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泣いても知らねえぞ

 再会は、突然だったらしい。活気を取り戻した酒場。飛び交う会話にグラスをぶつけ合う音。その奥のカウンター席で立ったまま、マスターと話す黒髪のショートヘアの女性がいた。マスターと目が合うと、マスターが手招きする。

「ちょうどよかった。ほら、こいつらはどうだ?」

 女性は、こちらに向かって2、3歩歩くとじっと俺とジェンツーの顔を覗き込む。黒い瞳の奥は深く、何を考えているのか読み取れなかった。

「・・・・・・初心者?」

「おまえさん、今度の作戦に仲間が欲しいって言っていたじゃないか。おまえさんの噂を聞いても仲間にしようって言っていたし、ちょうどいいんじゃないか?」

「・・・・・・そんな人は、何人もいた。足でまといはいらない。」

 俺は、横目でジェンツーを伺う。ジェンツーの眉間に皺が寄るのが分かった。

「それは、俺らと決闘がしたいということですか?宣戦布告ですか?言っとくけど、さっきの雑魚みたいにいくと思うなよ。」

「やめろ、ジェンツー。」

「俺の実力見せてやるよ。泣いても知らねえぞ。」

 ジェンツーがそう言うと、背を向けそのまま外に出る。バカは放っておこう。そう思い、ヒカリに向き直ったとき、ヒカリも出口に向かって歩き出していた。数歩歩くと、ヒカリが振り返る。

「・・・・・・あなたは、来ないの?」

 ヒカリが、真っ直ぐこちらを見ている。まさか、あのバカの迷言を真に受けるとは思えない。

「冒険者は、仲間にするときや仲間になるときに、よく戦ってみて互いの実力を確かめるんだよ。死ぬことはないし、行ってやってくれ。」

 マスターが耳打ちする。マスターに聞きたいことがあったのだが、あとで聞くことにし、ヒカリと一緒に酒場をあとにする。



「ここなら、迷惑にならないだろ。」

 街を出て数㎞離れた草原。おそらく、何かの作業場だろうと思われる開けた広場に、俺たち三人はいた。広場には、大きな丸太がいくつも横たえてあった。

「それじゃ、やるぞ。」

「ちょっと待て。『決闘バッチ』は使ったか?」

「あ?なんだそれ?」

 やっぱりか。こいつは、『決闘バッチ』を知らずに、本当に決闘をしようとしていたのか。ただの命知らずなのか、なんなのか。

「おまえの分も買っておいたぞ。」

 『決闘バッチ』とは、決闘を行う冒険者同士が持つことで、互いの命を守り、また周囲への影響を及ぼさなくなるものだ。

 原理としては、『決闘バッチ』には魔法が施されており、バッチを持つ者の存在の座標軸を微妙にずらすことで、他に干渉できなくするとかなんとか。詳しいことは、専門家ではないので分からない。

 ここに来る前、俺はヒカリと一緒に『決闘バッチ』を買っておいた。ヒカリは持っていたとは思うが、決闘バッチもタダではない。ここは、決闘を申し込んだこちらが支払うべきだろう。

 俺は、ジェンツーに向かって決闘バッチを投げる。ジェンツーは、それを右手で上手くキャッチする。

「持ってりゃいいのか?」

 俺は黙って頷く。それを見たジェンツーは、背中に背負っていた剣を引き抜く。軽く剣を振ると、風を切る音が鳴る。

「先に言っておくが、手加減なしで来いよ。そうじゃないと、おまえの実力が分かんねえからな。」

 まだ一度も戦闘をしたことがないやつが、偉そうだな。一方のヒカリは、余裕がある。余裕だが、その立ち姿に隙はない。

まるで、木の枝にぶら下がる木ノ葉のようだ。こいつの戦闘スタイルは、攻撃を受け流すタイプだ。

 多分、あいつは勝てないだろうな。すると、ヒカリと目が合う。

「・・・・・・あなたは、戦わないの?」

「てめえなんぞ、俺ひとりで十分だ。とっととやるぞ。」

 ジェンツーが代わりに答える。その自信は、一体どこから来るんだ。ヒカリは、ジェンツーと向き合うと、軽くお辞儀をし、剣を構える。針のように細まった剣は、おそらくレイピアだろう。切るというより、突くための剣だ。

 先に動いたのはジェンツーだった、一気に距離を詰めると、剣を振り下ろす。当然のように、ヒカリはそれをかわし、返した右腕をジェンツーの右肩目がけて突き出す。

 レイピアの切っ先は、右肩をはずした。いや、正確にはずらされた。ジェンツーは、左手でヒカリの身体を押し、ヒカリは体勢を崩していた。

「所詮は、初心者だなあ!」

 ジェンツーは右手を返し、振り下ろした剣を振り上げようとする。すると、体勢を崩したはずのヒカリが、目の前から消えた。ジェンツーが剣を振り上げたときには、ヒカリは俺の隣に立っていた。

「・・・・・・あの人、雑。」

 ヒカリはそう言うと、歩き出し、ゆっくりとジェンツーとの距離を詰めた。やがて、歩みを止める。その距離は数メートル。どちらの間合いにも入っていない。ヒカリは、レイピアを収める。

「てめぇ、ナメてんのか!」

 ジェンツーが、ヒカリとの距離を一気に詰める。

「・・・・・・ごめんね。」

 次の瞬間、ヒカリがジェンツーを横切った。ジェンツーは、そのままその場に倒れこむ。まあ、相手が相手だし、頑張ったほうだな。

 ヒカリが振り返り、俺を見る。俺は、鞘から刀を抜く。

「・・・・・・手、抜かなくていいよ。」

 距離が一気に縮まる。ヒカリがレイピアを構え、突いてくる。レイピアの軌道は読みにくい。相手の手数が増えれば増えるほど、いつかやられる可能性が出てくる。避けながら、俺は距離を空けようとする。

 だが、相手はこちらのステップに見事に合わせて、距離を一定に保ってくる。距離をあけることができないなら―。俺は刀に左手を添え、レイピアを受ける。

 レイピアが弾かれ、相手の上半身が空く。すかさず刀を返し、振り下ろす。

 手応えはない。すぐに刀を構える。ヒカリは、数メートル先に立っていた。先ほどのジェンツーとの戦いのときといい、ただの身体能力の高さでは説明できない動きだった。おそらく、ヒカリは相手との距離を一気に離すあるいは一気に詰める能力もしくは装置を持っている。

 

 魔法が生まれたこの世界では、なんでもありだ。

 

 ヒカリは、またしてもレイピアを収める。数歩歩き、距離を測っている。おそらく、今度は相手から来るはずだ。あと、3、2、1・・・・・・

「!」

 俺は、ヒカリの刃を刀で受け止めた。力はこちらが上らしい。俺は、そのまま押し返し、刀を横に振る。ヒカリは後ろに飛び、上手く回避した。

「・・・・・・もう分かったんだ。」

 ヒカリは、刀を構える。先ほどまで、手にしていた武器は、レイピアだったはずだ。つまり、ヒカリは武器の形状を変化させることができるらしい。

「流石、だな。」

 正直、最初から勝てる相手だと思っていない。相手も、こちらの力試しをしているように見える。次は、さっきみたいに事前に見ていない。上手く対応できるかどうか・・・・・・。

「・・・・・・次は、これで。」

 すると、ヒカリの手にしていた剣が二つに分かれ、双剣になった。剣というより、ナイフと表現した方が近いだろうか、ヒカリは、またしても一気に距離を詰めると、双剣を振る。

 流石に、双剣は刀で受け止めることは困難だ。俺は、ひたすら避ける。ヒカリの斬撃は、先ほどから隙がない。呼吸をしていないんじゃないかというくらいに、一気に畳み掛けてくる。

 上に隙がないなら。俺は刀を下から振り上げる。こちらが防御困難ということは、相手も防御困難なはずだ。とくに、攻撃に集中している今なら、防御に転じることはなおさら―

 すると、ヒカリは身体をわずかに後ろにずらし、斬撃を避ける。刀を振り上げた俺は、咄嗟に刀を返し、振り下ろす。ヒカリは、横に転がり込むと、双剣で切り上げる。俺は、左手を開き、ヒカリに向ける。

 ヒカリは、水浸しになった。突然の出来事に、一瞬だが隙ができた。そのまま、刀で切りつける。

「・・・・・・魔法、使えたんだ。」

 いつの間にか、俺は首元に双剣を当てられていた。

「簡単なやつなら使えるようにしてもらった。」

「・・・・・・『流水』?」

「『青龍』だったか。」

 確か、そんな名前だった役職をもらうとき、『剣士と言っても魔法を身に付けられるものもありますけど、いかがなさいますか』と言われたので、お願いした。

 魔法を使える剣士にも名前が多種多様で、使える魔法も多種多様だった。「お勧めは、『玄武、朱雀、青龍、白虎』ですよ。」と言われたので、なんとなく青龍にした。いや、正確には青が好きだからだ。

 今思えば、『なんでも好きな役職を選べた』から、選べたのかもしれない。説明をしていた女性は、少し興奮していたような気もする。

「・・・・・・手抜かないでって言ったでしょ。」

「残念ながら、手は抜いてない。」

 ヒカリは、双剣を握る手に力を入れる。首筋から血が流れる。

 たとえ、決闘バッチを持っているもの同士の決闘で死ぬことがなくても、痛いんだろうな。そんなことを漠然と思っていた。

「・・・・・・もしかしてだけど、登録したばっかり?」

「そうだな。つい数時間前だったかな。」

「・・・・・・それで、私と決闘したの?」

「するつもりはなかったんだが、あいつが勝手に申し込んでしまった。申し訳ない。」

「・・・・・・」

「あいつ、いい加減でいつも振り回されることになるんだが、たまに面白いこと言うやつでな。『勝負は終わるまで終わりじゃない』」

 すると、俺の後ろで水柱が立つ。上手くいくかどうか分からなかったが、うまくいったらしい。ヒカリの足元に水の円を描き、そこから、水柱を噴き上げる。なかなかの勢いがあったらしく、首元の双剣が緩む。すかさず距離を取り、水柱に切りかかる。

「・・・・・・似た者同士だね。」

 ヒカリは、後ろに立っていた。俺は身を翻し、刀を振る。手応えはない。この瞬間移動の原理を理解できない限り、勝つことはできない。思わず、刀を握る手に力が入ってしまう。

「・・・・・・いいよ。合格。だから、もう決闘はおしまい。」

 ヒカリは、双剣を収めると、小さく両手を上げる。当然の終了宣言。俺は、安堵のせいか、脱力し、膝から崩れ落ちそうになる。そうか。それはよかった。流石に、疲れた。

「何言ってんだよ。まだどっちもやられてねえじゃねえか。」

 俺は舌打ちしそうになるのを抑え、声のする方を見る。いつの間にかジェンツーが立ち上がり、ヒカリに剣を向けている。

「実は、おまえももう限界なんじゃねえの。初心者相手なのに、情けないねえ~。それで、有名になったんですか~。」

 次の瞬間、ジェンツーが倒れ、目の前が真っ暗になった。やっぱり、こいつはバカだ。そう思ったのが最後だった。



 すっかり冷たくなった風が横切るのを感じる。俺は、目を覚ます。目を覚ますことができた。目を開けると、空に星が散りばめられているのが見えた。今日は天気がいい。雲一つない。

 すると、視界の端から影が入り込んでくる。俺は、思わず起き上がる。横から顔を覗き込んでいたヒカリは、その様子を動揺することなくじっと見ていた。周囲を見渡す。どうやら、決闘した広場から移動していないらしい。広場の真ん中では、焚き火がある。

「・・・・・・ごめん。」

 ヒカリが立ち上がると、焚き火の側まで歩く。どうやら、何かの肉を焼いているらしかった。

「こちらこそ、申し訳ない。わざわざ、魔物に襲われないように守っていてくれたんだろ。」

「・・・・・・別に、大したことじゃない。」

 ヒカリは、上を指差す。目を凝らしてみると、この広場を囲うように、薄いバリアが張ってあるのが見えた。一般的なテントなどはよく売られており、初心者の冒険者も重宝しているが、こんな高度技術を駆使した装置を使う冒険者は、そんなにいないはずだ。

「『ハンター』か。」

 ヒカリは頷く。ハンターというのは、冒険者の役職のひとつで、ありとあらゆる装置を駆使し、魔物と戦う。先ほどの刃が変化する武器も、このバリアも、そのひとつなのだろう。

「おい。そろそろ食い時だぞ!お!アデリー、やっと起きたか。聞いてくれよ。そいつ、人使い荒くてよ―」

 すると、いつの間にかヒカリはジェンツーの後ろに立ち、首を絞めていた。ジェンツーは、ギブギブとヒカリの腕を何度も叩く。とりあえず、俺たちは焚き火の周りに座り、ご馳走になることにする。

「・・・・・・協力、お願いしてもいいかな。」

 どうやら、先ほどマスターが言っていた『作戦』のことを言っているらしい。

「俺たちでよければ、協力させてくれ。」

 ジェンツーが口を開いたので、先に割り込ませてもらった。おそらく、「協力?おまえが仲間に入れてくださいって、お願いするところだろーが!」とか余計なことを言うつもりだったのだろう。それが証拠に、俺が割り込んだあと、軽く舌打ちするのが聞こえた。

 とりあえず、3日後に見せたいものがあるというので、3日後に例の酒場で落ち合うことになった。

 

 冒険者になった初日の夜。まさか魔物だらけの外でキャンプをすることになるとは思ってもいなかったが、それなりに順調な始まりだった。


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