「13」アーサーの計画
突然だが、ペンドラゴン家について話をしよう。
まあ聞いてくれ。
これも、この先少しだけ関わってくる話なんだ。
ペンドラゴン家で最も権力と地位の高い人物、アーサー・ペンドラゴンには、息子が一人と、娘が五人いる。
その中の長女、ハーレイ・ペンドラゴンが娘、ルーナ・ペンドラゴンは、これまでの彼の娘たちよりも一層、アーサーに可愛がられて育った。
つまり、ルーナ・ペンドラゴンは、その生い立ちの性質上、おじいちゃん子として育ったのだ。
そんな一方で、アーサーには隠された野望があった。
所謂百合と呼ばれる類いの同人誌を、夜な夜なルーナに見せることで、ルーナにレズの種を育てるという、これまた他人が聞けばおかしな野望だった。
彼、アーサーは百合が大好きだったということは、この時点ではもう言うこともないほどに明らかだろう。
そんな祖父に育てられたおじいちゃん子、ルーナは、当然なように大好きなアーサーの言うことは、何でもよく聞いた。
だからだろうか、ルーナはアーサーの計画通り、レズに育っていった。
ある日、ルーナはとある噂を聞いた。
世界中を死の恐怖に追いやった殺人鬼を倒したという、少女の話だ。
彼女は一瞬で、その少女に恋をした。
それは、アーサーの計らいでもあったが、それはまた別の話。
俺たちは、みごとイルスの高校を卒業した。
当時の年齢は17歳。
イルスでは、16を大人と定めているため、俺はもう立派な大人となっていた。
ちっこいくせに大人とかって笑うなよ?
こんな姿でも、一応は法律上大人だ。
今は、浮遊石によって作られた俺たちの領地で、浮遊石特有の魔力に反応して作られる草花、シーデートを栽培しながら、ククルカンには魔法陣を、リレルには仙術を教えてもらっている。
さすがに、浮遊石の上でジャミングを練習すると、このせっかくの空中庭園も一瞬で瓦解してしまう恐れがある。
なので、仙術の修行は地上にあるシェアハウスの庭で行っている。
シーデートの栽培は分身にやらせているので、こちらとしては楽なものだった。
なんせ、分身には人件費を支払う必要はないし、俺さえ生きていれば、命令があるか、もしくは何か事故でも起きない限り消滅することはない。
本当に楽だ。
そんなある日のことだった。
リレルと仙術の修行終わりに、シェアハウスに戻ってテレビを見ていたときのことだった。
『アシロ帝国で、現在、連続殺人が行われており、政府はそれに対しての措置を検討している模様──』
居間の片隅に置かれたテレビから、不穏なニュースが流れてくる。
俺は、ソファーにもたれ掛かりながら、風呂上がりのリレルに、それとなく話しかけた。
「なぁ、リレル」
「何?」
「この殺人って、まさか、また異次元人の仕業だったりするのかな?」
最近、またこういう物騒な事件が増えてきた気がする。
そして同時に、俺の異次元人に対する怒りも、そろそろクールダウンしてきていた。
だからだろうか。
俺は本能的に、彼らとの戦いを求めているのかもしれない。
そんな自己解析など知るはずもない彼女だったが、少しの思考の後に、それを肯定した。
「かもね。どうする、アシロ行く?行くなら、ボクはアシロの温泉に行きたいなー!」
リレルはバスタオル姿のままで、そう言った。
最近発覚したことだが、リレル・トニーはどうやら風呂好きのようで、ここ最近、金と暇があれば温泉だの秘湯だのに通いつめている。
そのための金も、公爵という立ち位置と、元軍幹部、さらには古代種のエルフということで、かなりどうにかなっているのだが。
正直に言ってしまえば、俺の持ち金はそんなに多くはないのだから、もう少し節約してほしいと思っている。
「それはそうとリレル。お前、服着たらどうだよ?」
こいつ、確か200越えてるんだよな?
「だって暑いんだもん!」
「エアコンつけるから、さっさと着ろ」
「はーい」
(精神年齢は10才の実年齢200才って....)
人間だとしたら、知能障害に匹敵するレベルだ。
彼女はエアコンの前で冷房の冷たい風に当たりながら、胡座をかいてリラックスしている。
確か、今年の季節って秋だよな?
(暑いって、そりゃないだろ)
俺が心の中でそう突っ込んでいると、ベランダの窓を叩く音がした。
見ると、そこにはヒレイがいた。
授業で完全に敗北したあの日から、彼女は俺に再戦を申し込む!とかなんとか言って、何回も家に来ていた。
今日もその事だろう。
思えば、時が経つのは早いものだった。
彼女に剣を教えるには、フレアの方が最適かもしれないと思う日々だったが、いつの間にか今日も、俺が彼女を教えていた。
俺は、居間に取り付けられていた大きな窓から外に出ると、庭で彼女と向き合った。
散々やりあったので、もう挨拶は必要なかった。
故に、合図は無い。
唯一合図に相当するものがあるとするなら、それは彼女のその姿勢だろう。
横を見ると、彼女は既に居合いの構えをとっていた。
「ッ!」
彼女が無音の気合いと共に、俺が教えた技である『満月』が繰り出された。
満月とは、新月という技が見えない斬撃を放つことなら、この技は、幻の斬撃を放ち、相手に斬られたと錯覚させて殺す技だ。
一種の魔法剣だな。
俺は、それを防御しようと見せかけ、すかさずフェイントをかけてそのまま斬りつけようとした。
満月とは、幻影を作り、相手に死んだと錯覚させる技で、さらにその上級には、半月という技がある。
これは、満月発動中に、ワンテンポずらして通常の斬撃を食らわせることで、相手の脳にエラーを起こさせる。
脳がこのエラーを蓄積していくと、だんだんとその人本来の学習能力によって、斬撃のタイミングが修正されていく。
そこで、ふとこの半月を無しにして、通常の攻撃を与えることで、相手を混乱させ、正常な判断力を奪うのだ。
なので、相手が満月は幻影だと知っているほど、この技の成功率は跳ね上がるという仕組みなのだ。
俺はこれを警戒して防御を見せた降りをしたのだ。
俺の防御が攻撃に移った。
しかしそれは、彼女の満月の裏からでた剣によって防がれる。
だが、それをいちいち認識していては遅いのだ。
なぜならその頃にはすでに、俺は分身転移を発動して、剣を彼女の首もとに突き立てているのだから。
「ずるいぞ!」
いつもとは違う俺の対応に、彼女は卑怯を訴えた。
「実戦ではそんなことは言っていられない。お前はもっと卑怯を覚えろ」
そうして、しばらく彼女の練習に付き合い、日が落ちた頃には、ヒレイは家に帰って、俺は二度目のシャワーを、リレルは領内の屋敷へと戻った。
しばらくそんな日が続いた。
その間に、俺はアシロへ行く準備を整えていた。
少し観光に出てみたい気分になった、というのは建前で、実際には己が内に秘めた、その闘争本能を解消するためというのが本命だ。
果たしてこの先どうなることやら。
そうして、俺たちはアシロへと旅だった。
次回「14」




