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絶滅種族の転生譚《Reincarnation tale》  作者: 記角麒麟
人形劇 にんぎょうげき
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「16」地上へ

 彼女の持つ刀が、京馬へと迫る。それを、彼は膝を抜いて回避し、手刀で首を狙う。しかし、対する彼女は、雀足を使って回避し、瞬間的に俺の方へ距離を詰め、ノーモーションから刀を横に薙ぐ。


 一瞬だけ、刀が赤紫色の光を纏う。


 俺は、それをすんでのところで避けるが、服がそれによって斬り裂かれる。


 彼女はそのまま刀を返し、背後から突きを繰り出してくる京馬の手首を斬り落とした。


「なっ?!」


 ぐちゃ、という音をたてて、それは床へ落ちる。


「無敵化が効かなかった?!」


 スローモーションに過ぎていく、一瞬の時間。この約二秒間の出来事で、俺たちは不利を悟った。


 ツツジ・アスタロッツ・アリスを挟む形で、俺たちは距離をとる。


「えぇ、その技に関しては、色々と観察させていただきましたから」


(嘘だろ?)


 瞬時に、俺は彼女の驚異度を大幅上方修正する。


 あの無敵化には、確かに弱点がある。それは、タイミングの問題だ。気づかれない、不意をついた攻撃は、無敵化で防ぐのは難しい。


 それに、彼女の動き。常人の二倍はあろうかという早さだった。


 あれは、何度か京馬に見せてもらった『掃除は全員でやると早く終わる理論』の動きだ。


 彼女は、現代の人々が使う武術とは違う、古代の日本が使っていた身のこなしを使っている。簡単に言えば、全身の筋力を使って攻撃してきているのだ。


「それで、もう終わりですか?」


 彼女は、嘲るようにそう聞いた。


 挑発に乗るな。奴は単調な動きを急かして、集団の弱体化を試みているのだ。


(....直線上に京馬がいる限り、雷鳴は使えない....)


 せめて、彼さえ直線上から外れていれば....。


 そこで、彼女の動きを思い出す。


 彼女はあえて、この立ち位置に誘導させたのだ。


 俺の技を使えないようにするために。


 記角麒麟のことだ。当然、俺のその技を知っていてもおかしくはない。


 暫くの沈黙が辺りを支配する。


 どちらかが動けば、確実に一人は殺られる。


 動けない。


 それはまるで、金縛りの様だった。いや、某国の軍隊が、姿勢を崩さないようにするために、軍服の襟に細く鋭い針をさして、喉元に突きつけているような感覚の方が近いか。


 と、そのときだった。


 急に、彼女の足首に小さな手が巻き付いた。


「!?」


 彼女が気づくか気づかないかの刹那の時間に、その手はツツジを後ろへと引き倒した。


 衝撃で、彼女の手から、柄の無い、剥き出しの刀が抜け落ちる。


「今だ!」


 俺は、その小さな手によって、彼女のまな板な胸を押さえられ、重心の移動を塞き止められている彼女の顔面に、抜け落ちた刀で突き刺した。


 辺り一帯に、血の雨が降った。


「ほれ、妾に何か言うことがあろう、ハーファリスの小娘と和服小僧?」


 俺の影から、まるで池から浮上してくる浮き木のように、彼女は現れた。


「やるじゃん。助かったよ、朔」


 そう、影から浮上してきたのは、記角麒麟によって造られ、追放されたアリス──旧サブシステムのバックアップアカウントの擬人化AIこと、因幡朔だった。


「サブシステムとしての能力が残ってたお陰じゃの。感謝せい」


「お、おう。助かった。ありがとな、朔」


 京馬は、若干拍子抜けした様子で、そう言った。


「まあ、それはよいとしてじゃ。はて京馬よ。その手はどうした?」


 朔はそう言って、わざとらしくその切断された右手を指差した。


「少ししくじってな。そろそろ意識も落ちそうだ。クソいてぇ....」


 彼は顔をしかめながら、その傷口を、着物の袖で抑える。


「フム。では、恩作りにでも、その手を直してやろう。ちょいとその手を出せ」


 彼女は床に落ちた手を拾い上げると、彼に手を差し出すように催促した。


 朔は、血に濡れたその切断面を、よくよく観察すると、痛むが、我慢しろと言うと、おもむろにそれを、雑にくっつけ合わせた。


 無論、それだけでその手が完全に接合するわけではなかった。


 彼女は、その接合部分をグリグリと回して、無期を揃える。


 そして、そこを舐めた。もうそれはそれはペロペロと。まるで飴を舐めるがごとく。


 苦悶の表情を浮かべる彼。しかし、しばらくそうしていると、彼は何らかの変化に気がついた。


「治ってる....いや、直ってる、か?」


 なんとも表現しがたい感覚に、彼は陥った。


 そして、そうすること約二分。


 完全に、その手は元通りになっていた。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。これで、妾ももう嫁には行けんな。いや、そもそもそのつもりはないから関係はないか」


 彼女はどこか、まるで恋する乙女がごとく顔を赤らめさせていた。


「小娘よ。妾はしばらく主の影で休んでおる。二時間は休憩させてくれ」


 彼女はそう言って、俺の影へ、まるで沼へと戻るイクチオステガの様に戻っていった。


『主、さっきから比喩がとんでもなく気に障るのじゃが、止めてくれんかの?』


 頭の中に直接、朔が話しかけてきた。


 俺は、心の中でそれを詫びると、彼女の所持していた刀──鬼之涙おにのなみだと銘が打ってあった──を、改めて手に取った。


(持ちにくいな。何か、柄になるものは....無さそうだな)


 俺は、仕方なくそのまま持つことにした。

















 閑話休題。


 階段は急で、螺旋を描いていた。


 しかも、とてつもなく長い。


「なあ、イナバ。無限階段って怪談知ってるか?」


「....知らん。何それ....超怖いんですけど」


 そろそろ体力的に限界に近づいてきた頃、京馬が不穏な言葉を呟いた。


「無限回廊なら....知ってるけど....階段は知らんな....」


「似たようなモンだからいっか....てか、いつまで続くんだ、この螺旋階段....。もしかして、マジで無限階段じゃ....」


「おいおい、怖い話は無しにしようぜ、京馬。ただでさえキツイんだから....」


「....それもそうか」


 再び、無音の空間に、コツコツという靴音だけが響くようになる。


 正直、滅入ってくる。


 そして、その風景に唐突に変化が訪れた。


 俺たちは、地上に出た。といっても、海抜ゼロメートルの場所ではなく....こう、何て説明すればよいやら。


 立方体の上面に乗っている感じで、その立方体の庭みたいな奴が、不器用にそこかしこにくっついているような、そんな感じの所に出た。


 空は緑のかった青色をしており、白い雲が所々に浮かんでいる。天候は晴れだな。


 庭のような空間には、意味不明な形のオブジェクトがそこかしこから生えており、耳に牙がついたような大型の白いウサギがのっそのっそと闊歩していた。


「な、なんだ....ここは....」


 なんとも言いがたい光景に、俺たちはただただ呆然とする他無かった。

次回「17」

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