「27」復讐と山羊 2
「死ねぇー!」
怨みの雄叫びをあげながら、俺は貫手を放った。
しかし、それは奴の体に届かなかった。
「変わり身!?」
奴の姿を探す。
(いつの間に!)
気づけば、全ての分身が同時に煙と化し、ククルカンが斧で奴の斬撃を受け止めていた。
俺は、避雷針を生成して、奴に投げた。
しかし、彼はそれに向かって銃を投げつけ、それの起動をそらして床に弾いた。
(弾かれた!?)
俺は驚きつつも、彼の背後へ回り、回し蹴りを食らわせる。
動揺していた為か、少し狙いがずれる。
彼は左手でそれを掴み取り、ククルカンへと投げつけた。
俺とククルカンが絡まりながら数メートルほど飛んでいく。
恐ろしいほどの腕力だ。
いや、これも真理術なのだろうか。
そんな事を考える間もなく、俺たちは絡み合って地面へと叩きつけられる。
「シッ!」
フレアが縮地と併用して、剣を斬り上げた。
その剣は音速を越えて、空気の塊が纏わりついていた。
空気の塊が、薄く鋭い鎌鼬となって放たれる。
彼はそれを確認すると、受けず流さずそれを抜き足を使って回避した。
「チッ!」
フレアの前方のコンクリートの地面に亀裂が走り、廃墟と化したビルがまっぷたつになる。
彼女のそれは、もう既に人間の域を越えていた。
「──」
彼が、その真っ二つになった廃ビルを見て、戦いた。
奴に隙ができた。
その瞬間を狙ったかのように、男の立っていた地面が爆発した。
魔法によって、地下水路の中を通る水の分子を、高速で振動させたのだ。
そこにあった水は水蒸気に変わり、液体から気体になることによって増えた体積で、地下水路を膨張し、爆発したのだ。
彼は空中で刀を鞘に戻すと、両手を、空中に舞った瓦礫に触れた。
瓦礫が発光し、巨大な槍の雨となって、俺たちを襲う。
「Split open」
(弾けろ)
俺は魔法を発動して、槍の雨を塵に変えていく。
その土煙の中から、奴は刀の切っ先をこちらへ向けて突進してきた。
すかさずそれをからだの外へと弾くと、掌底を使って奴の脇腹を殴った。
しかし、手応えがない。
幻影か!
「チホ、上!」
上を見上げた時には、彼は刀を突き下ろすように構えて、上から落下してきていた。
避けていては間に合わない!
咄嗟にそう判断した俺は、分身を彼の真上に召喚して、座標を入れ換えた。
分身転移とでも呼んでおこうか。
俺は魔力を運動エネルギーに変換して、踵落としを放つ。
同時に、その大量の仮想的な運動エネルギーを、元の本来の運動エネルギーに上乗せして、背中を蹴った。
ドゴォン!という大きな音を立てて、本来の状態で放たれる以上の速度で、彼は墜落した。
(やったか?)
俺は再び分身転移を使って、チゼたちの方へ向かった。
「どうだ?」
「まだわからない」
チゼの問いに、俺は短く答えた。
あれだけの衝撃だ。普通の人は死ねるレベルだったが、どうだろうか。
まだ油断はできない。
すると、もうもうと立ち込める土煙の中から、ククルカンが飛ばされてきた。
「ククルカン!」
彼女はぼろぼろだった。
あ、そういえば、あいつが逃げる前に、蹴り落としたんだっけ。
しまったな。
確認するの忘れてた....。
(ククルん、ゴメン!)
心の中でそう謝りながら、彼女の様子を見る。
かなり傷を負っているものの、戦闘に支障はないようだ。
全部、小さな切り傷かかすり傷で済んでいる。
「私のことはいいわ!それより、全方位警戒して!」
どういうことだ?
しばらく、お互いに背を向けあったまま、警戒体勢をとった。
すると、複数の足音がこちらに近づいてきていた。
まるで、囲まれているような、そしてそれをじりじりと狭められている様な感じだ。
ふと、俺は違和感を感じた。
「Split open」
(弾けろ)
詠唱すると、周りの土煙が弾けた。
「なるほど、音を錬成したのか、こいつ」
姿を見せたのは、一人だけ。
奴だった。
「──」
不意に、彼の周囲に、緑に輝く発光体が浮かび上がった。
プラズマ光だ。
「まずい!逃げろ!」
「何よ、あれ!?」
奴が放とうとしているのは、おそらく、超電磁投射砲。
EMLだ。
発光体の数が増幅していく。
「──!」
すると、大量の光線がこちらに向かってきた。
その刹那、小さな人影が、間に割り込んできた。
光線が、その影に捕まえられ、その手に収束されていく。
「ふぅ....間に合った。全く、手間かけさせないでよね?」
長い水色の髪。
エルフ特有の長い耳。
まだ幼い甘い声。
小さな身長。
そして、華奢で小さなその白い手には、二本のプラズマの槍が握られていた。
(まさか、あれを全部素手で掴み取ったのか!?)
「元五仙、リレル・トニー、遅れて参上!もう、行くときはちゃんと声かけてよ。依頼書読んだの?」
古代種のエルフ、リレル・トニーだった。
次回「28」