「16」はぐれて飛ばされて
フレアが手に持った剣を中段に構える。
オルメスが魔法の詠唱を準備する。
オリガヤは背中に背負った二対の戦斧を抜いて構えた。
俺は右手を前に突きだし、衝撃波系の魔法の準備をする。
「ドラゴンにはその魔眼に応じた特殊能力を持つ。いろんな可能性を考慮し、それに備えて戦え!」
「「「了解!」」」
作戦を伝え、俺は目の前の金色のドラゴンに、最大出力の衝撃波を放った。
しかし、それは鱗に触れるか触れないか辺りのところで霧散した。
「──!」
ドラゴンが吠え、こちらに頭を向ける。
「魔法が効かない!?」
「そっちの黒い方はどうだ?」
「だめです!魔法を放とうとしても、金色の方が尻尾で弾いてきます!」
「こっちはそのときに金色に攻撃を試みてるんだが....あいつら、あんな大きな体の癖に、避けるのが上手すぎる!」
「こっちもダメだ!黒いの、全く刃が通らねー!」
これは俺の予測だが、もしかすると金色は魔法が効かなくて、黒色は物理が効かないのかもしれない。おまけに小回りが効いて連携もとれている。
「厄介だな....オルメス!最大火力でドラゴンのみにテンペストだ!」
「わかりました!」
オルメスが詠唱を開始する。
「テンペスト!」
耳をつんざくような轟音と共に、巨大な雷が落ちる。
「──!」
金色が素早く動き、黒色を護ろうとするが、しかし間に合わず、黒い奴の横腹に雷がヒットする。
しかし、それは奴を仕留めるには火力が足りなかった。
しかし、護りにいったのが悪かったのか。その隙をフレアは見逃さなかった。
「ぜやぁぁぁッ!」
気合いと共に、フレアが金色の鱗に斬りかかる。
「!?」
その刃は驚くほどの手応えのなさで吸い込まれていき、その鱗が両断され、肉に斬り込まれる。
だが、浅い。
「オリガヤ!」
フレアの呼び声に、オリガヤが反応、高速で接近し、その二本の戦斧でばつ印のように斬り込んだ。
その後は二人の斬撃の応酬が続き、それを守ろうにも、上に乗っかった黒色の体重で身動きがとれず、金色の方はなすすべもなかった。
「──!」
中まで切り開かれ、内蔵までその刃が通ったときだった。
苦し紛れに金色がその翼をはためかせた。
突如周りに起こる旋風。
それに耐えきれず、俺たちは吹き飛ばされた。
かなり長い間、俺は宙を舞っていた。
あまりの衝撃と高さに、意識を失っていたらしく、気がついた頃にはかなり高いところから落下を始めていた。
視界一面に見える緑。
そして、頭の中を駆け巡る恐怖。
落下死するかもしれない。
そう思ったとき、俺の落下は止まった。
代わりに、俺は物凄い衝撃を背中に感じた。
「うはっ!?」
いつぶりだろうか、こんなにダメージを負ったのは。
もしかしたら、初めてかもしれない。
受け身をとったとはいえは、背中がヒリヒリと痛む。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ....みんな、無事か?」
俺はよろめきながら立ち上がり、全員の無事を確認しようも、辺りを見回した。
バルスではたまにある話のひとつだ。ドラゴンのはばたきで起こった旋風に巻き込まれ、仲間が散り散りになる。
これも、ひとつの龍災だな。
こんなことを考えられるくらいには、俺も頭にはダメージを追っていなかったらしい。
しかし、動揺は自分の状態から見受けられる。
冷静になれ。
慌ててしまったら、判断が狂う。
そうやって自分に言い聞かせていると、かなり遠くの方に、オリガヤが見えた。
彼は橋の上に伏せるように倒れていた。
瞬間、奇妙な違和感とデジャヴを覚えた。
橋の上、というのは、本当に奇妙な単語である。
変に思った俺は、その橋の続く方へと恐る恐る振り返った。
するとそこには、案の定といえば案の定と言える景色が広がっていた。
「うそ....だろ?」
まさか、そんな台詞を吐く日が来るとは、夢にも思わなかった。
「浮遊城....だと?」
巨大な直立した柱の上に建つ、古代の遺跡。第二浮遊城が、そこにあったのだった。
俺かそれを見てはじめて思った感想といえば、強風で倒れるんじゃないかな?という心配であったことは、また別の話。
次回「17」




