物だ。さっき俺が魔力を少し分けといてやったからもうそろそろ生き返るかもなあ。」
「は……?」
らーちゃんは笑いました。
「じゃーな! 精々生き伸びろよ〜」
ビュンビュンと景色が変わっていきます。程なくして魔王城が見えてきました。
すると
「ユウウウウウウウウリイイイイイイイイイイ!!」
魔族のみんなが出迎えてくれました。これは沢山ご飯を作らなければいけませんね!
「おかえり」
らーちゃんがそう言ってくれました。
私は笑顔で
「ただいま!」
そう答えました。
その後、あの国がどうなったか、なんて知りませんがらーちゃん達がにやにや笑っていたのできっと悲惨なことになっているのでしょう。
続編も書けたら書きたいと思っています。
あと、ユリアちゃんとらーちゃん達との出会いも書きたいなあ(*^^*)
*有難いご意見を頂いたので少し加筆しました。
ここまで読んでくださりありがとうございました!
前作とは違い、かなりコメディー要素がありましたが楽しんでいただければ幸いです。