「03」依頼
「──どういうことだ、鑑定屋」
「どういうこと、と言われてもね、嬢ちゃん。その、答えようがないんだよ。もしかしたら、たまたま覚えていて、嬢ちゃんのことをたまたまこっちが聞き忘れていたってことも、無いし?」
こいつの口調は、絶対何かを隠している。
彼女を選んだ理由が俺の仲間だったということなら、そもそも忘れるわけがないし、何より嘘をついたときの行動が表に出ている。
人は嘘をつくと、イントネーションが変わるからな。
「....もういいです」
でもそんなことより、俺はある重大なことを聞きそびれていたことを思い出した。
「そんなことより、この情報。学会に発表してはいないだろうな?」
そうだ。
この情報が学会などで発表されていないかどうかの心配だ。
もし、この情報が発表されていた場合、悪いやつら、例えば異次元人に見つかりでもしたら、厄介なことになる。
すでに死んだはずの仲間をよみがえらせ、アンデッドの集団を作らないとも限らない。
もし、そんなことが実行されれば、世の中の秩序が乱れ、狂ってしまいかねない。
それに何より、アンデッドというのは質が悪いと相場が決まっているからな。
「いや。この研究は発表しない。そもそも、この研究が魂魄関連とわかった時点で、俺一人で研究を進めることにしていたんだ。まぁ、お嬢ちゃんが心配するようなことは、何もないよ」
何してんの、それ最悪の手段じゃん。
「それじゃだめだ。それだと、元々研究に関わっていた人たちが独自に研究を進めてしまう可能性があるんだ。鑑定屋、その研究に関わった研究員を集めてくれ」
一週間後。
鑑定屋からメールが来た。
『全員の家に電話をかけたが、すべて繋がらなかった。不審に思って家にも押し掛けたが、もぬけの殻だったよ。やられた。今から研究室に来てほしい』
どうやら、俺の考えは当たっていたようだ。
俺はククルんとリレルにその内容を話し、チゼ、フレア、オルメス、コナタを連れて、研究室へと向かった。
ちなみに、体育館は閉鎖しておいた。
「来てくれたか、嬢ちゃんたち。話は聞いての通りだ」
鑑定屋はそう言って、俺たちに一通の封筒を差し出した。
「これは個人的な依頼として出す。頭のネジのとんだ英雄たち、どうか、彼らをここへつれてきてくれ。その封筒の中身は、元研究員の情報が入ったチップだ。役に立つだろうから、持っていってくれ」
かなり一方的な依頼だが....こちらとしても、彼らを放っておくことはできない理由がある。
利害が一致しているのだ、引き受けないわけにはいかないだろうし、依頼が来なければ、こちらから動いていたしな。
俺はその封筒を受けとると、わかったと頷いた。
「お前らもそれでいいよな?」
俺は、後ろにいる六人に同意を求めた。
「前にも言ったと思うが、私はお前に従う」
「俺は、お前の仲間だろ」
「わ、私も、ほとんど記憶にないけど、仲間を守れるのは、仲間の権利だと思っているから」
「私はこいつらのことが気にくわないから、協力してあげるわ。異次元人が関わってれば、一石二鳥だしね!それにこれは、別にチホのためじゃないわ。これは私のためなのよ。勘違いしないでよね!」
「ボクは暇だから別にいいよ!」
「師匠、残念ながら、私には道場でのこともあります。しかし!師匠のたのみとあらば、現在、先生として機能できる門下生を私の代理においてでも、お供します!」
コナタのこの忠誠心はいったい何なのだろう。
あとククルんが若干キャラが変わっているような....。
「な、何よ?」
「お前、そんなキャラだっけ?」
「うるさいわね!別に良いじゃない、やってみたかったのよ。その、ツンデレみたいなキャラをさ」
「お前のそれはツンデレとは言わねぇよ」
「う....」
彼女は俯くと、その猫耳を恥ずかしそうに垂れた。
でも、どうしてツンデレを演じてみたくなったんだろう?
(不思議だ....)
俺は彼女の頭を撫でると、鑑定屋の方を向いた。
「じゃ、その依頼は引き受けるよ」
次回「04」




