「18」不意に猫、鼠を狩る
その圧倒的な違和感に、俺の思考はしばらくの間フリーズした。
目の前にどこまでも広がる草原。
「どういうことだ?」
そして、この目が覚めるほどの、真っ青な青空。
俺たちは、周りをキョロキョロとしつつも、降り立った場所から続いていた一本の道を渡り始める。
「なぁ、ヤナギ。これ、どう思う?」
「どう思うって聞かれてもな....答えようがないよ」
「だよな....」
会話が途切れる。
しばらく、なにもない道を歩き続けていると、町のような、集落のようなものが見えた。
たしか、テレビでは見れなかった場面だ。
ということは、あれの内容はほぼ嘘としてとらえていた方が良さそうだな。
今思えば、単なるバラエティー番組で、本物の、命の危険すらあるところへあんなに重たい器具を持っていくわけがないよな。
あったとしても、カットされてたりしそうだな。
集落にたどり着いた。
といっても、ゴーストタウンのような廃墟ばかりが建ち並ぶ、不思議な場所だった。
昼間のゴーストタウンみたいな感じ。
(昼間のゴーストタウンってなんだよ)
一人虚しく、俺は自分の感想にツッコミを入れる。
あ、やべ。
マジで虚しくなってきた。
「誰もいない....って、それはそうか。古代遺跡だもんな、原住民なんているわけ──」
「チゼ、あれを見ろ。誰かいる」
「──え?」
俺の指差した方向に彼が振り向いた。
するとその先には、真っ白なワンピース、いやあれは病院なんかで着ている貫頭着か?それを着た、髪が白く、目の赤い中学生くらいの身長の女の子がいた。
「バルスの人...じゃないな。猫耳ついてるし」
ふと、俺は殺された妹を思い出した。
俺は彼女の方へと駆け出した。
彼女はそれに気がついたのか、はっとしたような顔をして左右を交互に見たあと、とある建物へと逃げていった。
「お、おい、待てよ!」
後ろからオリガヤがついてくる。
「あいつ、いったいなんなんだ?」
「知らん。けど、何か知ってるかもしれない」
短く言葉を交わし、俺たちは彼女の入っていった建物へと駆けていく。
その建造物は、周囲の家よりも格段に大きく、割れたガラス細工なんかが置かれていた。
なんというか、神秘的な雰囲気すらある。
おそらく協会の跡だろう。
もしこれが貴族の屋敷跡なら、周りがこんなに庶民臭くはないはずだ。
カラードガラスで描かれた、割れた窓から差す光の中に、彼女はいた。
その小さな手に、その体に似合わない大きさの銀色の斧を構えて。
『誰?』
直接頭に響くような声が、彼女から発せられた。
「ヤナギ・チホだ。ある目的のためにここに来た。今から聞くことを話してくれないか?」
答えると、彼女は警戒心を顕にした。
敵意のある警戒心だ。
『私は浮遊城ケットシェル神殿の神官をしていました。ククルカン・エンテナートです。すみませんが、その問いにはお答えしかねます』
剣のある声で、彼女はそう言った。
『敵なら容赦はしませんよ』
敵意をむき出しにして、斧を構える。
「じゃあ、もしこっちが勝ったら、答えてもらうことにするよ」
俺は、仕方なくそう言った。
だって、そうでもしない限り、教えてもらえそうになかった。
彼女のこととか、この浮遊城のこととか、ティータニアのこととか。
すると彼女は、俺に退く気がないことを覚ると、小野を少し持ち上げて、牽制の構えから、戦闘の構えに移った。
次回「19」




