「22」黄泉帰りの使徒 エピローグ
俺とチゼとの信頼関係は、一歩進んだものとなった。
いや、別に変な意味じゃない。
今までかりそめの仲間だったような雰囲気から一転して、本当の仲間になった。そんな程度のものだった。
だが、俺としてはとてもそれが嬉しかった。
心のそこからそれを信用してくれる。こんなに嬉しいことはなかった。
その後、地上への攻撃の雨がやんだことを見知った軍部は、持てる最大の技術力を用いて、それをテンブ砂丘郡へと移動させる計画をたてた。
しばらくは上空にあれがあるだろうが、数年もすれば元の青い空が見えるだろう、とイルス国の王女、イーグス・カルスティナ・イルスは、四国へ向けてそう発信した。
地上に降りて来ていた異次元人は、俺の知るところによれば、全員無事討伐されたと判断されたらしい。
しかし、彼らによって破壊された都市は、復旧に時間がかかるだろうとのこと。
そこで、チャリナ、イルス、イガラシ、メリゴの四国連合は、協力して復興に当たりやすくするために、丸々ひとつの国へとまとめあげられることになった。
そしてその影響で、歴史上初の四天王制が実施されることになった。
四天王制とは、一つの国を、四人の王によって治める制度で、それにより四つの政党を同時に実施する、政党経過実験が連動して実施され始めることとなった。
しかし。
「腑に落ちないな」
俺は一人、半壊した空中庭園を眺めながら、そう愚痴た。
「まあまあ。爵位制度が無くなったのは、ボクも理解はできるよ?そのせいで、こっちの復旧が後回しになるのも──」
俺の言葉に、リレルは慰めの言葉をかける。
「しかしだな?俺たちの被害総額が星硬貨14枚分(1千万円相当)は優に越えているぞ?アシロ硬貨(一般硬貨の2.5倍)で星硬貨14枚(2千5百万円相当)もあり得る」
地面として使っていた浮遊石だけでその額なのだから、シーデートばかり育てていたから、屋敷の中の種の損害も合わせれば、その被害はさっきの倍はありそうだ。
気の遠くなりそうな額に、俺は心底ため息をついた。
良くいえば、これでも損害は小さい方だ。
もし本格的な破壊が成されていれば、優に日本円で京の位にまで及んでいた可能性すらある。
そう思えば、ここを守ってくれたオルメスとコナタには感謝だな。
俺は被害総額の大きさに嘆きながら、その焼けた地面に腰を下ろした。
「あはは。で、でもほらさ、イーグス様だっけ。旧イルス王家....今は四国連合の四天王で、イルス区域の女王なんだっけ。土地の修復は税金で出来る限りの対応はするって言ってくれたじゃん」
そうなのだ。
あのあと、俺とチゼが地上に降りて、地上の家に戻ってきたとき、玄関の前で彼女は「土地、災難でしたね。良ければ『片腕の英雄』様、私たちが税金で何とかしましょうか?」と、唐突に、タイミングが良すぎるくらいにそう提案してきたのだ。
全く、王族とは思えない位の行動の速さである。
「そうだけどさぁあ?結構気に入ってたんだよ。あの紫色の花畑とか、水樹から流れる川とかさ?」
ショックなんだよな。
まぁ、この程度ですんだのは、コナタとオルメスのお陰なんだけどな。
再度彼女たちに心の中で礼を述べて、伸びをした。
「まぁ、よかったじゃん。後でコナタさんとオルメスにお礼しないと」
リレルはそう言って、潰れた屋敷の方へ足を向かわせた。
少しの修復なら、回復魔法でなんとかなるのだが、下手に弄ってしまうと、完全に直らない可能性があるため、迂闊には手が出せない状況なので、魔法で何とかしてしまえ!は、論外なのである。
そもそも、俺の魔力量じゃこれを直しきれない。
「嗚呼、残念だ」
俺は一人、空を見上げてそう言うのであった。
だって、税金で賄うって言ったら、このひどい時期にかなりの速度で税率が上がっちゃうんだもんな。
二重の意味でそう呟く俺であった。
黄泉帰りの使徒 ━終━
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