「23」鍵の揃い目 2
体操服に着替えた俺たちは、体育館へと移動した。
「えー、今日から、魔法による実技訓練を担当するアライだ。よろしく」
魔法実技の担当教師は、うっすらと筋肉が隆起した男性だった。
魔法実技は、男女別れて行われる。
そのため、この場にチゼの姿はない。
「それでは早速、点呼を行う──」
アライの点呼が終わると、授業の説明が始まった。
「今回の授業は、初級風魔法のウィンドを練習してもらう。午前の魔法座学で教えてもらった通り、魔法はイメージの中に魔力を流し込むことで発動する」
すると、アライの右手の上に、うっすらと空気の揺れが見えた。
それほど強い風が、そこに発生しているのだろう。
「今、先生の右手の上には風が発生している。一ヶ所に風を纏めるには、その風を内側へと向かって回転させることがコツだ」
すると彼は、魔法をキャンセルさせた。
「それじゃ、互いに十分な距離を離れてやってみろ」
生徒たちが散り散りに散らばっていく。
そんな中、三人の女子生徒だけが、その場を動かなかった。俺とオルメスとククルカンだ。
「どうした?そこの三人。早く練習しなさい」
「いえ、あまりにも簡単なものを練習させるのだな、と思いまして」
俺はそう言うと、肩をすくめる仕草をした。
「いくら初級だからってなめてはいかんぞ。使い方さえ工夫すれば、いく通りもの使い道があるのだから」
「そうは言ってませんよ。ただ、俺とオルメスは練習する必要のないほど、その魔法が使えるので」
俺はそう言うと、彼が使っていたものより遥かに巨大で、はるかに細い、そして、きれいな形の小型の竜巻をつくった。
「カマイタチか。並みの練習量じゃ、それほどのものは作れないはず....」
簡単だ。
なぜなら、発動行程はイメージではなく、思考でも有効なのだから。
必ずしもイメージする必要はない。
いつしか、周りに生徒たちが集まっていた。
俺たちは瞬く間に有名人になった。
一年生にして、天候を操ることができる魔術師として。
そして、ククルカンは魔法を斬ることができる生徒として。
一方その頃、グラウンドにて。
「今日から魔法実技を担当するアラヤだ。よろしく」
アラヤと名乗ったその先生は、目が窪んで陰っているが、服の上からでもわかるほど、筋肉モリモリのマッチョマンな中年男性だ。
彼は黒いローブを羽織っていて、右手の黒い革手袋には赤色の刺繍糸で魔法陣が描かれていた。
一言で言えば、魔法戦士みたいな風貌をしていた。
「今日お前たちに練習してもらうのは、初級火魔法、炙火だ」
彼はそう言って手を宙に差し出した。
その手の周りでは、空気が微かに揺れ、黒っぽい陽炎が形作られていた。
炙火は、用途に物を火で炙る、という命令を与えた魔法だ。
彼はなにもないところでそれを発生させた。
炙るものがない場所を炙り続ける。それは、彼の技量がタダモノではないことを、言外に示していた。
「それでは、ここに薪がある。これに炙火を使え。その薪が燃えた時点で、お前らは失格と見なす」
そう言って彼は魔法をキャンセルし、薪を配り始める。
「試験、開始」
その授業では、たくさんの者が失格となった。しかし、それに失格にならなかった者がただの二人いた。
「オリガヤ・チゼ、アールマトリック・メイデンフェルツ。合格だ」
おお!と、周りから歓声と拍手が贈られる。
「一回の授業で合格を出した奴は2年振りだ。よくやった」
彼、オリガヤ・チゼもまた、アラヤの授業を一回目から合格を勝ち取った二人の内の一人として、有名人へと名を立てたのだった。
アールマトリック・メイデンフェルツはAhrumatorik Maedemphuelutuと書きます。もう長いので、次から(頭文字のAとMを繋げた)アムと呼称することにします。
因みに、ククルカン・エンテナートはKukluquan Entenertheオルメス・トライデントはHolmes Tridentというスペルになっています。
次回「24」




