「24」人形劇2
しばらく歩くと、そのコンクリートの廃墟が並ぶゴーストタウンについた。
「なんか、アレを思い出すな」
アレ、とはもちろんのこと、クローゼットと最初に戦った頃の、チャリナ国のあの場所でのことだ。
彼一人によって、荒れ果て、朽ち尽きた、コンクリートのビルが建ち並ぶ、あの街だ。
「確かにな。それよりどうする?一旦休むか?」
「そうだな。エディはどうする?」
エディスタがいいなら、俺も休むかな。
キリがいいし、何より、急ぐことは無いし。
「チホ様が休むなら、私はそれで構いません」
なら、休むか。
「フレア、少し休憩しよう。どこか休むのに丁度いい場所はわかる──っ!?」
と、その時、俺の背後から気配が瞬間的にだが現れた。
ほほ同時に、三人が振り返る。
しかし、そこには誰もいなかった。
(気のせいか?)
俺は、異能生成から以前作っておいた索敵を使って、周囲に生物の反応を確認する。
しかし、ここにいる三人以外の、いたってめだった生物はいなかった。
「フレア。今のって気のせいか?」
「いや、いる。さっき見えた」
見えたのか。
恐ろしい動体視力だな。
さて、いったい何がいるのか....。
「....移動しよう。相手は複数いる可能性がある」
フレアはそう言うと、辺りをぐるりと見回した。
移動した場所は、廃ビルのとある一室だ。といっても、壁などのしきりが一切ないため、正確にはとあるフロアである。
ある障害物といえば、コンクリート製の支柱くらいだ。
「それで、フレア。さっきのはいったい何なんだ?」
気になったので、聞いてみることにした。
「オートマタ....ではなかったな。それっぽいけど、違う」
「オートマタモドキか?」
「いや、どちらかと言えば、オートマタの方がモドキなんだろうね。あれより数倍は性能がよかった」
俺は彼女のそれに疑問符を浮かべた。
「ほら、リーシャがいつか話してくれたことがあっただろ?えーっと、そう。ペンドラゴンの所のアイツを教えるようになる日の前日くらいにさ」
そんなことあったっけ。
「すまん。覚えてない」
「オートマタはロボットだから、人間の神経的な動きの実現は不可能だけど、デザインドチャイルドなら、それを克服できるって」
デザインドチャイルド....。遺伝子を思い通りに組み替えて、容姿はもちろんのこと、思考、感情、性格、計算によっては運命すら決定できるらしいアレか。
「ラ・ピュセルですね。前にメアリーさんが言ってました」
「メアリー?」
「お前の子孫だよ。かなり助かってる」
眉を潜める彼女に、簡単にそう説明した。
「そうか。それで、メアリーから聞いたっていうのは?」
エディスタはフレアの問いに、どう答えていいか迷っているようだ。
そりゃ、日本で言えば、小学生高学年くらいの子供が到底理解できるものじゃないことは、何となく想像はつく。
「すみません、詳しくは....」
彼女はその猫耳を垂れて、しゅんとした仕草をした。
「気にすることはない。それよりフレア。戦えそうか?」
「いや、無理だ。相手の方が速い。目で追うのもやっとだし、気配も薄い。殺気や害意は感じられないことから推測するに、あれは生物とは考えにくいな」
「そうか....」
フレアでも無理となると、俺がやるしかないか。
「....よし。朔、俺の影に隠れてるんだろ?出てこい」
すると、足元からプカリと、黒髪の少女が現れた。若干ブレている様に見えるのは気のせいだろうか。
「妾に何か用じゃな?」
「ああ。お前の持ってる権限で、この二人を守護しておいてくれ。その間に、俺はアレを殺る」
「ずいぶんと上から目線じゃの?」
「人の影に住まわせてもらってるんだから、それくらい許せ」
俺はそう言うと、その廃ビルから降り立った。
気を集中させて、覇気を纏う。
しばらくすると、俺は気流を完全に把握した。
明らかに不自然な空気の乱れを確認する。
そこから、慣性とか、ベクトルとか、魔法の痕跡とかを解析していき、そこから読み取れるパターンを計算。
間、三秒。
俺は、次に来るであろうルートを計算によって導きだし、そこに妖力の粒子を少しだけ放った。
妖力は、魔素と存在力からなる。
存在力とは、その存在の強さだ。
無論、その強さがゼロになると、その存在は消滅し、無かったことになる。いや、正しくは、それ以降の記憶的情報が、バックアップデータごと消失する。
つまり、物質だけでなく、これは事象や概念にも有効なのである。
俺が妖力を放ったことで、そこに存在する『速度』という概念と、『移動』という事象を消失させた。
つまり、その世界ではすべての動きが止まる。
物質を作っている分子は振動をやめ、その場にとどまる。振動をやめたことによる状態の変化、すなわち気体から個体への変化すら、しなくなる。
結果、そこに移動と速度の虚無が生まれる。
ここに突っ込んだものは、全て、動きを止めるのだ。
そして、その、数瞬後、そこに一体の人型をした何かが捕まった。
いや、壁に当たったと言った方が正しい。
そしてそれは、その作り上げられた停滞した虚無の壁に呑み込まれ、生命活動を停止して、死んだ。
次回「25」
大編集が終わる頃まで、しばらくお休みします。
編集が終わり次第、活動報告にて連絡いたします。




