「05」パーティー
そして、俺とニーフは件の丘に着いた。
「どうだった?この花畑は!素晴らしいだろう?」
俺は丘の上に足を伸ばして座る。
「えぇ。陛下と見るこの景色は、本当に素晴らしいです」
その言葉に、俺は顔をしかめる。
「そうじゃない。この丘から眺める風景単体で聞いているんだ!察しろ!」
「申し訳ありません、陛下」
(...なんかいまいち違うんだよなぁ。なんというか、気持ちがこもってないというか。これも、固すぎる口調のせいなのか?)
打開策をかんがえようか。
そうだな。
こういうのはどうだろうか。
二人だけの時はタメ口で構わない、とか。
(...アレ?なんかおかしいな)
「んー...難しいなぁ。そもそも、立場とかいうのを考えるとなるとなぁ...」
俺は、愚痴をこぼした。
「ご相談に乗りましょうか?」
ニーフは、俺の後ろからそう聞いた。
「んにゃ、これに関してはまた今度にするよ」
そんなことより、この景色を眺めていた方が、数倍気分がいい。
ふと、腹の虫の音が聞こえた。
「ハハッ。ひさしぶりに聞いたぞ、その音。さてやニーフ、腹が減ったろう?」
「お恥ずかしながら」
振り返ると、彼は赤くなった顔を手で隠していた。
(こういうのを、女子どもはかわいいと表現するのだろうか。俺にはいまいちわからんな)
「そう照れるなよ」
俺はそういうと、すっくと立ち上がり、服についた草葉を払い落とす。
「さて、帰るか」
「申し訳ありません」
そして、俺たちは屋敷へと戻りに行った。
屋敷に戻ると、大勢の執事とメイドたちが、俺たちを迎えてくれた。
「「お帰りなさいませ、女王陛下」」
「ただいま。そして、おはよう。なも知らぬ同胞よ」
そして、俺は彼らに招かれて、テーブルについた。
しかし。
「他には誰もいないのか?」
朝食を運んできたメイドに、俺は聞いた。
「左様にございます、女王陛下」
(それなら、向こうの丘でニーフと食べた方がまだましだったな...)
俺はそう思いながら、ふむ、と唸る。
「今日の朝食は、以上になります」
彼女はメニューを告げると、それでは、お召し上がりくださいと言って、そそくさとワゴンを持って去っていった。
(寂しい食事だな)
そう思いながら食べる朝食。
フォークやナイフが皿に当たる音が、静かな部屋に鳴り響く。
(何か対策をとらなくてはな)
食事は、本来俺には必要ないのだが、それを彼らは知らないのだろうか。
まぁ、趣味程度には食べるのだが。でも、こんなさみしいことはしたくはないな。
俺は、最後のスープを飲み干すと、さて、と手を合わせて、食事を終了したことを告げた。
「本日の予定を申し上げます」
食器が片付けられたあと、他のメイドがスケジュール表を持って、俺のスケジュールを話す。
「まず、9時から陛下のお目覚めを祝して、パーティーを。10時からこれまでの陛下の武勇伝を語っていただき、それから───。陛下、聞いていますか?」
おっとしまった。つい話が長くて眠りかけていた。
「なぜそんなことを俺がせにゃならんのだ?」
正直、パーティーとかそういうの、面倒くさいんだが。
「今回のパーティーには、リレル・トニー様もご出席なされる予定ですが、それでもよろしいのですか?」
何?リレルが?
「ねぇ、今リレルって言った?」
「はい、申し上げましたが、いかがなさいましたか?」
あいつも来るのか...。なんか、顔を会わせ辛いよなー。
「会いたくないって言えば嘘になるが、しかし、彼女に会わせる顔がない...」
「そう言うと思って、リレル様から手紙を預かっておりますが、どうしますか?」
なっ?!......こいつ、やりおるな。
「よ、読んでくれ」
「かしこまりました」
彼女はそう言うと、一枚のカードを取り出した。
「それでは、思念を具現化させます」
そう言って、彼女はカードをタップした。
すると、カードの上に、ミニチュアなリレルが現れた。
「?!」
『驚いた?』
「あ、ああ。驚い─」
『先に断っておくけど、ここに表示されているボクとは、会話できないから理解しておいてね!』
「あぅ///」
くっそぅ、リレルの奴!
『では、改めて。おはようチホ!全く、お寝坊さんだね。君の両親や家族は死んじゃったっていうのに、君はボクだけをおいて眠っちゃうんだもん。ボクがどれ程寂しかったか。今の君には、想像もできないだろうね』
(うっ...悪かったよ)
俺は心の中で詫びを入れる。
『──とまぁ、そういうことだよ。だからチホ。顔を見せてね』
彼女は手紙の内容を全部話終えると、カードの中に吸い込まれるようにして消えた。
「......わかった。行くよ」
俺はそう言うと、席を立った。
「それでは陛下、あと三十分ほどで準備を終えてください。会場までは、私ことメアリーと、陛下のお世話係のニーフがお連れいたしますゆえ」
彼女はそう言うと、スカートの端をつまんで、軽く膝を曲げて礼をした。
「わかった」
そうして、俺は一度着替えに部屋へと戻った。
次回「06」




