「18」温泉
今回は久々のお風呂の回です!やったね、諸君!
「へぇ、ここって、露天もあったんだ!」
俺たちは現在、ラズの街のとある旅館の温泉に来ていた。
「ハァ、ハァ、チホたん、裸、ハァ、ハァ....」
一人だけ、俺にとって、何故か不快な存在が居ることを除けば、最高だったかも知れないが。
「ルーナ、暑苦しいからくっつくな!」
「何を言うんです、常冬の国で暑いなんて!しかも露天風呂で!」
「お前の場合は蒸気が出てるんだよ、蒸気が!!」
そんな風に言い合っていると、リレルが湯船に浮かびながら、こちらをつまらなさそうに見ていた。
彼女の髪の着色は、もう既に無くなっており、今はいつもの水色の髪になっている。
俺はルーナから距離を取りながら体を洗う。
(やっぱり、ビキニアーマーという選択がダメだっただけかもしれないな....)
ふと、リレルのその姿を見ながら、俺はそんなことを考えていた。
(もしかしたら、スクミズとか似合うかもしれない)
いつかやってみようか。
俺はそう心に決めて、再び襲いかかってきたルーナを、今度は魔法で宙に浮かばせた。
「やーっ!降ろしてー!高いのムリーっ!」
「うるさい、黙れ。あと動くな、疲れるだろ」
俺がそう言うと、彼女はピタリと動くのをやめた。
(面白いこと考えた)
瞬間、俺のSな部分が刺激された。
「よし、さっきまで暴れてた罰だ。しっかり受けとれよルーナ!」
そして俺は、彼女を湯船の中に突っ込んだ。
「グブゲッ!?」
ルーナは奇声を上げて湯に突っ込む。
瞬間、魔法をキャンセルした。
「っぷは!もう、チホ!危ないでグルホグゲぶぐぶぐ」
そして再び頭を水中へ突っ込ませた。
「っぷは!もう!怒るよ、チホ!」
(なんか、超楽しい!)
そんな危ない思考の下、俺は再び頭を潜らせようとしたときだ。
勝手に魔法が強制的にキャンセルされた。
(あれ、魔法が発動しない。ジャミングか。ということは)
リレルの方を向くと、彼女は不機嫌な顔をして言った。
「チホ、それ以上は危険だよ?やめなさい!」
「......すまん、ルーナ。つい楽しくてもう一回沈めようとしてた。謝る」
「アブナイな、オイ!」
そんなこんなで騒ぎながら、俺たちの夜は過ぎていった。
一方その頃、オリガヤ・チゼはというと。
(露天風呂なんかあったのか)
俺は、体を洗い終えると、露天風呂があるらしいところへ向かっていた。
ガラガラガラと、音を立てて扉を開ける。
「うわ、寒っ!」
(さすが常冬。だからこその露天!いざ、新地へ!)
変な興奮状態で、俺は露天風呂に浸かった。
外の寒さに反して、湯船の湯は暖かい。イルスの家とは、格段に違う安心感が、俺の心を休めていた。
「ルーナ暑苦しいからくっつくな!」
壁越しに、チホの声が聞こえてきた。
「何を言うんです、常冬の国で暑いなんて!しかも露天風呂で!」
(あー、なんだかんだ言って、やっぱり仲良いんじゃないか。喧嘩するほどなんとやら)
盗み聞きなんてヘンタイと思われるだろうが、このときの彼の頭の中に、そんなことは考えも浮かばなかった。
彼は湯船の中に取り付けられていた段に背中を凭れさせて、顔にかかった水滴を拭った。
すると突然、壁の高さを越えて、ルーナの姿(裸)が見えた。
「!?」
目を逸らそうとするも、首が動かない。
あろうことか、その情景に釘付けになっていたのだ。
「やーっ!降ろしてー!高いのムリーっ!」
ルーナが暴れまわる。
湯煙のせいか、彼女の大事な部分は見えていないが、しかし、それがなんとも自分の中の想像力を働かせ、なんともエロティックに見えた。
彼の思考は、急速にその速度を高めていき、一瞬でとある結末を思い描いた。
それは、自分に対して全く都合のよい結末とは言えなかった。
次の瞬間、彼の思い描いた未来が、何かのタイミングが合致した。
彼は瞬間的に覚った。
自分を取り巻く男女比から導き出される、最悪の結末を。
「うるさい、黙れ。あと動くな、疲れるだろ」
予想通りの言動。
彼は湯に浸かっているにも関わらず、それがとても冷たく感じた。
そのチホの言葉の直後、チゼは彼女と目が合った。
目が、合ってしまった。
彼女の目が、下へと向けられていく。
それきり、彼女は動かなくなった。
(なんとかしないと、なんとか、この危機を脱出しなければ!)
そして、彼のとった行動は、さらに結末を悪化させるものだった。
彼は、反射的に笑顔をとってしまったのだ。
(不味い不味い不味い不味い!)
なんで俺は笑顔なんて行動をとったんだ!?
彼は自分をこれほどまでに攻めたことはなかっただろう。
その笑みは若干ひきつり、ニタッとした笑みとなってしまった。
ルーナの目がこちらを向く。
その目は、無言でこう語っていた。
『後で絶対殺す!』
気のせいか、彼女の目からは、鬼を思わせる狂気をはらんだ光が見えた気がした。
完全に死んだ。
彼はそう思った。
そう思うと、とてつもない逃亡衝動に駆られた。
「よし、さっきまで暴れてた罰だ。しっかり受けとれよルーナ!」
次の瞬間、チホのその言葉で、ルーナが視界から消えた。
(....俺、そろそろ上がっておいた方がいいかもしれないな....)
言い知れぬ恐怖から、彼の背筋は凍りついたように冷たくなった。
そして、俺はその恐怖から逃げるべく、その場を後にした。
次回「19」




