「15」奇(黄)婦人の襲来
ともあれ、俺たちはアシロ帝国へ入国するのであった。
ちなみに、リレルの変装は、狐の面をつけ、白い和装をし、髪を白く染めることになった。
因みに、仮面と髪色のチョイスはククルんが、服装は俺が担当した。
「わー、ここがアシロかー!」
リレルがはしゃぎ回る。
現在は、アシロ帝国最西端、ランドルフ領港町の、とある喫茶店に来ていた。
予定では、ここから蒸気機関車を乗り継いで一週間ほどで、帝都テイラーまで観光に行くことになっている。
とりあえず今は、そこで汽車がやって来るまで、駅に近い窓側の席で休んでいた。
「そうだな。しかし、思ってたより暖かいな。こっちは魔力濃度の影響で年中冬って聞いていたんだが....」
チゼが苦笑しながら呟く。
魔力濃度、つまり、空気中に含まれる魔素の濃度が濃い所では、地形によらず、妙に季節感があったり、なかったりする。
ここは、その影響下にあり、年中冬になっている。
「あぁ、そのことなら、今の季節は、西風の影響で、西側は結構暖かいらしいわ」
後ろの席に座る、長い銀髪の少女が説明してくれた。
「へぇ、そうなんですか。俺はヤナギ・チホって言います。あなたは?」
「ルーナ・ペンドラゴンよ。以後、お見知りおきを」
彼女は席を立つと、こちらへ手を差し出してきた。
俺は、その手を握り返すと、ふと思った疑問を伝えた。
「ペンドラゴン、ってことは、もしかすると、アーサー・ペンドラゴンの所の人ですか?」
「おじいさまを知っているのですか!?」
彼女は、席を乗り出して、ぐいっと顔をこちらに近づける。
「はい。イルス国のイーグス女王陛下主催のパーティーの時に少し」
「もしかして、あなたが『踊る骨折の死神』ですか?」
....じいさん、孫にそういう愚痴は言うものじゃないと思うんですよ。
俺がダンスできないのを知って、教えてくれようとしてくれたことには感謝するけどさ....。
「あ、あの、もしかして、違っていたらごめんなさい!」
「いや、間違ってないけどさ....」
ちょっと傷ついたというか。
俺は顔を机に押し付けて、意気消沈していた。
「ということは、やはりヤナギ・チホ様は、あの『頭のネジがとんだ狂気の英雄』様の一員でしたか!」
だから、その称号悪口にしか聞こえないって!
つーか、その話広まるの早くね?
もう外国まで情報が出てきてるのかよ....。
しかも、国一つ挟んだ向こうだぞ?
更に言ってしまえば、チャリナは絶賛復興中で、ネット回線が回っているかもうかも怪しいんだぞ?
(情報化社会ってすげぇ....)
と、俺はしばらく感慨に更けっていると、頭の上から、キラキラしたオーラが圧力となって押し寄せてきた。
その圧力に耐えきれずに、俺は顔をあげて、諦感したように肯定した。
「そうだよ....」
それは、フラグだった。
今思えば、そのオーラがどちらに落ちたとしても、ここから先面倒なことになることは、予想できたはずだった。
しかし、その諦めきった頭では、そんな考えは思い付きもしなかった。
彼女は、目を一層輝かせた瞬間、「やっと....やっと会えたよ!マイハニー!」と言って抱きついてきた。
本能的な恐怖と、今までに感じたことのない寒気が全身を襲った。
そして、気がつくと、俺は襲いかかってきた彼女を組伏せていた。
「ギブ!ギブギブギブ!ハニー痛いぃ!」
「誰がハニーだ!」
その後、俺たちは駆けつけてきた店員さんに出禁を食らった。
俺たちは代金と慰謝料を支払って、店を後にした。
「何でついてくるんだ?」
「私のおヨメさんになってほしいからです!」
ルーナはそう言って、俺の腕に、腕を絡めてきた。
「ならねぇよ!」
「えー....」
再びルーナがすり寄ってくる。
俺は男よりも女の方が好きだ。
それは、男として、生物学的にも当然と言えるだろう。
でも、どうしてか俺は彼女を好きとは思えない。
「いいじゃん、結婚すれば?私はお祝いするけど」
「ちょ、おま....!ククルん、何てこというんだよ!?」
話を聞いていた彼女が、ルーナの肩を持った。
「私にはそういうことはよくわからないが、同性愛も──」
「フレア、お前は黙ってろ!」
フレアまでルーナの肩を持ってしまった。
くそ、どうすれば....。
俺は、チゼの顔を、懇願するように見上げた。
「や、ヤナギ....そういうのは、大人になってからな?」
「俺はもう立派に17歳だ!」
「「え!?そうなの!?」」
リレルとルーナが、声を合わせて驚きの声をあげた。
「くそぉ....くそぉ....」
俺の低身長が悔しい....!
と、半ば諦めて、駅のホームに入った時、事件は起きた。
急に、周りの人たちが悲鳴をあげて、散り散りに散って行く。
そんな中、一際存在感を放つ者がいた。
プラットホームの屋根の上。
ガラスでできたそこに立っているのは、黄色い髪に、黄色い目、猫のように細い瞳孔に、猫耳を模した飾りのついたフードを被った女性がいた。
爪は長く、黄色く塗られており、その服装は、暖かいといえど、年中冬の国で着るには薄い格好、というか、露出が多い。
脚は付け根から出てるし、腕は肩からすでに見えている。
まぁ、要するにだ。
黄色い恥女がそこに立っていた。
「「「「......は?」」」」
次回「16」




