「14」習得
無敵化の習得は、思ったより時間は必要なかった。というよりは、習得したのが、それから三日後だったのだから。
「お前、本当に人間か?」
「失礼な。体はいたって普通の人間だよ」
修行を終え、俺はペットボトルから水を飲んだ。同時に、回復の魔法を使用する。
「──それも手品か?」
切り傷だらけの腕が、瞬時に回復していくのを見て、彼は疑わしそうに呟いた。
「そうだけど?」
手品って誤魔化すのも、そろそろ疲れてきたかな....。でも魔法っていうよりはまだましだろう。
「ふーん」
彼は納得しがたそうにそう呟いた。
「休憩が終わったら実践テストをする。十分休んでおいてくれ」
「了解」
しかし、タイミングを覚えるのは苦労した。
一瞬でもずれてはいけないというのは、本当に難しい。条件反射レベルまでにレベリングするのに、結構な時間を要した。いや、これは本来数年単位の習得になるはずだったんだ。使えるようになるのに三日というのは、やはり早すぎなのだろう。
俺は、胴着の帯を緩めて、床に仰向けに倒れた。
崩壊剣の習得に要した時間は、四年だった。そのお陰で、体振動をコントロールするのには、さして時間を必要としなかった。そのお陰なのかもな。
俺は、ぼんやりと疲弊しきった頭でそう考えた。
「無敵化には、弱点があるな....」
その弱点とは、死角から襲われてしまえば、発動することが困難ということだ。
受け身なら、若干の時間差が存在するため、不意でも慣れれば条件反射的に行動が可能だ。しかし、この無敵化は、触れた瞬間とほぼ同時に発動しなければならない。
そして、陰斬浸透波は防げない。
いや、ひょっとしたら可能かもしれないが、体内に入ってくるランダムな振動を体外へと逃がすのは至難の技だろう。
三日の修行で、気を集中させなくてもある程度時間をかければ、あの赤紫色の攻撃を放てる様にはなった。
京馬はあの光を『覇気』と呼んでいたけど、流派によっては魔力や呪力とも呼ぶらしい。
そして、無敵化では、その光の波をも、体振動で外へ流すのだそうだ。
(まさに無敵、か)
俺は喉を潤すと、よいせっと掛け声をつけて起き上がる。
もう十分体力は回復した。
京馬に教えてもらった呼吸法による、持久力の回復を使ったのだ。
加えて、抜き足も覚えた。あれ、実は体の動かしかただけではなく、呼吸法も必要だったらしい。
「よし、回復した」
俺は体育館を出ると、中庭で瞑想をしている京馬を見つけた。
彼は、俺に気づくと、その場で立ち上がった。
「もう休んだか?」
「お陰さまで」
俺はそういうと、無武の構えをとった。同時に、未来視を発動する。
未来視によって彼の動きを把握した、その瞬間。
俺の視界に、彼の足刀が見えた。
あらかじめ未来視によってその行動を見ていた俺は、無敵化を使ってそれを弾く。相手の足が反動で後ろへ引かれ、逆の足が出てくるが、それも無敵化で弾く。
そして、弾いた足を脇に抱えて、股下を潜るようにスライディングし、背後に回って、彼の足を上に持ち上げ、前に倒す。
彼は見事に前に倒れるが、受け身をとって、同時に、俺を巴投げする。
空中で姿勢を戻し、抜き足を使って接近してくる京馬の動きを見切って、彼の右の突きを、八の字を書くようにして払い、脇に挟み込み、掌底を顔面に向けて放つ。
彼は顔を横に傾け、それを回避すると、同じように八の字を書くようにして払い除け、脇に抱え込み、体を捻って首と肩を同時に極めようとするが、それを回避するように、俺は彼の腕を踏み台にして跳び上がる。
そして、俺は肩の上に着地すると、右足で顔面めがけて蹴りを放つが、しかし彼はそれを回避して、バクテンの要領で俺に向かって蹴りを放つ。
俺は、肩から跳び降りて、京馬が着地した瞬間を狙って腹に突きを放つが、無敵化を使って弾かれる。
バキッと、俺の腕の骨が折れる音がする。
俺は一旦距離をとりながら回復魔法を使い、骨折を治癒する。
距離をとった瞬間、俺の頭部めがけて鋭い貫手が放たれるが、間一髪で回避する。
回復魔法で腕の治癒が完了した。
その瞬間を見計らったかのように、彼の回し蹴りが後頭部を狙う。しかし、無敵化を使ってそれを防御し、弾き飛ばされると同時に飛んでくる逆方向の蹴りのフェイクを見切って、左フックを彼の右側面に回り込むことで回避する。
しかし、その回り込んだ方向の腕から、肘鉄が繰り出された。
しかも、俺の視界の外から。
俺は無敵化を使って防御しようとするものの、タイミングが合わずにもろにその衝撃を受けて弾き飛ばされる。
空中で回復魔法と呼吸法を使って、体力と傷の両方を回復させる。
(体力回復には時間がかかる。ここは一旦距離をとって....)
瞬間、未来視に彼がすぐ目の前に迫っていることが映り込んだ。
「?!」
彼の掌底を間一髪のところで、大半花を使って投げ飛ばすことで回避した。が、それが不味かった。
瞬間、俺は着地した彼によって、足元をすくわれて、倒れた。
反射的に受け身をとって頭へのダメージを無くす。
しかし、俺が気がついたときには、すでに彼の二本の指が、俺の目の前に突き出されていた。
「よくやったな」
彼は、息が上がった俺を助け起こして、頭を撫でた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。お前、ぜんぜん本気じゃなかったな....。俺はそこそこ本気だったのに、全く歯が立たない」
俺の放つ技のことごとくを回避していく京馬は、どこか余裕さえ感じられた。
俺の何倍も上を行っているような感じだった。
(まさか、未来視すら掻い潜ってくるなんて....)
彼の動きはすべて読めていた。だからこそ回避できた。もし未来視がなければ、二回目の足刀でやられていた。
「ここまでできれば上出来ってもんだ。誇っていい。それに、無敵化もちゃんと実戦で使えていたのはわかったし、合格でいいかな。でも、まだ満点じゃねえから、そこわかっておくように」
彼はそう言うと、俺にスポーツドリンクを手渡した。
「ちゃんと飲んでおけよ?」
そうして彼は、屋敷へと戻っていった。
次回「15」




