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絶滅種族の転生譚《Reincarnation tale》  作者: 記角麒麟
王姫と執事 Und der Butler
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「09」変化

 彼、ニーフがチホの不在を知ったのは、それから10時間後の、午後五時だった。


「陛下とエディスタがいない!?」


 ニーフは、他の執事やメイドたちと協力して城内を探し回ったが見つからなかった。


 彼は、ついには軍すら動かして、地上の探索をした。


 しかし、そんなことは知るよしもない、午後7時の俺とエディスタである。


 俺たちは二人、下界の市場で商店街を歩いていたのだった。












「チホ様、あれは何?」


 エディスタが上空を走る列車のようなものを指差してそう聞く。


「さぁ、なんだろうね?」


 俺はそうやって適当に答えて、先へ進む。


 俺が向かっているのは、昔、俺が使っていた体育館だ。


 因みに、現在はヤマト国、旧トマヤ圏にいる。


「地形が変わってて、さっぱりわからんな」


 やっぱり、四世紀も経つと、こうも変わるものなんだな。


 そうして迷い歩くこと数分。


 どうやら、エディスタは疲れてしまったようだ。


(仕方がない、どこかで休憩でもするか)


 俺はそう思い、近くにあった小さな公園のベンチに腰を下ろした。


「チホ様、寒いです」


 エディスタが俺を見上げた。


 確かに少し冷えるな。この年頃に、あまり寒いところで長居させるのはいけないだろう。


 こいつも、猫科特性の強い種なんだし、なおさら寒いところは体に悪いだろう。


 今は春と言えど、こんなに外も暗くなってはな。


 俺は体温を最適に調節し続ける効果を付与したコートを生成し、彼女に着せてやる。


「ありがとう、ございます」


「どういたしまして」


 俺は彼女にそう微笑みかけてやる。


 しかし、こんな時間まで屋敷を留守にしていては、さすがにニーフも気がつくだろう。


 ふと、隣で腹の虫か鳴く音がした。


「腹が減ったのか?」


「はい...」


 そういえば、朝食以後、何も食べさせてやってなかったな。


 腹が減らないからと言うが、彼女はちゃんと腹の減る寿命ある生命なんだ。


 危うく忘れるところだったけど。


「たまには、何か食べに行くか」


「うん!」


 そうして、俺たちは公園を後にした。

















(適当に、どこかのレストランでもいいだろう)


 俺はそう思って、近くにあった食堂に入る。


「いらっしゃいませ。何名様でございましょうか?」


「二人だ」


「かしこまりました」


 それにしてもこいつ、幼女二人が来ているのに、なんの違和感も覚えないのだろうか?


 そう思い、周囲を見渡す。


(なるほど、そういうことか)


 ここの来客は、子供だけ、というケースが多いようだ。なるほど、違和感を覚えないはずだ。


 俺たちは、案内された席について、メニューを広げた。


「...文字が読めない...だと?!」


 そこのメニューに表示されていた文字は、大陸の共通語でもなければ、バルス国の言語でもない。


 たしか、ニーフは、トマヤはアギトと合併してヤマト国になったって言っていたか。ならこれは、アギトとかいう国の言語だと考えるのが適当か。


 俺は、異能生成を使って、あらゆる言語の理解という能力を自分に付与した。


「読めた。相変わらず、この能力はすごい」


 俺はその能力をエディスタにも付与すると、彼女にどれが食べたいか選んでもらった。
















 ほどなくして、食事を終えると、俺は自分が現在無一文であることを思い出した。


(しまった...。端末でニーフに連絡を取ろうにも、番号を知らないからな...)


 どうしようか。


 そうだ、何かアイテムでも生成して、それを代金にしようか。


 何がいいかな。


 魔石がいいか?しかし、先日の魔法技術のあれでは、確か魔法を魔力のコストを無しで発動できるようになったって言ってたし、その原動力に、たしかマギとバギのエネルギーを利用してるって話だ。


 なら、それに変わる新アイテムを提供すれば良いのでは?


 そうだな。


 例えば、魔力を凝縮させ、高密度になった結晶とかは?


 カラーはどうしようか。


 俺の好きな黒と藍色でいいかな。


 俺は巨大なそれを作り上げると、レジへとそれを持っていく。


「銀貨三枚と銅貨二枚になります」


 俺は、店員に魔石を渡した。


「お金持ってないから、これと交換で」


 店員は、それをいぶかしげに見つめる。


「石ころはお金にはなりませんよ、お嬢さん」


「ただの石ではないよ。魔石だよ。鑑定屋に持っていけば、星硬貨数枚にはなる」


「あのね?お嬢さん。これはごっこ遊びじゃないの。わかる?」


 だめだ。聞く耳を持たない。


 なら、仕方ないか。


「チホ様、どうしたの?」


「エディスタ、ちょっと待っててね。俺をたれだか、この人は知らないようだから。そうだな、あと三分くらい待ってくれる?」


「わかった」


 俺はエディスタの頭を撫でて、彼女(店員)へと視線を向けた。


「自己紹介が遅れました。俺の名前はヤナギ・チホです。知らないとは言わせないぞ、小娘」


 俺はそう言って彼女をにらむ。


 しかし、彼女ははてとした顔をして、だから何?と言わないばかりの顔をした。


(あと二分)


 俺の目は、既に未来視を発動している。


 もうすぐニーフがここに来る。


「名前がどうかは知りませんけど、こんな石ころがそんなに高くつくはずないでしょう?宝石でもないのに」


 確かに、市場で売られているルビーやサファイアといった宝石とは全く似つかないが、宝石というのは元来、ただの石ころだよ。


 そんなことも知らないのか?こいつは。


 きれいに見えるようにあれはコーティングされていることくらい、常識の範疇だ。


 まぁ、世の中には、たった一種類の金属の塊ですら、金になる物もあるのだし、知らない奴がいても、そんなに驚く必要もないか。


 俺はため息をついた。


「じゃあ何か?もっと寄越せと?」


「寄越せと言っているのは銀貨三枚と銅貨二枚です!無いなら保護者呼ぶので、念話番号教えてもらっても...」


 彼女の言葉が止まる。


(三分経過)


 ニヤリ、と俺は微笑んだ。


「陛下!こんなところにいらしたのですか!」


 ニーフが俺を見つけて、そう言った。


「エディスタ様まで連れてこんな庶民の街に...。帰りますよ、陛下」


 彼はそう言うと、俺の手を掴んだ。


「そうだな。でも少し、行きたいところがあるんだが、ダメか?」


「ダメです。明日はヒエロ様の講義があるんですよ?遅刻するなど、人界の王としての心構えがなってないと見なされますよ!」


 そうなるのか...。


 今は実家がどうなっているのか見てみたかったんだがな...。


 仕方ない。


 また今度にしようか。


「わかった。じゃあ、帰還の魔法でパパっと帰ることにしようか」


 俺は諦めて、店を出ることにした。


 言わずとも、後ろの店員は口をパクパクとさせていた。


(俺は優しいからな。見逃してやるよ)


 心の中で、俺はそう笑いながら屋敷へと戻った。

次回「10」

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