「02」魂魄2
「ヴァンパイア・ドラッグ。それはね....今さっき思い付いた!」
「「「「「お前の空想かよ!?」」」」」
ビックリした。
こいつ何言い出すかと思ったら....。
「で、鑑定屋さん。その、吸血衝動の条件って何ですか?」
リレルが仕切り直すように聞く。
「血を見たときだよ。彼女、えーっと、名前なんだったっけ。忘れてしてしまった」
おい、鑑定屋。
お前そんなのでよくこの仕事できてるよな!?
覚えておけよ、仮にもお前の研究対象なんだからさぁ!
「えーっと、そうそう、思い出した。ハーメルンだっけ?」
「オルメス・トライデントだよ!」
まだホームズって間違えてた、高1のころの担任が懐かしいよ!
「そう、それ!」
「それってなんだよ、それって!」
すかさずチゼがツッコミを入れた。
だめだ、こいつ。
リレルのせいで何かが狂ってしまっている。
完全にリレルかヴァンパイア・ドラッグとか言ったせいだ、これ....。
俺はチラリと彼女へと視線を送った。
「えへへ....」
えへへじゃねぇよ!
そんなことをしていると、研究室にコナタとオルメスが入ってきた。
「ただいま、おじさん....って、師匠!いつお帰りになったのですか!?」
彼女はそう言うなり、こちらへと近寄ってきた。
しかし、身長伸びたな....。
コナタは確か、そろそろ三十歳くらいになるんだっけ?
いや、まだ二十八かそこらか。
それにしても、コナタは老けてきた気がする。
ちょっとヤチカ(忘れてると思うけど、チホの母親)に似てきた気がするんだ。
男は母親に似た人を選び、女は父親に似ている人を選ぶと言うが、本当なのかもしれない。
「どうしたんですか、師匠?」
「いや、なんか....お前、なんか老けたなーって」
「老けた!?や、やっぱり、少し睡眠時間が短くなったからでしょうか、それとも、門下生の対応のせいで疲れているから....」
門下生の対応が疲れるとか言うなよ。
そりゃ、あれだけの人数一人で教えるのは苦労だろうけどさ。
「はぁ」
俺はため息をついた。
横目にフレアとチゼ、ククルカンを見る。
三人とも、気難しい顔をしている。
たしか、人間関係に関することは全て忘れているんだったか。
つまり、俺たちのことも忘れられてしまっている訳で....。
ふと、オルメスの姿が目に入った。
(チホ?)
彼女の口の動きが、そう言っている。
(気のせいか?)
俺はそう思ったが、とりあえずためしに、彼女の名前を呼んでみた。
「久しぶりだな、オルメス」
「チホ!」
言うと、彼女は抱きついてきた。
「俺のこと、覚えているのか?」
さっきの鑑定屋の話では、手続き記憶以外の記憶を無くしている、と聞いたはずなんだが....。
ジロリと鑑定屋の方を見ると、奴はこう言った。
「い、いや、お嬢ちゃんのことを覚えていたなんて、す、凄いナー、ナニカジョウケンデモアッタノカナ....ナンテ──ひっ!」
あまりにもとぼけるので、俺は殺気をぶつけて脅してみた。
こいつめ、俺のこと覚えていたの、隠していやがったな!
「チホ!やめてあげて!この人、私を救ってくれたんだよ!」
オルメスが鑑定屋と俺の間に立ちふさがる。
(どこの映画のシーンだよ)
俺は頭の片隅にそんな思考をしながら、ため息をついた。
「わかった。お前に免じて許しておいてやるよ。でも、これだけは聞きたい。どういうことだ、鑑定屋」
次回「03」




