「18」黄泉帰りの使徒5
開いた穴の直径は、約一メートルと半分。
深さはだいたい二百メートルってところだろうか。
「思ったより浅いな」
俺はそう呟きながら、穴を覗き込む。
「....なぁ、これからどうする?」
「どうするも何も、ここから降りて管制室へ直行、テンブ砂丘郡まで移動させて、墜落させる」
「民間人は?」
「今ごろは分身が全部片付けているはずだ」
そう言うと、俺は捻れた右腕を見つめた。
先程の衝撃で、さっきより状態が悪化している。
これ以上悪化されると、移動に支障が出るだろう。
「ふんっ!」
バキリという音を立てて、その腕を肩から引きちぎる。
おそらく、一部神経が壊死しているのだろう、激痛が走るが、耐えられないほどではなかった。
「なっ!?お前なにして──!」
それを目の当たりにして、チゼが叫ぶ。
「何、簡単な治療だよ」
俺は憤怒の影響をおそらく受けていないであろう部位まで切り落とすと、回復の魔法をかける。
すると、腕は再生しないものの、傷口が閉じ、出血が止まった。
「──これでよし」
少し平衡感覚が狂うが、それも直に慣れるだろう。
「ぜんぜんよしじゃねぇよ!痛々しいにもほどがあるわ!」
「何を言う?こっちの方が全然痛くない。むしろ、さっきの方がまだ神経も繋がっているところは度を越して痛かったんだぞ?」
そう言うと、うっと少し呻いて、頭を掻いた。
「....悪かったよ」
「謝るほどでもなし。さっさと行くぞ」
俺はそう言うと、ジャンプして下に跳び降りる。
着地の瞬間に膝を曲げて衝撃を吸収し、それでも吸収しきれなかった衝撃は、体を回転させることで周囲へと流した。
チゼは魔法を使って、俺の隣へ着地するが、俺の流したエネルギーの余韻にぶつかって耐性を崩す。
「せめて、余韻が消えるまで待ってから降りろよ」
俺はそうあきれた声を出しながら、目の前の扉へと近づいた。
(....敵の気配無し)
おかしいな。
俺はそう不思議に感じて、扉から手を離す。
「中には誰もいないらしい。だが、妙な手応えが二、三あるな。ドローンか?」
その呟きに対して、彼はこう答えた。
「ドローンに全部任せるだなんて、不用心にもほどがあるだろ」
「ま、やつらから見れば、所詮俺たちは原始人にも変わらんのだろうさ」
俺はそう言うと、妖装蛟を纏った。
白い半袖のワンピースに、十字架のネックレスがついた形に生成されたそれに、俺は少しため息をついた。
右手の方を見やると、そこには、真っ白な氷でできたような腕が生えている。
(義手とはありがたい)
俺はその手で扉を開こうとした。
すると、それはたちまち凍りついて、触れたところを中心にひび割れていき、壊れた。
(二秒か....となると、あのドローン一体を壊すのに一秒半くらいかかる計算か)
俺は瞬時にそう思考すると、縮地を使ってドローンへと接近し、そのセンサーが働く寸秒前にその銃口に触れていく。
そして、一拍遅れて、すべてのドローンが破壊された。
「さて、チゼ。仕事を始めようか」
「──俺はもう、お前に何があっても驚かないと思っていたが、二回も連続して驚かせられてしまったよ....」
彼はそう言うと、広い部屋に設置された操縦席へと急いだ。
一方その頃、フレアとククルカンは、リレルと協力して民間人の避難の護衛についていた。
「くっそ!敵と民間人の区別がつきにくい!」
フレアは襲ってきた敵を、殺さずに剣で受け返し、気絶させるという作業を延々と繰り返していた。
「そうねっ!ここまで苦労するとは思いもしなかったわ。もう魔力が尽きそう」
ククルカンも、民間人を巻き込まないようにするのに精一杯だった。
「こう手数が多いと、君たちは苦しいだろうけどね~」
しかし、リレルはどうやら少し余裕を残しているようである。
「殺してはいけないって、ほんと、難しいんだよ!もう殺っちゃっても良いか?」
「ダメだよ!生け捕りにして、あとで色々と調べないといけないことがあるんだから!披検体は多い方がいいでしょ!」
フレアの愚痴に、リレルが待ったをかける。
「くっそ!こいつら、上からも来やがって!」
フレアの剣が、奴の銃弾を切り裂く。
突如、その斬った銃弾が爆発した。
「ぐはっ!?」
爆風に一瞬気をとられて、敵の接近を許してしまいそうになるが、ギリギリの所でそれを食い止める。
こうして地上での乱闘は続く。
次回「19」
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