「24」鍵の揃い目 3
アールマトリック・メイデンフェルツは、みんなからこう呼ばれている。
アムだ。理由は、名前が長いかららしい。
彼は、ここから北に数千キロも先にある、現在鎖国状態のツイド帝国から、政治的に追放された上級貴族の三男坊で、体の頑丈さだけが取り柄のような奴だ。
アムは、そのとてつもない性癖のお陰で、チャリナ国からイルス国へ移動する途中、その性癖は周囲への多大な迷惑と利益をもたらした。
いや、利益とは違うか。
しかし、かなりの役に立ったのは間違いないだろう。
そんな彼の性癖とは、ドがつくほどのマゾ、所謂ドMなのだ。
そんな彼にはいくつかの伝説がある。
道中どんな役に立ったかはのちのち話をするとして(話さないかもしれないが)、今回こいつの話をしたのは、彼に、この魔法実技の時間に、また新たな伝説が生まれたからだ。
「伝説?」
俺は、そう切り出してきたチゼの話を促した。
「そうなんだよ。今日魔法実技の授業で炙火って奴を習ったんだけどな」
グリエか。調理や拷問なんかに使われる地味だが強烈な、あの扱いが難しい魔法か。
「その魔法の試験の合格者に、俺の他に1人、そのアムって奴が合格したんだけど、その合格した奴の試験?の受け方がすごかったんだよ」
すると、ククルカンがフフッと笑った。
「もうだいたいわかったわ。どうせ、薪に対してグリエを使えって言われてるのに、彼は自分の体に対して魔法を使ったのね?」
「え!?自分の体を炙ったの!?」
オルメスが口にてを当てて驚いたしぐさをする。
実にわざとらしい。
こいつ、いったいどこでそんなの覚えたんだ?
「何で言うんだよククルん!」
「略すな!....まあ、いいけど....話が長くなりそうだったからよ。私、長いのは嫌いだわ。武器は別だけど」
すると、彼女は片耳をピクリと動かした。
「フレアとチホの分身が帰ってきたみたいね。迎えにいってくるわ」
彼女はリビングを後にした。
「そういや、最近、チャリナの方で連続殺人が起きてるんだってな」
チゼは紅茶を一口すすり、クッキーを手に取った。
「あぁ。はやく殺したいな」
「チホちゃん、殺意が漏れてるよ?」
おっと。
あいつのことを考えるとつい殺気が漏れてしまう。
俺は、紅茶を飲んで誤魔化した。
「世界人口の3割がその殺人鬼に殺されてるらしいからな」
「聞いてたのか、フレア」
「あぁ。さっきな。チャリナの避難民がイルスに押し寄せてきている。もうすぐここも落とされるな」
それはいくらなんでも早すぎだろ!
「軍の警備は?」
チゼがフレアのコートを取り、ロッカーへと持っていきながら聞く。
もはやチゼがフレアの嫁に見えてきた。
あ、性別が逆か。
「ありがと、チゼ。軍の方は、奴の討伐に参加する冒険者を集めてる。この分だと、そう遠くない時期に奴の討伐隊が編成されて送り出されるだろうよ」
彼女は、どうする?という目でこちらを見る。
無論、答えは決まっている。
「俺も行く。お前らはどうする?」
俺はどっちでもいい。
来てくれれば戦力になるだろう。
来てくれないなら、一人でいく。
俺の悲願の達成のために。
「俺はついてくぜ、ヤナギ」
チゼの言葉を皮切りに、仲間たちは同行したいと前に出た。
「一族の目的だからね。ついていくのは当然だわ!」
「私はヤナギの下についた。私はお前についていくって決めてんだよ、あの喧嘩で負けたときからな」
....あの喧嘩って、どの喧嘩だ?
俺、こいつと喧嘩したことあったっけ?
(覚えてないな....)
俺は心の中で彼女に謝った。
「私、非力ですけど....でも、やるだけやってみます!」
オルメス、それ死亡フラグだから!
こうして五人は、イルス殺人鬼討伐隊へ、加入することを決意したのだった。
次回「25」