表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶滅種族の転生譚《Reincarnation tale》  作者: 記角麒麟
復讐と山羊 Revenge and goat
28/159

「28」復讐と山羊 3

「もう、ひどいよね!みんなしてボクを置いていくなんて」


 不服そうに口を尖らせるリレル・トニー。


 彼女は奴の方へ向き直ると、両手に持った奴の放ったEMLを圧縮して作り出した槍を、さらに自分の魔力でコーティングして強化する。


 一際眩しく輝くそれを、奴に向かって投擲した。


 しかし、奴はそれを手で弾き、受け流した。


 流された超電圧のそれは、遠く後方まで飛んでいき、二つの大きな陥没穴を作った。


 五仙の放った一撃を弾いた。


 それも、素手で。


 いや、よく視ると、彼の掌には、何か黒い影のようなものが浮かび上がっていた。


 おそらく、真理術によって斥力でも作り出したのだろう。


 光をも弾く程の、強烈な斥力を。


 五仙というのは、五つの仙術をマスターした、仙術使いのことだ。


 先程、彼女が使って見せた技は、魔力強奪マジカルハントと呼ばれているものだ。


 これは、いかなる支配権を持つ持たないに限らず、すべての魔力の支配権を手に入れる、というものだ。


 要するに、「俺のものは俺のもの。お前のものも、俺のもの」みたいな技だ。


 なんというジャイアニズミストなんだ。


 そんな仙術を払った奴の真理術は、ここまで恐ろしいもの立ったとは、完全に予想外だった。


 俺たちは戦慄を覚えた。


「そんな驚くことないだろ?」


 突然、奴は喋り始めた。


「はじめましてかな?いや、そこの黒髪の女の子は久しぶりかな?」


 どうやらこの男は、俺がこの体に転生したことを知っているらしい。


 なぜだ?


「私の名前はクローゼット。以後、お見知りおきを」


「お前はなぜ、人を殺す?」


 口の聞けるようになった彼に、俺はそう尋ねた。


 彼が人を殺す理由がずっと気になっていたのだ。


「神の命令だよ」


「神の命令?」


 チゼがいぶかしげに聞いた。


「約7000年前、こっちでは次元間戦争って呼ばれてるんだっけ?終結したのが、2030年前、つまり、先天歴の始まった年だね」


「それが?」


「先天歴の由来は、異次元からやって来た異次元人により、この世界は戦禍の渦に巻き込まれた。長い長い、永遠とも呼べる年月を経て、ある年、五人の神がやって来て、異次元人を壊滅に追いやった。人々は、その五人の神様、先天神にちなんで、その日から暦を先天歴とするようになった」


 ここまで言ってもわからないのか。


 彼は、そうため息をついて、つまりな?と続けた。


「俺は、この先天神をまとめている神、システムの命令を受けて行動している」


 神からの命令という大義名分のための殺戮。


「信じるとでも思っているのかい、クローゼットくん」


 不意に、リレルの体が、その場に残像を残して、クローゼットに接近した。


「!?」


 直後、奴の体が中空を舞った。


 何をしたのか、全く見えなかった。


 彼は空中で姿勢を立て直すと、口に袖を押し付けた。


「エルフの癖にやるねぇ....」


「もと軍人だからね。百年近くもやっていたら、嫌でも身に付くさ」


「なるほど、記憶に留めておこう。それで、さっきの質問なんだけど、端からそんなことは思ってない。ただ、理由を聞かれたから答えただけにすぎない」


 彼は、こちらに人差し指を向けた。


 その手と腕を包み込むように、黒い光が現れ、先程とは全く形の異なる銃が出現した。


「遊びはここまでにしよう。さようなら、諸君」


 銃口に、赤い光が集まり始めた、その時だった。


 その銃身が真っ二つに切り裂かれ、爆発した。


 同時に、銃に集まっていた光が空中で激しく輝いた。


 危険を察したフレアが、その人間離れしたその剣速で、衝撃波を生み出して切り裂いたのだ。


 彼はその衝撃波の渦に呑まれ、粉々に切り刻まれて、体液をぶちまけながら、落下していった。


 しばらく呆然とする三人。


(....え?何が起こったの?)


 状況が全く飲み込めない。


 遊びは終わりだ、とクローゼットが言って、最終兵器っぽいものを出して、今にもそれを放とうとした瞬間、フレアがそれを斬って捨てた。


(全く納得できないんだけど....)


 ちらりと、俺は横目にフレアを見た。


 すると、彼女は振り抜いた剣を腰に直して目をつむった。


「い....」


「お、おい?」


 わなわなと震える彼女へ、チゼが手を差し伸ばした。


 すると、フレアはおもいっきり、こう叫んだのであった。


「....いぃよっしゃぁぁああああ!!」


「ぃよっしゃあ!じゃねぇ!」


 俺は、なんとも言えない、そして、行き場のない変な怒りを、その拳に任せて彼女の頭を殴りつけた。


「いってえ!なにすんだよ!?倒せてんだからめでたしめでたしじゃねぇのかよ!?」


「何がめでたしだ!なん....っにもよくねぇじゃねぇか!」


 ったく、何考えてるんだこいつは!


 あいつ!あいつ俺の敵!俺の憎む、家族を皆殺しにした敵だぞ?


 信じられるか?


 自分の復讐相手を、仲間とはいえ他人に横取りされるなんて!


 くっそ腹立つ!


「あいつ!あいつ俺の復讐相手!何でお前が倒しちゃうんだよ!?俺が倒す予定だったんだぞ!?」


「は!?そっちこそ、復讐相手って何さ?私そんなこと聞いてないぞ!?」


 そう言われて、俺ははっとした。


 ちらりと、ククルカンの方を向く。


「ぷぷっ」


「あ、お前今笑った!お前笑ったな!?」


「だ、だって....チホ....貴女、鳶に油揚げをさらわれた格好で目的を達成するんだもの。可笑しくないわけ無いでしょ?」


 腹を抱えながら、彼女は大笑いをした。


 仲間の一人が死んだというのに、なかなか呑気な話であった。


 数分後、大勢の軍兵が、あの赤い光を見てこちらにらって来た。


 そこで彼らが見たものとは、敵のバラバラになった遺体の前で、仲間一人を失いつつも、涙を浮かべて、さらに大声をあげて笑いあう四人の姿だった。


 後に、彼らは俺たちのことをこう言った。


『頭のネジがとんだ狂気の英雄』と。

 次回「29」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ