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絶滅種族の転生譚《Reincarnation tale》  作者: 記角麒麟
人形劇 にんぎょうげき
158/159

「23」人形劇

 フェルンを殺し、同時に血の石の破壊に成功した頃、彼、記角麒麟は、その様子をモニタリングしていた。


「──ここまでは全部思い通りだな。エリー、プランB」


「わかった。けど、麒麟さん凄いですね。どうしてこんなことができるんですか?」


 エリー──エリザベスは、端末を操作しながら、彼にそう聞いた。


「この世には、未来を計算する術があるのだよ。この世界に存在する人々は、外的要因にのみよって行動する。すなわち、この外的要因を変数として──」


 彼女の質問に対して、麒麟は講義を始めた。


「──で、あるからして、この変数とこの一次関数Aの関係は、立体的に交差するわけだ。この交差点こそが、人の」


「ね、ねぇ。なんか、難しくてよくわかんないんだけど。そんなことよりさ、私ココアが飲みたい!」


 彼の講義に飽きてきたのか、彼女は伸びをして、端末を机に置いた。


 すると、彼女のオーダー通りに、エリザベスの専用メイドとして造られたアリスがやって来た。


「どうぞ」


 ヒラヒラしたレースが多用されているメイド服を着たアリスが、盆の上に、まだ湯気の立つココアを持ってきていたらしい。


 エリザベスはココアを受けとると、ありがとうと微笑んで、一口すする。


「──まったく。それ飲んだら仕事しろよ」


「はーい」


 この物語の裏で、彼らは呑気にそんなことをしていた。


 因幡六花からしてみれば、まったく腹立たしい話であった。















 俺は、二人の所に駆け寄ると、魔法を使って、破裂した鼓膜を修復した。


「ありがとう、チホ」


「なんてことはない」


 俺は、彼女にそう答えると、エディスタの方を見た。


「エディ──」


「助けていただいたことには感謝します。ですが、一つお聞き願いたい。今までどこに行ってたんですか、チホ様!」


 すると、彼女が凄い顔でこちらを怒鳴った。


 そりゃそうだろう。


 血の石を壊したら、必ずすぐに戻ってくると言って、あの浮遊城を飛び出したきり、数年も戻ってこなかったのだから。


 こちらにそれを言い訳する権利はない。


 いや、これは権利とか義務とか、そういう問題じゃないだろう。


 これはもっと、根本的な問題だ。


「....」


(だがしかし、正直に話してもよいことだろうか)


 俺の心に、不安が上る。初めて経験する訳ではないが、それよりもとてつもなく大きな、不安。


 言うなれば恐怖に近かった。


 俺は恐れているのだ。


 彼女がこの現実をどう受け止めるのか。


 実は、この世界は、記角麒麟という男が作り上げた、ゲームの中だということを。そして俺は、そのゲームのプレイヤーだったということを。


 いや、正確にはゲームではなく世界──言い換えれば、記角麒麟が作り上げた、あの世界の下位的な存在である世界なのだが。


 大した違いではないか。何せ、この世界が一人の人間によって創られたことには、変わりがないのだし。


「チホ様は、私がどんな思いで、貴女の帰りを待っていたかわかりますか?」


 わからない。想像すらできない。


 俺は首を横に振る代わりに、彼女を抱き締めた。


「ごめん」


「....ごめんで済んだら、警察は要りませんよ、バカ」


 耳元で、彼女の圧し殺した様な嗚咽が聞こえる。


 こんなことは、都合がいいのかもしれない。


 俺がなんと責められても、文句は言えないし、俺自身として、言う気もない。


 同情なんて、できるわけがない。


 俺も今すぐ、彼女の肩に顔をのせて、わんわんと子供のように泣きたかった。


 しかし、自分のしてきたことのツケの一部が回ってきたと感じて、泣くことができなかった。


 なんとも無様な話である。


 『ごめんで済んだら、警察はいらない』って、案外意味が深いんだな。


 思考力の落ちた頭の中で、俺はそう思った。


 俺は、俺自身の理性が取り繕ってきた非情を、殴り飛ばしたくなった。


 何でも理性で考えようとして、ネガティブになって、自分に責任が回ってくるのを恐れて、逃げて。


 なんなんだろうな、こういうのって。


 情けないという言葉が、一番あっているような気がする。


 自分は子供なんだという言い訳に甘えてすがって、かっこわるい。


 これからは、もっと自分に素直に生きよう。


 俺はそう思った。



















 ひとしきり泣いて、エディスタが落ち着くのを見計らって、俺たちはその場を後にした。向かった先は、第三浮遊城だ。


 俺は、ナハトを使った空間転移で、あの場所に戻ってきた。


「ここが噂の浮遊城の中か。随分と広々したところだな、ここは」


 フレアが辺りに広がる草原を見渡して、その殺風景な景色にコメントを発した。


「浮遊城っていうのは、確か前にククルんに教わったけど、この世界への玄関口の事なんだと。つまり、ここは異世界と呼んだ方がいいらしい」


「へぇ、そうなのか....」


 彼女は伸びをすると、何かに気がついたように言った。


「あんな所にゴーストタウンか。さすが異世界。町と町の間が酷く遠いもんだな」


 フレアの視線を辿ると、そこには確かに街と呼べそうな影があった。


 でも、その距離は1Km以上も先だ。この距離でそれを完全に町だと言い当て、さらにはゴーストタウン化しているところまで見抜くとは。


 実際にそれがどれ程の視力は持たないかは知らないが、結構な視力を持つと聞いたマサイ族のようだと、俺は感心した。


「んじゃ、行くか」


 そう言うと、俺たちはそこに向かって歩き出した。

次回「24」

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