「02」無駄話、与太噺、御伽噺
「君という人は本当に、何がしたいのか、さっぱりわからないよ」
白い部屋の中、俺は、彼女と共に、この部屋に籠っていた。
「そろそろ起きたらどうなのよ?」
「起きてしまったところで、俺が復讐という遊びを終わらせたことで、次からは何をすればいいんだ?もう、俺の物語はめちゃくちゃだ...」
何をしたところで、結局は無意味。
それを成したからと言って、それを称えられたからと言って、結局は、虚無の泉に沈んで、無くなってしまう。
在ることが無いことと同じだ。
「そんなことは端からわかりきっていたろうが。今さら何を?」
「わかってしまったから、俺は前に進めないんだ。もう、終わりなんだよ。全てわかってしまったから」
こうなってしまうことの、三ヶ月前。
俺は、すべての異能を解放して、そして、簡潔的に、戦いを終わらせた。
一言でいってしまうならば、黒幕とやらを引きずり出して殺した。
呆気ないものだった。
最終的に得た、異能を作る異能。これを利用して、殺した。
本当に、何もかもつまらない。
だから、俺はこうして、つまらないままにしていた。
何でもできる。できないことはない。
知らないことすらない。
ゼウスの悲劇とも言えよう。
何でもできるがゆえの退屈は、この超回復力によって、強制的に生かされているこの退屈は、本当に、悲劇だ。
最初は、楽しかった。
何でもできるがゆえの万能感は、本当に楽しかった。
しかし、それは同時に退屈を作った。
今なら、クレアの言っていた存在しない物語の意味がわかる気がする。
本当に、つまらない。
「言うことはわかる。わかるけどさ...」
今となっては、もう、なにもない虚無感にとらわれて。
何でもできるはずなのに、何もできない矛盾。
「なぁ、俺はどうすればいい?」
俺は、何をして生きればいいんだ。
なんの思考も嗜好も志向も無くなっては、本当に無しか残らないではないか。
いや、無が残りさえすらしない。
「それは...」
本当に、何のための世界なんだか。
時間の感覚がわからなくなってきた。
一年を越えてから、俺はもう日数を数えることをやめた。
外の世界は、そう変わってはいないことは、見ずともわかる。
不死とは本当に辛い。
そこに、全能が重なったのだ。
いや、全能ではないか。
死ぬことが出来ないのだから。
この理不尽で不平等な世界で、唯一平等に与えられる死すら、俺には与えられてはいない。
長い月日が流れる。
辛い地獄だ。
ふと、俺は外の世界を見たくて、夢から覚めてみることにした。
しかし、ずっと逃げてきたこの扉は重い。重すぎる。
ずっと、向こうでの俺の体の世話をさせてきた従者には、大変な思いをさせただろうな。
そう思う度、重い扉はさらに重くなる。
そして、いや、しかしついに、俺は扉を開けた。
重い扉を開けた。
「...どれくらいたった?」
声がかすれている。
とりあえず、俺は水を生成して飲む。
腹は減っていない。不死になった頃から、腹はすかなくなった。
赤い目を擦り、部屋を見渡す。
埃一つ無い、綺麗な寝室。
そして、俺のそばにいる、一人の執事服を着た、赤い髪の少年。
彼は、俺の方に目を向けると、少し驚いた様子で、こちらを見た。
「も、申し訳ありません。女王陛下。現在で、陛下がお眠りになった時間から、約四百年が経ちました」
「四百?!」
しまった。
と、そのときは思ったが、しかし、何がしまったなのかは、すぐにわからなくなった。
「左様でございます」
しかし、こいつは誰だ?
従者の反応が無いってことは、俺のじゃないし、それに...この赤い髪と、この目は...。
(いや、まさか)
「きみ、名前は?」
「オリガヤ・フレア・ニーフです」
オリガヤ・フレア・ニーフ...。
予想はしていたが、まさか、こいつがチゼとフレアの子孫だとは...。しかし、あいつら、いつのまにそんな関係に...。
「そうか。なるほど、チゼとフレアの...」
俺は起き上がると、彼の顔を眺めた。
ふむ。どことなく面影はあるが、こうしてみると奇妙なものだ。
フレアとチゼの色はあるのに、それ以外のものも見受けられる。他の人間の色だ。
「は、はい。陛下」
しかし、この陛下という呼び方は気になるな。さっきは女王、とか言っていたが。
「ニーフとやら。その陛下とはなんだ?」
「陛下とは、あなた様のことにございます。ヤナギ・チホ女王陛下」
「俺が?女王だ?」
彼は首を縦に振る。
「はい。死神、リュウ・アッザイランドを秒殺したその力を称え、四国連合、及び旧アシロ帝国、旧トマヤ国、旧アギト国の四ヵ国が、貴方に王の位を譲与し、現在では、あなた様がこの人界の頂点に立たれております」
そんなことがあったのか。
「旧トマヤとか、旧アギトとか言っているが、今はどんな国名になっているのだ?」
「現在は、旧トマヤと旧アギトが合併し、ヤマトという名前の国になり、旧アシロ帝国は、二百年ほど前に、ツイド帝国を戦争によって吸収し、現在はネロ王国と名乗っております」
そんなことがあったとは...。
いや、これだけ時が立てば、そりゃそうもなるわな。
変わらない方がおかしい。
(それにしても、人界の王とは。俺がそんなところに立っていたとはな...)
なんとも不思議な話だ。
「して、ニーフ。お前の仕事はなんだ?」
しかし、俺は従者に俺の世話を頼んだはずだ。
それなのにそれがいないとなると、疑問が生まれる。
「陛下のお世話にございます」
「それは俺の従者に頼んでいたはずだが?」
俺は彼から顔を離すと、目を細くして聞く。
「従者様たちにも、寿命がございます。先先代の時に、消滅なさいましたと、私は聞いております」
そうか。あれにも寿命があったとは、初耳だな。
そういえば、あれには超回復は与えてやっていたが、ふむ。効果が切れたのか。
「なるほどな。あれは死んだのか」
と、なると、ここにはもう俺の知っているものはいないだろうな。
「現在の暦は?」
「ウェイデンバーム暦400年にございます」
ウェイデンバーム?何語だ?
俺は、言語辞典を生成して、検索をかける。
「ウェイデンバーム、ツイド帝国の言葉か。意味は柳の木、ねぇ。またこれは捻りのない...」
俺は生成したものを消去すると、少し目をつむった。
(さて、何をしようか。暇だな)
「あ、忘れるところでした。女王陛下。ご先祖様にあたる、フレア様とチゼ様から手紙を預かっております」
手紙、か。
読むのが少し恐いな。恐ろしい。しかし、彼らはもういないのだ。遺言だと思って読むとするか。
「それを見せてくれないか?」
「かしこまりました。では、代読いたします」
「違う、俺は寄越せと言ったんだ」
「申し訳ありません。どうぞ」
彼は懐から、一通の手紙を差し出した。
俺は、それを手に取り、読み進める。
古びた紙は、所々茶色くなっており、読みにくい場所もあるが、復元させるので問題はない。
長々と書かれた、心配の言葉と、怒りの言葉、それに、思い出を語る言葉に、彼と彼女の結婚の話。
幸せに満ちた内容と、俺もいてくれればよかったという後悔の文章。そして──。
いつしか、俺の目には涙がたまっていた。
こうなるくらいなら、起きて、向こうに一緒に居たかった。
後悔した。
俺は、もう。
あのときには戻れないのだから、仕方がないと思っていても、やはり、本心は違うのだろう。
俺は、それを痛感した。
「へ、陛下、大丈夫ですか?!」
「あぁ。心配ない。ありがとうな、これを俺に見せてくれて」
そして、俺はひとつ、決意した。
この無駄話は、絶対に俺が最後まで読みきってやろうと。
次回「03」
ティータニアの進化表
分身
↓
分身転移
↓
変身
↓
変型
↓
従者召喚
↓
従者間固有情報共有
↓
生贄魔術
↓
悪魔召喚
↓
従者魔女化
↓
従者魔人化
↓
従者魔神化and物質消去
↓
不死化
↓
人神化
↓
万物創造(NKI 生成)
↓
異能生成final




