「08」親戚
「おはようございます、陛下」
俺が食事室につくと、金髪碧眼の男女が、席に座って待っていた。
俺が来たことを確認すると、席から立って、ひざまづいた。
「君たちが俺の親戚か...」
しかし、写真で見るものとは、少し違うな。
「そのように聞いております」
タケルは頭を下げたままそう答えた。
「それにしても、ずいぶんと変わり果てたのだな、ヤナギ家も」
「私たちは、分家ですゆえ」
ヒツギは肩を震わせて、そう言った。
(分家、な...)
確かに、その通りだろうさ。俺の直系は居ないのだから。
ヤナギ家は、血縁によって受け継がれる、異能を進化させる異能を持つ。
本当にヤナギ家なら、それを持っているはずだ。
俺は、それを確かめるために、持っている異能の名前を判別する能力を付与した水晶玉を作り出した。
「そうか。タケルの方はもらい子か何かかな?」
しかし、その水晶玉に能力が判定されたのはヒツギだけだった。
俺のその言葉に、彼はびくりと震えた。
「はい。私は養子にございます」
ということは、実質一人か。
「政権代理人の仕事は、どちらが?」
「私です」
タケルがそれか。
これ以上、俺の血族が減ってしまうのはいただけないな。
(ヒツギは保護するか?しかし、タケルはどうする?)
いっそ、二人に子を作らせるか?
いや、それは本人の意思に任せようか。
「まぁ、いっか。それじゃ、飯にするかな。二人とも、席につけ」
俺がそう言うと、彼らは席についた。
「あ、そうだ。俺のことは敬語じゃなくてもいいからな。なんか、最近周りが固すぎて仕方がない」
俺はそう言うと、運ばれてきた朝食を食べるよう促した。
「じゃあ、そうさせてもらうわ。...えーっと」
「チホで構わん」
「じゃあ、チホちゃん」
まさか、ちゃん付けで来るとは予想外だった。
(ヒツギ、おそるべし)
「チホちゃんは、ここで何してるの?」
「ん?何って言われても、書類仕事に勉強、他は特になにもしてないな。趣味は、今のところは風景を眺めることくらいか」
昔も、それくらいしか趣味は無かったしな。あ、たまに見るテレビもそれかな。
「へぇ、そうなんだ」
「ヒツギは?何か趣味とかあるのか?」
何となく俺はそう聞いた。
「私は無いかな。ずっと、暗いところに閉じ込められてたから...」
暗いところに閉じ込められていた?
監禁?
「虐待か?」
「まぁ...ね。でも、タケルが助けてくれるから」
親がいない理由。
最後の一人である理由は、おそらくそれの理由にも関係があるのではないか?
いや、それは聞かないとしたはずだ。
ここはあえて踏み込まないでおこうか。
「そうか。でも、ここなら、お前は安全に暮らせるぞ?」
いや、安全とか、安心とか。そういう言葉は一番警戒しないといけない単語だ。
彼女らにとっては。
「本当か?」
タケルはこちらを、少し睨み付けるように言った。
「嘘をつく理由がどこにある?まぁ、百パーセント、どこでも安心して暮らしたいのなら、家に来いって誘ってるだけだよ」
俺の横に座っているエディスタの頭を撫でながら、そう答えた。
いや、それにしてもこの子の髪。本当に気持ちいいな。さらさらしてて、かと言えばふわふわとした弾力もある。
「チホ様?」
こちらを見上げてくるエディスタ。
「どうした?エディスタ」
「トイレ行きたい」
トイレか。
俺が席を立つ訳にはいかないしな...。
よし、メアリーに頼もうか。
「わかった。メアリー、エディスタをおねがい」
「かしこまりました」
彼女は、エディスタを連れてトイレへ向かった。
「すまんな」
「んんん。大丈夫だよ。あの子、何ていう種族なの?」
ヒツギは身を乗り出してこちらに聞く。
種族か...。そういえば、何て言ってたかな...。教えてもらってなかった気がする。
「知らん。友達の曾孫だよ」
俺は背もたれに背中を預けた。
そうだな。種族名がわかるような道具でも作ってみるか。
「そういえば、さっきの水晶玉。何て言うの?見たことないアーティファクトだったけど」
「アーティファクト、魔道具のことか?」
俺は先ほど作った水晶玉を取り出して、彼女に見せた。
「この水晶玉は、俺がさっき作ったばかりで、名前はないんだよ。欲しいか?」
これがどこかに流出したところで、こちらには何の害も無さそうだしな。
「くれるの?!やった!ありがと、チホちゃん!」
それにしても、タケルは何でこうも静かなんだ?
「なぁ、タケルは何か趣味とかないのか?」
「特に何も。仕事が忙しいので」
なるほど。これは話についていけないタイプだな。
「それでは、仕事の呼び戻しがあったので、失礼するよ」
「わかった。またいつでも来いよ」
はぁ。
なんかすごいグダグダしてるな...。
俺は、部屋でごろりと転がりながら、何をしようか悩んでいた。
「チホ様、大丈夫?」
そんな俺を心配したのか、エディスタが心配そうに猫耳を垂れさせる。
(かわいい...)
「大丈夫だよ」
俺は彼女の頭を撫でる。
「少し散歩にいこうか?」
「うん!」
しかし、散歩といってもどこにいこうか。
(そういえば、俺は起きてからこの空中庭園から出たことがないな。縁まで行ってみるか)
俺は、彼女の手を取り、屋敷の外に出た。
誰にも見つからないように、透明人間になって。
「うぉっ、これはこれは」
その縁から下を見下ろすと、そこには灰色の街があった。
自然なんて、微塵もない。
遥か遠くの大森林ですら、面積は減っていて、すごいことになっている。
どうすごいかって、それはもう、都市群が森の中にまで広がっていることがだ。
「エディスタ。ちょっと下に降りてみようか?」
「うん!」
そうして、俺たちはそこから飛び降りた。




