「14」黄泉帰りの使徒
その日、チャリナ、イルス、イガラシ、メリゴの四国連合が設立した、連合空軍に、ある一人の男がやって来ていた。
時刻は、チホがちょうど空を見上げ、UFOを視認した時刻と重なっていた。
彼は、拳銃を片手に、剣で斬りかかってくる文明遅れな空軍兵士たちを殺して回っていた。
「つまらないなぁ....そうは思わないか?ヤナギ・チホ」
長い黒髪を一纏めにくくった、日本刀を携えた彼の名は、クローゼット。
以前、フレアによって真っ二つに斬り裂かれた異次元人その人である。
彼がなぜ生きているかはこの際、真理術によって、というヒントを与えるにとどめようか。
「fire」
(炎よ)
後方から火の玉が打ち出される。
しかし、彼はそれを振り向き様に刀で斬り捨て、そのまま突進する。
しかし、今回の相手は少し違った。
彼の刀は折られ、横から膝蹴りが飛んでくる。
全く、折れず曲がらずよく斬れるという評判だったこの刀のそれは、いったいどうなったんだ。
彼はそんなことを考えながらも、その膝蹴りを回避し、拳銃を相手の顎に突き立てた。
パン!と、乾いた音が鳴り響き、その男性、アールマトリック・メイデンフェルツは死んだ。
気持ち良さそうな顔をして。
(ドMか。駒にしたら使えそうだな)
彼はそれを、次元の穴に放り込んだ。
イザンが姿を消した頃には、周囲は火の海となっていた。
いや、ほぼ瓦礫の海だ。
空の未確認飛行物体には、数機の戦闘機が突っ込んでいき、交戦を始めている。
しかし、こちらは圧倒的に不利らしい。
俺は痛む腕に回復の魔法を使うが、全く反応しないことに気がつき、魔力温存のために治療を中止した。
「オルメスとコナタは、領地の防衛を頼む。フレアとククルんは地上の敵を頼む。俺とチゼは、二人であのSFじみたUFOを潰しにいってくる。フレアたちが守りきれない箇所は、俺の分身が埋めるから、リレルは軍の方に行って、事情説明と俺の分身を渡してきてくれ」
俺は即座に作戦を全員に伝え、分身をざっと千体位作り出した。
「お前のその腕は本当に大丈夫なのか?」
俺の右腕を見ながら、彼は聞いた。
「残念ながら。魔法が効かないからな....」
「なら、お前も休め!そんな状態で戦ったりしたら、間違いなく死ぬぞ!?」
「心配してくれてありがとうな。だが、大丈夫だ。何とかする」
俺は計一万体を生成すると、作戦を開始の合図を出した。
「....その腕はともかくとして、しかしヤナギ。どうやってあれに乗り込むんだ?空を飛ぶにしても、あの弾幕を乗り越えるのは苦難の技だぞ?」
走りながら、チゼが俺に聞いてくる。
彼ももう腕に関しては心配の言葉はかけてこない。
(しかし、マジで痛い....)
俺は腕の痛みに耐えながら、彼の質問に答える。
「まぁな。それはあくまで、下から入り込むならだろ?」
「どういう意味だ?」
「そのままの意味だ。下からが無理なら、上から入ればいいってな」
俺は鞄から左手で、魔法陣がぎっしり書き込まれたブロックを取り出した。
そして、俺たちはある地点まで来ると、魔法を使って大ジャンプし、この国でもっとも高い場所へやって来た。
(これくらい高ければ、魔力消費を押さえられるだろう)
俺たちがいるのは、王都カルスティナ、イルス国王城の屋根の上だ。
「チゼ。これはククルんに教えてもらったんだけどな?召喚魔法陣ってのは、転移魔法陣とよく性質が似ているそうだ。転移ってのは、二つある魔法陣の上を、物理的距離を省略して行き来する魔法のことで、召喚ってのは、ある一方が、強制的かつ一方的に呼び寄せる類いのものらしい」
俺は、手元の赤いキューブをぺろりと舐めた。そうすることで、頬のうちの細胞を擦り付け、自分をこの魔法陣の式に取り組んだのだ。
それを彼に手渡し、同じことをさせるように指示した。
「だから、逆も可能なんだよ。ただ単に、転移先の設定をいじるだけ。それだけで、魔法陣ひとつで、好きなところへ飛べる。ちょっとしゃがんでくれないか、チゼ」
チゼがそれに細胞を擦り付けるのを見ると、俺は彼にしゃがむように促した。
「ん、あぁ。わかった」
そして、ちょうど手のとどくところまで頭を下げさせると、俺は彼の頭に左手を置いた。
「これで準備万端だな」
「ちょっと待ってくれ。どういうことかさっぱりわからないんだが」
頭悪いなぁ。
わかれよ、これくらい。
俺は少々腹をたてながら、その問いに答えた。
「要するに、下から乗り込めないから、上に転移して、そこから乗り込もうって話だ。さっさと解れ!」
俺はそう言うと、キューブに魔力を流し込んだ。
次回「15」




