「21」再開
それから二年の月日が経った。
俺は、ナタオカ中学を卒業し、イルス国にある、国立第一浮遊城前高等魔法学校へと、入学することとなった。
入試にフレア、オルメス、オリガヤ、ククルカンの四人を誘ったが、フレアは試験の実技で脱落した。
入試後の順位は、俺が13位、オリガヤとククルカンが共に14位、オルメスが15位となった。
なぜ、俺の順位が13位だったかというと、どうやらイルス国では無属性の魔法が知られていないらしく、顕現魔法と呼ばれる、物質を一時的に作り出す魔法しか扱われていなかったからだ。
さらに言えば、木材などの資源豊富なバルスでは、その類いの魔法はあまり使われなかった。
魔力濃度が薄いからな。
回復に時間がかかり、なおかつ継続的に消耗するものは、あまり好まれなかったのだ。
つまり、俺がそういう魔法の知識が無かったせいか、この順位になった。
といっても、無属性の魔法が使えることを考慮され、その分上がってきたのだがな。
「明日は入学式か....」
現在、俺たちはイルスに家を一括で買い取り、そこに住んでいる。
無論、親の金である。
金持ちチートって、ホントに何にでも役に立つ。
ところで、なぜ俺たちがイルスにいるかというとだが。
北からチャリナ、イルス、イガラシ、メリゴの四国続く国の国境の東にはテンブ砂丘群と呼ばれる砂漠が広がっている。
そこにあるとある集落(テンブ国領)に、奴が現れたという情報が入ったからだ。
ここに入学したのも、そいつがここまでやって来ると踏んでの行動だった。
「そうね、みんな同じクラスであることを願うわ」
ククルカンはベッドの上で教科書を読みながら言った。
「この教科書、デタラメにも程度があるわよ。魔法を属性分けしているけど、ぜんぜん当てはまってないじゃない!」
彼女は教科書に愚痴をとばしながら、パタンとそれを閉じた。
「なあ、ヤナギ」
不意に、二段ベッドの下で寝転がっていたチゼが、話しかけてきた。
「何?」
「チャリナって国には、魔力を、無意識の内に衝撃波に変えて攻撃する武術があるの、知ってるか?」
初耳だな。
「いや、知らんな。で、それがどうしたんだ?」
「それを使えばさ。魔力濃度の高いところ、一瞬で破壊できねーかな、って思ってさ」
ククルカンがその話を聞いていたのか、クスリと笑った。
「な、なんだよ?おかしいこと言ったか?」
「そりゃ、笑いもするわよ。そんな膨大な量の魔力、身が持たないわ」
むすっとした顔をするチゼ。
「なんだよ、笑わなくてもいいだろ!」
しばらく、そんな風に話し合っていると、部屋の戸が開いて、少し紅潮したオルメスが入ってきた。
「一番風呂、どうだった?」
「うん、気持ちよかったよ。ククルん、次入ってきて」
この家には風呂がついている。しかし、風呂といっても、シャワーだけだ。湯船に浸かるという習慣が、この国にはない。
「それじゃ、お言葉に甘えさせていただくわ」
ククルカンがスキップしながらシャワールームへと急ぐ。
なんだか、彼女の猫耳も嬉しそうにピコピコしていた。
たしか、猫って濡れるの嫌いなんじゃなかったっけ。
(ま、いっか)
俺は、嬉しそうに部屋を出ていく彼女を見送りながら、そう思った。
翌日、入学式。
式典の始まりの挨拶というのは、やはりどこの国でも同じらしい。かなり長かった。
入学式終了後、クラス分けに入った。運良く全員同じクラスだった。
すると、こちらに視線が刺さっていることに気がついた。
その視線をたどると、クラスが表示されている看板の前に、黒いローブを被った人が、ずっとこっちを見ていた。
「?」
フードの下から、長い金髪がゆらゆらと揺れているのが見えた。
(あの金髪....)
気になったので、俺は彼女の方へと向かった。
それに気がつくと、彼女はその場を離れて、逃げるように去っていく。
グラウンドを見覚えのある走り方で横切り、体育館とおぼしき建物を曲がって進んでいく。
心なしか、少し嬉しそうだった。
足がスキップを踏んでいるように見えるのだ。
体育館を曲がると、狭い道に出た。体育館と反対側の壁は木で柵が作られていた。
そこに、そいつは、いた。
こちらを向いて、被っているフードをとった。
面影のある、見覚えのある顔。
「久しぶり、チホ」
小学校卒業以来、会うことのなかった、一番弟子であり、旧友で親友で、最初の仲間。
そのまぶしい笑顔。
「やっぱりお前か。久しいな、リーシャ」
そう、彼女は、俺が中学時代初期にさんざんディスったリーシャだった。
ごめん、さんざんディスっておいて、後から親友とかいって。でも、気づいてないからいいよね!
次回「22」




