「20」吸血鬼のお誘い
どのくらい時が経っただろうか。数分、数時間。いや、ひょっとすれば数秒かもしれない。
俺の分身が戻ってきた。
パーソナルイデアを使って、情報を確認したものの、血の石は見当たらなかった。
(ここじゃなかったか....)
俺は引き返して、別のルートを探すことにする。
にしても、一人では時間がかかりすぎる。ので、俺は分身に探索を任せ、俺は一人地上へと帰還した。
「....」
さて、どうしようか。
大穴にもなかった場合、次に考えられるのは、俺の屋敷か。
(変なところで時間を使ってしまった....)
俺は大穴の縁で寝そべりながら、空を見上げる。
時刻はもう夕方になろうとしており、雪はもう止んでいる。
冷えた空気が、大穴の冷気に触れてさらに冷え、大森林からは吹雪でも吹きそうな冷たい風が吹いていた。
イルスでは俗に、フロストと呼ばれている風だ。
「はぁ....」
息が白く染まる。
俺は、冷える体を暖めようと、薪を焚いた。
パチパチとはぜる木が、どこか場違いで物寂しい気分にした。
しばらくパーソナルイデアから状況を確認していると、背後から近づく足音がした。
「やあ、先程は手荒いご返答ありがとうございます、陛下」
「生きていたのか、フェルン」
俺はすっと立ち上がると、振り返り様に彼の顔を見上げた。
「ええ。貴女がカグツチを使う隙に、少し手品をさせてもらいましたよ」
(こいつ、カグツチを知っているのか!?)
予想外だ。
あれはここで四百年以上も(寝ていたから)使ってなかったのに。
「ほう?手品か。貴様はいつ、手品師なんてジョブにチェンジしたんだ?」
「いったでしょう?私も強くなったんですよ」
彼は、ニッと笑うと、その場に腰を下ろした。
「そういえばお前、日光は大丈夫なのか?」
「心配してくれてるんですか?嬉しいですね」
「しねぇよ」
ルートの吸血鬼はたしか日光に弱かったはずだ。某吸血鬼映画でも、ド〇キュラ伯爵は朝日を浴びただけで灰になった。
「いったでしょう?私も強くなったと」
つまり、彼は日光耐性を身につけた、ということか?バカな。ルートの血の石そのものを改編でもしない限りそんなことは不可能....いや、もしかして、それをやったのか?
そうなると厄介だ。
弱点がわからなくなる。
いや、平民層のやつらに変わりは見られなかった。と言うことは、属を変えたのか?
「貴様は何を考えているんだ?」
属を変えることは、命を賭けたギャンブルも同然だ。失敗すれば確実に命を落とす。
「さて、なんのことだか」
彼はフフと何か含みのある笑みを浮かべた。
「それで、貴様は俺に殺されるために戻ってきたのか?」
「いえいえ。私は親切心から、ここには血の石が無いことを伝えに来たのですよ。こちらとしても、これ以上の被害は出したくないのでね?」
「なら、吸血鬼の心臓とも呼べるそれが、どうしてここにないと俺に教える。俺がそれを見つけてしまっては、お前らも死んで絶滅するだろ?」
「できるとは、思えませんがね。まぁ、言いたかったのはそれだけですよ」
彼はそういうと、姿を消した。
しばらくして、フェルンの言っていることが事実らしいことが判明した。
本当に、大穴には無かったのだ。
小さな穴から入り口付近まで。家屋の中の本棚の奥から絵画の裏や中まで探し回った。
しかし、血の石は存在しなかった。
「くそっ」
俺はそう毒をはいて、空を見上げた。
第一浮遊城よりも高く空に存在する、我が屋敷。
空中庭園へと、俺は目を向けた。
「となると、あいつのことだ。隠すとしたら、あの場所しか考えられないな」
俺は、分身と従者を消して、自分に翼を生やすと、大きくはばたいて、空へと飛翔した。
次回「21」




