「10」運命の誘導5
「──キミの方はすっかり変わっちゃったみたいだけどね」
彼女はそう言って笑う。
イザン・カウラス・ニータ。
彼女は、転生前の俺の友人、というより、高校で昼休みを共にした知り合いという認識の方が強い。
彼女が先ほど言っていた通り、彼女は忍術使いだ。
主に、変装系の忍術を得意とする、所謂スパイのようなものを生業とした人間だ。
彼女の銀髪赤眼は、バルス国の魔力濃度の薄さ故の症状で、俺も転生前は、髪は白かったし、目も赤かった。
俺は、笑う彼女に再開した嬉しさを伝えるかのようにハグをする。
「それにしてもレレム、小さくなったね?」
「お前は相変わらずだがな、イザン。小学生並みの身長は今でも変わりそうにないでも、どうしてこんなところに?」
俺は、彼女がなぜこんなところにいるのか、そして、なぜ襲ってきたのかという意味を込めて質問した。
「任務でね。でも驚いたよ。こんなことってあるんだね?」
彼女ははぐらかすように言いながら、後ろを振り向いた。
彼女の視線をたどると、そこには、こちらへと駆け寄ってくるチゼたちの姿があった。
「や、ヤナギ?どういう状況か説明してくれないか?」
「ボクも今混乱してるんだよねぇ。説明してくれない?」
チゼとリレルが困惑した顔で迫る。
どう説明しようか。
前世での友人、とか説明しても信じてくれないだろうしな....。
「......」
俺が回答に困っていると、イザンがこちらにパチリとウィンクをした。
(あいつ、どう説明する気なんだろう)
「彼女とは昔の友達、ということにしておいてくれるかな?詮索は禁止ね」
イザンがそう言うとこれでいいかなと俺を見てきたので、一応頷いておいた。
まあ、嘘じゃないし別にいいだろう。
ふと、ククルんの姿が目に入った。
「わかったわ。詮索はしない。それでいいわよね?」
「話が早くて助かるよ。それじゃ、レレムはこれからリーシャ・ハーケットの所に行くと言うことだけど、やめておいた方がいいかな」
違和感。
なぜ、こいつが今さっき俺が立てた計画を知っているんだ?
そんな俺の心中は無視して、彼女は封筒を俺に差し出してきた。
なんだろ?
俺はそう思い、封を開けた。
中には、三枚の写真が入っていた。
リーシャが誰かから紙を受け取っている写真が一枚。
誰かと決闘している写真が一枚。
気絶して倒れている写真が一枚。
瞬間に不吉な予感と疑惑が走った。
「どういうことだ?」
今の流れなら、この写真がCGという可能性がある。
つまり、罠という可能性が非常に高い。
それを踏まえた上で、俺は彼女にそう聞き返した。
五人がその写真を見た瞬間、空気が重くなった。
「ここじゃギャラリーが多すぎる。場所を変えよう」
「なら、俺の家がいいだろう」
俺はそう言って、転移を使用した。
転移した先は、浮遊石で作られた空中庭園の中だ。
見渡す限りのシーデートの紫色の花畑と丘の上の水樹、そこから流れる川に、大きな屋敷が見える。
そんな地形の端に設置されたワープベースに、俺たちは転移してきた。
人口は俺の分身とここにいる七人だけ。ここで仕事に使っている分身はだいたい100人程度だ。
ここで育てられているシーデートは、万能薬の材料を合成する際に、なくてはならないもので、一輪金貨一枚が現在の相場だ。
俺のところはモノカルチャー経済だから、火事が起これば大惨事になるな。
「良いところだね?」
「ありがと。でも、話は屋敷に入ってからにしよう」
そう言って、俺たちはその花畑を後にした。
数十分後、俺たちは屋敷内の会議室にいた。
「その写真、どういうことですか?」
ふと、オルメスが話を切り出した。
「リーシャ・ハーケットが、オッド・パンプスという男に拐われた」
オッド・パンプス。
短髪メガネの、いかにも賢そうな雰囲気だったな。
鑑定屋の話じゃ、アギト出身だったか。
「なぜ、君がそれを?」
チゼが彼女に質問する。
「ボクの忍具を作っているのが彼でね?そいつが、ヤナギ・チホ関連の依頼が来たんだよ。詳しくは教えられないけどね。それで、情報をくれって頼んだら、あら不思議。針流開祖って単語が入ってたんだ」
イザンは大袈裟にアクションをつけて説明する。
「針流ってのは、レレムがバルスで習ってた陰刀流っていう古武術を派生させて作ったものだからね。もしやと思って」
イザンが俺の中身を知った経緯は、つまりオッドの野郎からの依頼の結果ということか。
「なるほど。それで、なぜイザンがリーシャの情報を?」
「そう急かさないでよ。ちゃんと話すから」
俺がそう聞くと、彼女は真剣な目をした。
会議室の空気が、がらりと変わった。
「──彼女を殺すことも、ボクの任務の内だったからさ」
次回「11」




