「01」聖夜の前に
ある日のことだ。
もうその頃には、既に魔具の作り方は庶民に知れ渡っており、その情報の回収が困難になったという理由で、諦めの連絡が鑑定屋の彼から入った。
結果、報酬の副産物としてアマイ・サクから七大罪魔法の原理を聞き出すことができなくなった件については、少々残念な気もするところである。
「そういえば、来週は聖夜祭だったな」
チゼが思い出したかのように、リビングでくつろぎながらそう言い出した。
「もうそんな頃か」
聖夜祭というのは、元は12月25日から翌年の週末までに行われる、聖騎士と呼ばれる人たちが、その技量を確かめ合う、剣術大会だったのだが、それがいつしか、庶民でも入場できる、大きなお祭りへと変化したものだ。
そして当然、その剣術大会の名残か、毎年この頃になると、各国の首都圏では、武道会が催しされる。
「チゼは出たいのか?武道会」
フレアが紙に何かを書きながら、そう聞いてくる。
「まぁ、俺ももう一度、ケントさんと戦ってみたいしな。あの人が出るなら、俺も行こうとは考えてるけど」
「それなら、体育館に行けばいいだろ?たまに居るじゃないか、あそこ」
俺はテレビを見ながら、そう答えた。
「そんなことしなくても、携帯で連絡すればいいじゃない」
ククルんが隣から俺にそう言う。
「連絡先がわからないんだよ。そういえばヤナギ、ケントさんの妹だったよな?」
「まさか、連絡先を教えてほしいのか?」
(まぁ、それくらいなら別にやってやらんでもないが)
俺はそそくさと端末を取りだし、アドレス帳を開く。
「あ、いや、まった。やっぱいい」
チゼは俺に待ったをかけた。
「どっちなんだよ?」
俺はチゼの顔を見上げて、少しむすっとした表情をした。
そんなことをしていると、玄関から来客を告げる音が来た。
「俺が行ってくる」
そう言って、俺はその場を後にした。
玄関につくと、扉の外から、聞きなれた声が聞こえた。
「まだかなー、まだかなー、私のかわいいお嫁さーん。うふふふふ」
ドアの取っ手を取ろうとした俺の手が止まる。
(この声、まさか)
「どうしたチホ?私の嫁よ!速く鍵を....って、空いてる」
ガチンと、金具の折れる音が響き、ドアノブが勝手に回る。
「この怪力女!扉弁償しろ!」
俺はその扉が開ききらないように背中で扉を押さえつける。
「え!?もしかして私、うっかり壊しちゃった!?」
「うっかりで扉の鍵を壊す奴があるか!」
「で、でも良かった!これで私は、いつでもちーちゃんの懐へ入り放題ってことが証明されたんだもんね!」
「良かねぇよ!?てか恐えよ!なんだよ、いつでも懐に入り放題って!」
じりじりと扉ごと俺は押され続ける。
(くそ、このままだとやられる!)
半ば意地になりながら、俺は扉を押さえつけるが、力の差なのか。俺は彼女の怪力によって、扉ごと吹き飛ばされた。
「──って、あれ、軽くなった」
何事もなかったかのように、すっと入ってくるルーナ・ペンドラゴン。
「軽くなった、じゃねえよ!扉弁償しろ!」
確かに、体格的な差はあった。しかし、だからといって扉後と破壊されて侵入されるとは予想外も大概にしてほしいものだ。
彼女は喚く俺を確認すると、ちーちゃーん!と叫んで俺の上へとのし掛かる。
「ちーちゃん、スー、ハー、スー、ハー。ちーちゃんの臭いがするぅ~。ハァ、ハァ、ハァ」
くそ、片腕だけじゃ押しきれない!それに、なんだか力が抜き取られていく様な──。
「ルーナ!お前、俺に何をした!?てか、嗅ぐな!あとちーちゃん言うな!」
「へっへ~ん。ペンドラゴン家の秘技、エナジードレインですが何か~?ねぇちーちゃん、そんなことより私とベッド行かない?あ、先にお風呂にする?」
俺の言葉を半分ほど無視して、彼女はそうまくしたてる。
彼女が俺の匂いを嗅ぐたびに、その力がどんどんと吸いとられていく。
なるほど、これがエナジードレインか....。
(エナジードレイン、恐るべし....!!)
そんな朦朧とした意識の中、俺の視界に、おろおろとしているオルメスの姿が映った。
おそらく、玄関の方で叫び声が上がっていたので、様子を見にやって来たということだろう。
「あ、あの、チホ。その子とは、どういう関係....なの?」
俺は、その光景を最後に、気絶した。
最近、気絶する回数が増してきている気がするのは、気のせいじゃ無いよね?
次回「02」




