「04」変身騒動
あの夢で発覚したことを、俺は一人、屋敷内の個室で考え耽っていた。
ヤナギ家の、異能を進化させる異能。
これは、彼女曰く、異能の中でもレアな存在らしい。
それはそうだろう。
後天的に受け継いだ異能が、その域を脱して進化していくのだから。さらに言えば、後天的に異能を引き継がなければ、この異能は大して意味をなさない。
つまり、所持していても、それに気がつかないことが大概なのだ。
俺の場合は、ティータニアによる分身という異能が、その進化の対象となっている。
その証拠が、分身転移だ。
たしか、次は変身って言ってたな。
彼女からもらった知識を、全て図に纏めると、最終的には異能を作ることができるようになるらしい。
凄く楽しみだ。
(試してみるか)
俺は、知識として記憶へと彼女から送られた『変身』を試してみることにした。
(自分より背が高いものは無理なんだよな。何にしようか)
ああ、度々思うが、低身長は都合が悪いな....。
....そうだ、猫になってみよう。自分より身長が低いし、何より俺の一番好きな動物だし。
やってみよう。
俺は、目を閉じ、分身転移を行うイメージを始めた。
転移先の座標は、原点である自分自身。
姿形は黒猫。目は黄色で、すらりとした脚と尾をもつ美猫。
転移をショートカットして、自分の姿を変更させる。
一連のイメージを連動させて、体内の力に呼び掛ける。
(これで、どうだ!)
俺は、閉じていた目を開いた。
「....」
しかし、何も変わらなかった。
「おかしいな。手順はあっているはずなんだが....」
再度試みるが、やはりうまくいかない。
出来ないだろうと思いつつも、何回も挑戦していると、漸くそれに変化が訪れた。
「....」
暗い。
(成功した?)
俺は自分の体を見下ろした。しかし、見えるのは、真っ暗な闇だ。
こんこんこん、と扉をノックする音が聞こえる。
(誰か来た。まずい、こんなところを見られでもしたら、たぶん、面倒なことになる!)
「チホ、聖夜祭の武道会のことなんだが....チホ?」
この声から判断するに、どうやらフレアのようだ。
まだ扉が開く音はしていない。早く元の姿に戻れば....。
そう思ったときだ。
「チホ、入るぞー....って、なんだ?これ、チホの服だよな?なんでこんなところに脱ぎっぱなしにしているんだ?」
し、しまった!まずい!まずいまずいまずいまずい!
「ったく、服を散らかして。あいつはやっぱり見た目通り子供だな....って、何で猫?」
「にゃ、にゃーっ!」
誰が見た目通り子供だ!と叫んだつもりが、なぜか猫の声になっていた。
(まずい、舌だけは人に戻さないと喋ることができない!)
俺は意識を集中して、舌の形をもとに戻そうと試みる。が、しかし。
フレアは、床に脱げ落ちた俺の服を手に取ると、その中にいた猫(俺)を抱き上げた。
「何でこんなところに黒猫が....ま、いっか。だめにゃよー、勝手にチホの部屋に入ってきちゃぁ」
彼女は、俺の頭を撫でながら、そんな風にはなしかける。
その表情といったら、いつもの硬い感じの顔とはうってかわって、にぱぁ、という擬音がお似合いの満面の笑みだった。
(フレアって、こんな喋り方するんだな。意外だ)
それにこの表情。
(....かわいすぎる....)
フレアは、俺の体をひょいと持ち上げると、窓を開けて、外に俺をつきだした。
「みゃ、みゃしぇ!はやみゃゆな!」
(ま、まて!はやまるな!)
まだ完全に舌の形をもとに戻しきれていない状態で、俺はそう叫んだ。
じょ、冗談じゃない!ここ三階だぞ!?例え猫でも、この高さから落ちたらさすがに死ぬだろ!?
「....?チホか?そうか、チホの猫なのか。すまん、それは悪いことをした」
「悪いことをした。じゃねぇよ!?俺だよ、俺!」
「何言ってるんだ、チホ?隠れてないで出てきてくれよ」
彼女は、俺を部屋の床に置いて、辺りを見回す。
「隠れてねぇよ。ここ!足元!」
ヤバイ、ホントに死ぬかと思った....。
「足元?猫じゃん」
「いや、その猫が俺なんだって!」
俺は、変身を解いて、元の姿に戻る。
「あーっ!?チホ!」
「あーっ!?じゃねぇよ!死ぬかと思ったぞ!」
俺は、フレアが退かした服の方へ行き、服を着る。
ったく。
「チホ、どうしたんだ、そんな猫に変身して?」
「ちょっと試してたんだよ。ティータニアの新しい能力を」
俺は、服を着終えると、机の上のメモをフレアに見せた。
「ティータニアって、たしか、分身の能力を得た、あれだろ?それがどうして、変身になるんだよ?」
フレアは怪訝そうにしながら、俺に説明を急く。
「長くなりそうだが、いいか?」
そして、俺は夢の話を、生前の俺とかの情報は伏せて、全て話した。
だって、たまに一緒に風呂入ってたりしていたんだぞ?それが急に、実は生前男で、現在もその記憶が残ってましたー、なんて言ったら、多分何か色々とおしまいになってしまいそうじゃん?
「──というわけだ」
「....短く纏めると、ヤナギ家の異能が、ティータニアの分身の能力を進化させた結果、変身という能力が使えるようになった、ってことだな?」
(こいつ、俺の説明をさらっと一文で終わらせやがった)
色々考えに考えてひねり出したというのに、こいつは....。
少し敗北感を覚えながら、俺はそれを肯定した。
「まぁ、そういうことになるな、うん。あ、そういえば、何か用事があって俺のところに来たんじゃなかったのか?」
俺は椅子に座りながら聞く。
たしか、聖夜祭がどうこうと言ってたっけ。命の危機すぎて、忘れてしまっていた。
「ん、ああ、そうだった。聖夜祭の武道会なんだけど、行く?私は出場する予定なんだけど」
聖夜祭の武道会は、その国の首都圏にあるコロシアムで行われる。
そのため、いつもこの頃になると、やや交通網が麻痺しがちになるのだ。
あ、しかしそういえば、四国がひとつの国になった今だと、首都圏ってどうなるんだ?
「なあ。それ、どこで開催するんだよ?首都圏でやると言っても、この国は四国がひとつになったんだぞ?それもほんの数週間前に」
「それなんだが、メリゴ地区のコロシアムが、比較的無事だったってことで、今回は纏めてそこで行われるらしいぞ。行くなら明日くらいからでないと、多分間に合わないぜ?」
メリゴ地区か。
ほんの数週間前までは、メリゴ王国という、王政の国だった。
大陸の最南端に位置する温帯の気候で、南北をメリゴ山脈に分けられており、北メリゴと南メリゴに分かれている。
たしか、南メリゴのサウスポートと呼ばれる大きな港街から、バルストリクトーニ国との貿易船が出ていたな。
おそらく今は停止しているだろうが、頼めば出してくれる船もあるだろう。
(まぁ、別に行くわけではないけど)
「そういえば、メリゴのコロシアムは南にあるんだよな。となれば、メリゴ山脈を越えていくわけか....」
確かに、あそこなら異次元人たちの侵略から免れたことに納得もいくな。
「どうする?」
「わかった。俺も参加するよ。ところで、他のみんなは?」
「リレルとククルんは行かないって。オルメスはトマヤに帰るんだと」
「へぇ。リレルとククルんは行かないんだ」
「リレルは、五十才以上参加禁止ってところで、入れないから悔しいって言ってたよ。ククルんは、単に面倒なだけらしいよ」
リレル、見た目は十歳位なんだし、ばれないだろ。律儀な奴だな、本当に。
「オルメスは帰るって言ってたけど、どうして?」
「聖夜祭は家族と過ごすんだと。今日の午後にコナタさんが迎えに来て、そこでケントさんと入れ替わるんだとさ」
彼女ははぁっと、息をついて、カーペットの上に寝転がった。
「チゼが楽しみにしてたぜ。また戦えるって。あいつ、どこのバトルジャンキーだよ」
そう言って笑いあう二人。
そうこうしている内に、時刻は夕方の5時になった。
「そろそろ来る頃だな」
フレアはニヤリと笑いながら、勢いをつけて起き上がる。
「そういえば、コナタは何でこっちに来るの?飛行機?」
「とは言ってたな。まあ、大森林を挟んで来るんだ。アシロでも経由するか、徒歩かモノレールでないと、こっちには来れなさそうだしな」
「だな。今はモノレールは復旧作業中だし、徒歩だと迷子になるな」
ハハハと、笑い声を上げる俺。
「さて、そろそろ下に行くか」
「そうだな」
そして俺たちは、オルメスを見送りに地上へ降りるのだった。
次回「05」
ティータニアの進化表
分身
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分身転移
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変身new
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