「14」前夜祭
これは、アシロ帝国へ旅立つ前夜のお話。
アシロ帝国には、チャリナを経由して、北にあるルーオル山脈を海岸沿いに迂回して入国することになっている。
アシロ帝国は、大陸最大の面積、人口をもつ帝国だ。
そして、その国の入国審査は厳しい。
元軍幹部にいたリレルが一緒に来れば、何事かと勘ぐることだろう。
殺人鬼騒動の後に、イルスの元軍人がやって来るとなれば、宣戦布告にしか聞こえないだろう。
「だから、今回はリレルには、お留守番をしてもらおうと思う」
屋敷の会議室で、俺はリレルに、そしてその他二人にも告げた。
「えーっ!?ボク、ずっと楽しみにしてたんだよ?直前になって言うなんて、酷いじゃないか!」
「そうだぞチホ。それはいくらなんでも酷いと思う」
チゼがリレルを援護する。
「言わなかったか?俺は、リレルが元軍人であることと、殺人鬼騒動があるから行けないと言ったんだ」
「それはそうだが....」
チゼが俯いた。
それを見たリレルも、不服そうに頬を膨らませる。
「だから、リレルには、変装してもらいます!」
「「「....は?」」」
会議室が、疑問符の海に沈んだ。
この流れなら、完全にリレルを置いていくと俺が考えていると思うだろうな。
でも、俺はそんなことはしない。
ほら、俺って優男だし?
いや、俺は女だった。
忘れてた。
18年男やってて、急に女に転生したんだしな。
忘れるのも無理はないか。
あ、でも俺、女を17年経験してるのか。
なら、半々ってところか。
生きてりゃ、いや今も生きてるけど、あのとき死んでなければ、32だったんだな....。
ていうか、自分で優男とか言うなよ。
(....言ったの俺だった)
閑話休題。
「ということで、俺は今日、リレルの変装について、意見を聞きたいと思って、みんなを集めました!」
チゼとリレルが唖然とする中、いち早く立ち直ったのは、ククルカンだった。
「面白そうね....」
彼女は、不適な笑みを浮かべ、挙手した。
「それで、どんな変装があるの?」
俺もニヤリと笑う。
いや、楽しくなりそうだ。
「それは、これです!」
ドン!と、マジックバック(第一浮遊城を攻略したときに入手した鞄)から、大きな段ボール箱を取り出した。
中には、色々な衣装、主に、リレルを辱しめるための衣装が大量に入っていた。
「っ....」
リレルが、箱を覗いて、少し戦いた。
「こ、これはまた....独特な衣装だな....」
チゼが中に入っている衣装のひとつを取り出した。
『巫女服』というタグのついた、緋袴だ。
「へぇ?チゼってそういうのが好みなんだー?」
「どこかで聞いた台詞だな!?」
「隠さなくてもいいわよ。チゼのその顔を見れば、一瞬でわかるわ」
ククルんが畳み掛ける。
「な、何でわかるんだよ?」
「鼻唇溝がでてるぜ?ほんと、分かりやすいな、チゼは!」
ニシシとフレアが笑う。
「鼻唇溝って?」
「鼻の下の窪みがあるだろ?あれのことだよ。要するに、鼻の下が伸びてるって言ったんだ」
思いがけないところで、フレアの豆知識が飛んできた。
本当に予想外だった。
ともあれ、
それから、数時間に渡って、リレル弄りが行われた。
最初に着せられたのは、チゼが最初に取り出した巫女服だった。
「え、まさか、本当に着るの?」
リレルが少し戸惑った風に言った。
「そうだな。着てみたらどうだ?案外似合うかもしれないし」
「案外って何さ!ボクは何着ても似合うって、同僚からは評判が高かったんだからね!」
彼女はそう言うと、チゼの手からそれをひったくった。
「おぉ、これはなかなか」
リレルに巫女服を着せ終えると、俺たちはまじまじと彼女を観察した。
「あ、あんまり、みないで....」
恥じらうように、少し赤くなった顔を袖で隠すその仕草は、なかなかの破壊力を持っていた。
「こ、これは少し、危険じゃないかしら....」
ククルんがティッシュを鼻に押さえつけながらそう言った。
既にそのティッシュペーパーは真っ赤に染まっている。
「そ、そうだな。これじゃ、ククルんが貧血で死ぬ」
「も、もう!次!チェンジ!」
次に彼女が着たのは、ククルんのセレクトで、幼稚園児用のスモックだった。
「あー....これもなかなか....」
隣では、既にククルんは瀕死の状態で、すでに屑籠は真っ赤に染まっていた。
場所が場所なら、殺人現場にしか見えないくらいの出血量だった。
ククルカン は たおされた!!
俺は分身に彼女を医務室まで運ばせることにした。
ククルん、あんなにクールだったのに、もしかしてこういうのに弱かったのかな....。
次は、フレアのセレクトだ。
「ねぇ、これおかしくない?」
「確かに....」
フレアが選んだのは、なぜかビキニアーマー。
違和感が半端ない。
一切魅力の感じさせない幼児体型に、肌の露出の多い、それでちゃんと守れるのかという申し訳程度の鉄板装甲。
俺は幼女は好きだが、でも、脱いでいいやつとダメなやつがある。
リレルは後者だな。
次に選んだのは、和服。
白地に夜顔の柄がプリントされたものだ。
「ウップス....」
これから雪国に行くというのに、このセレクト。
まるで雪女にしか見えない。
「ねぇチホ....これ、夜に着る衣装だよね?」
リレルが自分を見下ろしながら呟く。
「いや、これは昼間仕様だ!」
「昼間仕様!?」
次に取り出したのは、スーツと帽子、そしてあとは顔全体が隠れるほどの大きなマスクとサングラスだった。
これをチョイスしたのは、医務室から復活してきたククルんだった。
彼女曰く、『見えるから、私はダメージを受けたのよ。なら、見えなくしてしまえばいい』ということらしい。
その結果、彼女のかわいさが、一気に不審者へと成り下がってしまった。
「これは....うん....」
ククルんの目的は達成されたか。
でも、それは....。
「えっと....自分で言うのもあれだけど....逆、だったわね....」
「「逆!?」」
いったい、彼女はなんの話をしているのだろうか。
そう思っていると、ククルんは驚くべき発言をした。
「ねえ、チホ。宇宙人のコスプレってある?」
「宇宙人!?....いや、まあ、無いことはないけど」
「「あるんだ、宇宙人!」」
しばらく箱の中を漁っていると、銀色の全身タイツと、アーモンド型の真っ黒な大きな目と、爬虫類のような鼻がついた被り物を取り出した。
「あるけど、これどうするの?」
俺はそれをククルんに手渡すと、怪訝そうに聞いた。
「まあまあ。あと、分身を二人ちょうだい。分身には、今リレルが着ていたものと同じものを着せて──」
そして、数分後。
俺は、その場から動くことができなくなった。
スーツの上からコートを来て、帽子とサングラスとマスクをつけた分身に、両手を持ち上げられる形で吊り下げられた、宇宙人のコスプレをしたリレル。
「「「サイズが全体的にアウトだよ!?」」」
「みんな酷いよ!」
こうしてしばらく、リレルの着せ替え遊びは続いた。
次回「15」




