「09」チホの企み
「チホ、こんなこともできるんだ....」
ワープベースにつくと、しばらくの間、リーシャとコナタは呆然としていた。そして、しばらくの沈黙のあと、リーシャはそう切り出した。
「まぁな」
「まぁな、じゃありません!」
「う....」
コナタの怒声に、俺は少し戦いた。
「チホってほんと、なにものなの?」
リーシャがそう言って、ふと何かを思い出したように言い出した。
「全くもう、師匠ってば....」
どうやら、怒りは収まったらしい。
いや、そもそも怒ってなかったのかもしれないが。
「あれ、そういえば、さっきから何か忘れてるような気がするんですけど、何でしたっけ?」
数秒の間。
沈黙の間の後に、三人は思い出した。
「「「荷物置きっぱなしだ!」」」
その後、俺はコナタをパシらせて荷物を持ってこさせた。
「じゃ、どうする、この後。せっかくだし、暑いから服装このままで稽古でもする?」
俺がそう切り出すと、コナタが不服そうな顔をして俺にこう言った。
「師匠、いくら隠密魔法の練習だからと言って、水着で取りに行かせるのはあんまりだと思うんです」
隠密魔法とは、簡単にいうと透明化の魔法が、自分の姿を光が透過させるのに対し、この魔法は存在感を極限まで薄くして、周りに気づかせないようにする魔法だ。
欠点としては、ぶつかれば見つかってしまうことぐらいだが。
「ん?まぁ、あれくらい余裕でできてくれないと、最終課題は到底こなせないだろうからな」
そっけなく答えるチホに、リーシャは、私はできるよ?と自慢げに言ってくる。
(それに、あれは魔法を使わずにできるようにならないといけないものだし)
俺は、リーシャの頭を撫でると、話を続けた。
「それで、稽古だけど、どうする?やるの?」
俺は彼女たちの答えを急かす。
「んー、じゃあやろっかな」
リーシャはそう言うと、ワイシャツをそのままにして水着を脱ごうとするが、俺はそれに待ったをかけた。
「何?」
「それはさすがにエロい....じゃなかった。今日は暑いから、このままでやろう。痛みの耐性もつけないといけないしな」
「わかった」
俺がそう言うと、リーシャはそれに賛成した。
「コナタは?」
「やります!ただし、待ってる間だけでも胴着を着させてください!」
コナタはそう頼みながら、自分の胴着を手に取る。
「お前、待ち時間になる度に水着を脱ぐのか?めんどくさいだろ?」
普通、胴着というのは裸の上から着るものだ(と習った)。
しかし、この胴着は、ノルス製の衝撃吸収作用のある特殊な下着をつけ、その上から着ることになっているのだが....。
「水着の上からはダメですか?」
「まだ水にも濡れてないし、わかった。リーシャはどうする?」
「あついからこのままにする。どうせ、ここにだんしはいないし」
(俺、前世から心は男なんです。すみません、銭湯に行く度に変な気持ちになるの押さえられないんです!)
とまあ、そんな心の叫び(空耳だと思ってくれ)は無視して、彼女は上に着ていた猥シャツ....じゃねぇワイシャツを脱ぐ。
(ヤバい....卑猥だ....)
中から、小さな白い水着に包まれた幼ない体が現れる。
「何?」
「いや、ワイシャツは脱がなくてもいいんだけどな、って思っただけ」
俺はそう言うと、着替えないまま、体育館の方へ歩いていった。
だって、そのままでも十分にエ(ry
稽古、と言っても、やっていることと言えば、最初の準備体操、走り込み、型の復習と改良、一対一の組み手、その次に俺からのアドバイス、そして大森林での魔物狩りだ。
「──!」
無音の気合いをのせて、リーシャがコナタに突きを繰り出している。
俺が行っては、勝負にならない。かと言っても、リーシャの方が圧倒的に強いのだから、大抵すぐに終わる。
勝負にならないけど、それで相手の欠点を見いだして、教えることくらいは可能だ。
外から視ることも、十分に必要事後だ。
そして、突然のことに対応することも、彼女らには求められる。
わるだくみをするような(実際にそうなのだが)笑みを浮かべ、俺は端末を操作した。
とあるSNSで、ケントを召喚したのだ。
ケントは、俺の兄で、マロックスと一人で相手することができる素手でも戦える剣士だ。
彼は今年で20歳になるが、俺には一度も勝てたことがない。
何故なら、俺がそういう風に細工をしているからだ。
え、ズルい?実戦じゃそんなことは関係ないよ。
閑話休題。
実力を見れば、コナタとケントは同じレベルだ。
多分いいものが見られるだろう。
しばらくして、体育館のドアが開けられる音が聞こえた。
「チホ、頼みたいことって....!?」
「け、ケントさん!?」
「なっ!?」
おそらく、ケントの目には、水着を着た幼女と、はだけた袴をエロチックに着飾る後輩が、その幼女に踏まれている、そんな構図が目に入っただろう。
「にぃ!」
俺はケントのところへ駆け寄った。
(計画通り!)
俺は心の中で、新世界の神のような顔をした。
次回「10」