「04」通り魔
駅の前で、もう既に終電が出てしまったことを聞いた俺たちは、徒歩で帰ることになった。
その途中。俺たちは不可解なものと遭遇した。
「私、キレイ?」
そう聞いてきたのは、大きなマスクをした、前髪で顔の見えない大柄な女性だった。
「私、キレイ?」
再び聞いてきたが、俺たちは、変な人がうろついている程度で、気にも止めず、横を通りすぎた。
「え、ちょ、ちょっと!あなたたち聞いてるの!?」
そいつは、少し慌てた感じで俺たちの前にやって来た。
「あー、はいはい、キレーデスヨー(棒読み)」
めんどくさくなったので、俺は適当に流した。
すると、彼女はマスクを外してこう言った。
「それじゃあ、これでも!?」
現れたのは、耳まで裂けた、大きな口。
「うわ、キモっ」
フレアがそれを見て、引いた。
「なんですって!?」
そいつは、そう言うと懐から巨大なハサミを取り出してきた。
(うわー....めんどくせー....)
「フレア、あとは任せた」
俺たちはそう言うと、転移して帰った。
フレア視点。
「あとは任せた」と、ヤナギが転移した、その後。
彼女、口裂け女が、大きなハサミで襲いかかってきた。
「っと!」
ハサミが、アスファルトの地面に突き刺さっている。
結構深い。
私は腰の剣を抜くと、居合いの構えをとった。
ったく、何で私だけ....。
(さっさと終わらせて早く帰ろ)
能天気にも、私はそんなことを考えていた。
「フーッ!」
私の気合いと同時に、視認することができないほどの高速な斬撃が、大きなハサミを打った。
ガイィン!
強烈な金属音が辺りに響き、ハサミに剣が受け止められる。
「ヌアッハッハーッ!」
(硬っ!?)
「フッ!」
短い気合いと同時に、不可視の斬撃を放つものの、奴も人間離れした反応速度で、器用にハサミで攻撃を弾き、時折攻撃に回す。
「さすが、頭のネジがとんだ狂気の英雄!」
(何が狂気だよ!)
ホントに不愉快きわまりないな。
そんな私の心情は露知らず、口裂けはその巨大なハサミで突き刺してくる。
それを横に払って反撃する。
攻撃が重い。
「くそっ!」
縮地やステップを使って背後に回り込むものの、相手はそれを察知できているのか、背後に向かって攻撃を繰り出してくる。
(チッ....ここら一帯を壊すかもしんないけど、やらないとやられる!)
私は一旦距離をとって、剣を構えなおした。
「?」
真っ黒に塗りつぶされたような奴の目が、不思議そうにこちらを見てくる。
動きが止まり、隙が出来た。
「崩壊剣!」
特殊な体振動を使い、気圧を外に受け流し、それを剣の刃を用いて鋭く尖らせる。
すると、私を中心とした半径30メートルの空間が、一瞬にして消滅した。
モノレールの駅は半壊し、道路も粉々になり、駅前の店も粉砕した。
しかしそこには、奴の姿はなかった。
「やったか?」
私は周囲を見渡した。
つぶれたモノレールの駅に、木っ端微塵になった酒屋。
剣による傷でへしまがり、変形して跡形もなく崩れ去った線路。
まるで隕石でも落ちたかのような、足元のクレーター。
しかし、私の立っているところは健在だ。
この技は、体を特殊な方法で振動させることで、無数の剣撃を暴発させる技だ。
これは最終奥義である雷鳴の一段階下の技で、雷鳴では、半径30メートル圏内ならば、狙った場所へ剣跡を飛ばすことができる。
到底私にはまだ使えない技だ。
チゼは前方に集中させることはできていたけど、まだ一本には絞れない。
中学でチホを除き、一番だったあいつでもひとつに絞れないのだ。
それほどに難しかった。
因みに、崩壊剣を使えるのは、チホを除いて私とチゼの二人だった。
ガタリ。
クレーターの中、地下水路を貫通したせいか、下から地下水がわきだしていた。
その中に、奴は浮いていた。
前言撤回、水面に立っていた。
いくらかの斬撃は防いだようだが、片腕がとれかけ、片足はすでになく、頭も剥げていて、頭部に深い傷がついていた。
(嘘だろ、あの状態でまだ生きてるって、化け物かよ)
戦慄した。
すると突然、奴はバシャンと音を立てて水に沈んでいき、光の粒となって消えていった。
奴が死んだあと、そいつが持っていた巨大なハサミが、一泊遅れてバキンと音をたてて割れ、塵となって消えていった。
(なんだったんだ?あいつ)
私は、クレーターの中に一度降りて、奴が居たところへと向かった。
そこには、やはり何もなかった。
しばらくすると、王国警備隊のサイレン音が聞こえてきた。
「やばっ!」
私は急いで家へと帰った。
次回「05」




