「21」我は千里の道を行く3
ハーレイ・ペンドラゴン邸についた俺たちは、その屋敷の大きさに驚いていた。
なんといっても、この国三番目のサイズと言えど、イルスの王城を遥かにしのぐ巨大さだったからだ。
「人って、おっきい家とか好きだよね。どうしてだろ?」
リレルが呟いたその言葉に、アンナが少しひきつった笑顔で、さあ、どうしてでしょうね?と、答えた。
(怖いよその顔。目が笑ってない)
時々忘れるだろうけど、リレルは200歳のエルフ、しかも古代種だ。
200年前というと、まだテンブ砂漠がオアシスに満ちていた時代だな。
全く、最近の砂漠化というのは怖いもので、イルスやチャリナ、イガラシの国やメリゴの国北部じゃ、自分達の国まで砂漠が広がるのではないかって、真剣に考えてるしな。
そんなわけはないのに。
そして、さらにその頃はまだこの世界に巨大な建造物はあまり無かった時代だ。
リレルが巨大建造物にそんな感情を抱くのも、不自然ではない気がする。
因みに、人が大きな家を好むのは、自分の裕福さを見せつけ、示すためだというが、俺も正確には知らん。
俺たちはイルグイツに連れられ、応接室にやって来た。
応接室は、屋敷の外観に比べ、かなりこじんまりとしていて、中には最小限の物しか置かれていなかった。
すなわち、机と椅子と照明器具のみ。
(まるで、警察の取調室みたいだな)
そう思いながら、中で待つこと数分。
ハーレイと思わしき人物がやって来た。
白い髪、角度によっては、銀にも見えるそんな不思議な髪を、青い髪止めでアップにし、白と金の軍服を着ている。
明らかに顕示欲が強そうな人だ。
目からは、少なからず警戒心が見える。
(軍人なのか、ルーナのお母さんって)
まあ、確かにそれほど強ければ、お誘いも来るだろうな。
なんせ、ペンドラゴン家の人間なんだし。
「話はアンナから聞いた。娘を助けていただき、誠に感謝する」
ほんと、この人たちはいつそんなやり取りしたんだよ。
疑問が浮かび上がるが顔に出さずに、俺はそう思った。
「なら、その警戒心を解いてもらいたいな。こちらとしても、音速剣の使い手とは、殺り合いたくはない」
リレルが目を細めて、腰の剣を注視する。
(なんで殺し合う前提なんだよ!?)
「これは失敬。いつもの癖でな。私も、元五仙のリレル・トニー殿とは、戦いたくない。貴殿の眷霊とは、特に」
「ほう?」
そこ、なんで煽るんですか!?
と、ツッコんでいると、チゼが話に割って入った。
「もうその辺にしておいてくださいませんか?」
ふと、二人の顔が驚きを見せた。
「そうだな、やめにしよう。今回はお主らに礼を言いに来たのだ。こんなことではいかん。謝罪する」
「いや、ボクの方こそ悪かったよ。あおるような真似をして、すまなかったね」
いやいやいや!
それ、なんのコントだよ!?
物騒すぎるわ!
閑話休題。
「さて、改めて、礼を言わせてもらう。ルーナを助けていただき、誠に感謝する。そして、そのお礼としてなのだが、私から差し出せるものなら、何でも差し出そう。何が欲しい?」
ハーレイはそう言って、手帳を取り出した。
メモを取るつもりなのだろう。
なら、遠慮なく、俺も欲しいものを頼もうか。
そうだな、欲しいものか。
レンビとの再戦のために、力をつけておきたい。
存在ごと殺っちゃってもいいなら、そもそもその必要はないが、生憎本気を出してはいけないというハンデがあるしな。
ハンデありでも、この人くらいは倒せておかないといけないだろう。
なら、模擬戦というのはどうだろうか。
「それでは遠慮なく。俺と一度模擬戦をしてはくれないだろうか?」
俺がそう言うと、周りの空気が凍りついた。
俺、なんか言っちゃいけないこと言ったかな?
次回「22」




