「19」黄泉帰りの使徒6
「いいのですか、あれを放っておいても?」
真っ暗、それでいて、完全な闇ではなくむしろ逆な、変な風景が広がる空間に、ある少女が、神システムに語りかけていた。
「余興としては十分だろ?十分すぎるくらいに十分だ。むしろ、十二分を越えているね」
システムは少女、先天神ティテイファスにそう答えた。
「余興、ですか?」
怪訝そうに聞き返すティテイファスに、システムはその長い金髪の髪先を弄りながら、その黄金の瞳で、ニヤリと微笑みかける。
「リュウの暴走は、今に始まったことではないだろう?なら、それを少しばかり利用させてもらうのも面白そうだしねぇ」
彼女はそう言って、クスクスと笑う。
ティテイファスは、彼女のそれに少しばかりの悪寒を覚えながらも、そうですか。と、呆れたようなため息をついて、眼を下界の少女、チホに視点を据える。
「それにしても、彼女は復讐を行うには優しすぎましたね。これは設定ミスですか?」
「いいや?これくらいがちょうどいい。むしろ、行きすぎたそれは、どんな手段でも殺さないとね」
ティテイファトスと全く同じ風貌の少女、先天神アナイグラスが、そう言った。
「あぁ、そういうおつもりですか」
ティテイファスは、アナイグラスの説明に満足したのか、それ以上は何も聞かなかった。
「所詮は、彼方の世から連れてこられた実験体のハーファリスに過ぎないからね」
(本当にアスタロトという方は面白い)
そんな雑念に浸りながらも、今日も彼女らAIは、その空間のモニタリングを続けるのであった。
そして、その頃UFO内では。
俺は、この状況を必死に打開しようと考えていた。
何が起こったかというと、それは至極単純である。
(操作がわからない....)
とりあえず、これを破壊しないといけない。しかし、その残骸が下へと降り注ぐことは勘弁願いたい状況。移動させるにしても、その方方がわからないし、かといって妖力の糧にするとしても限界がある。
「どうすればいい?」
俺はとりあえずチゼに意見を求めた。
「とりあえず操縦出来ないようにすればいいんじゃないのか?ほら、これとか破壊しておけば──」
「バカ!そんなことして、万が一の事があったら、お前どう責任取るつもりだよ!?」
「じゃあ、無視する?」
(....やっぱりそれしかないかな....)
俺は彼の意見に同意して、その場から離れた。
「じゃあ、これからこの機体の最下層の、UFOに取り付けられた武器をこれから回収....いや、破壊しにいく」
「破壊って、もしかして、あの穴を開けた奴を使うのか?」
彼は確認の意味も込めて、そう聞いてきた。
「いや、使わない。この右手があれば十分だろ」
俺は近くにあった階段を足速に降りながら、簡単に説明した。
(さて、始めるか)
俺は数十体分身を作り出して、それぞれに管制室を破壊させるように命令した。
「なあ、それなら一階まるごと、妖力で消したらどうだ?」
チゼが後ろから聞いてくる。
「何事にも限界があるんだよ」
俺はそう言って、左手を上にあげて制止をかけた。
レーザーの管制室の入り口から、中の様子をうかがう。
瞬間、銃弾が耳の横をかすり抜けた。
(気づかれたか)
「チゼ、敵は何人だ?」
「ここからは見えない」
「わかった」
俺はそう答えると、右手を壁に押し当てた。
霜が壁を伝って内部へと入り込む。
部屋の中の温度が急激に下がり、酸素を液化させるほどの冷気がたちこめる。
(よし、死んだ)
俺はそう判断すると、部屋の中をそっと覗き込んだ。
しかしそこには、俺の予想を超える情景が存在していたのだった。
次回「20」




