「12」難易度星五つ
「んじゃ、まずは基本技から教えようか。ジズ、包丁を持ってきてくれ」
「わかったー」
あの後、俺は京馬に修行をつけてもらうことにした。
「包丁?いったい、何をする気だ?」
「ふむ。まずは基本技であるところの、無敵化を教えようと思う」
それは本当に基本技なのだろうか。
俺の怪訝そうな目を見て、彼はニヤリと微笑んだ。
「俺も、師範代から教わったときは、度肝を抜かれたからな。俺が教える技の数々は、先ずこれの上になりたっている。つまり、これができなければ、何も使えないってことだ」
と、なると、彼の技はとんでもなく高度なものなのだろうか。
少しワクワクする。いや、違うか。俺は、アスタロトを殺すための技を覚えられることが嬉しいのだ。
しばらくすると、ジズが、その身の丈を越えるサイズのアタッシュケースを2つ持ってきた。
(中にあるのって、本当に包丁なんだよな?)
京馬はそれを受けとると、中から一振りの包丁を取り出した。
「イナバ、これでおもいっきり、俺の腹を刺してみろ」
「わかった」
彼が言うことだ。何か考えがあるのかもしれないし、それが無敵化の技かもしれない。
俺はそう思って、躊躇なく、今出せる限り最速最強の一突きを繰り出そうと構える。
数分かけて、大気の流れを掌握した。
(いける....!)
包丁の刃先が赤紫色に輝く。そしてその輝きは、包丁全体に広がり、一際輝きを増す。
そして俺は、技を放った。
吸い込まれるようにして放たれた包丁の刃先が、彼の腹を触れた瞬間、しかし予想に反して、包丁の刃が真ん中から折れて弾けた。
「なっ....?!」
刃先が腹部に触れた一瞬。いや、それよりもっと短い刹那の間に、触れた場所から同心円状に赤紫色の波紋が広がったのが見えた。
しかし、この驚嘆の声をあげたのは、俺ではなく京馬だった。
「おもいっきり、と言われたので、その様にしたんだが....間違っていたか?」
目を見開いたまま硬直している彼に、俺はそう尋ねた。
さっきの現象。
鉄格子でやった時の波の広がりとは違う。あれは包み込まれるようにして光が広がったが、今回は、池に意思を投げ入れた時のような波紋が広がった。
いったい、何が違うのか。
彼は、俺の問いに数秒遅れて、返事を返した。
「い、いや....違いないんだが....」
彼は、何かを言おうとしたものの、何を話してよいかわからないようだった。
「イナバ、さっきの技は、どこで覚えたんだ?」
「覚えた....っていうよりは、杏子に閉じ込められたときに、なんとか脱出する方法を探ってたら、なんか使えるようになった、というか、なんというか──」
説明しろと言われても難しいんだよな....第一、俺もそれがなんなのかは理解的ないわけだし。
しかし、わかることと言えば、その技が、俺の持っている、使える中で最大威力の技であると直感していることくらいだ。
なんせ、神気道の天変地異を応用して作ったわけだし。
俺が、悩んだようにそう答えると、彼は口を開いたまま、固まってしまった。
「それでは改めて、無敵化について説明しようと思う」
仕切り直すように、彼は手を打ってそう言った。
「無敵化とは....んー。難しいな。あらゆる攻撃を無力化させる、というより、エネルギーの伝達制御、って言えばわかるか?」
エネルギーの伝達制御?
「ほら、さっき包丁をこうやって腹に刺そうとしただろ?あれは、作用するエネルギーの振動を、体内を通して大気に受け流して、受け流したエネルギーを倍加させて同じ方向へと投げ返しているんだ」
(どゆこと?)
つまり、崩壊剣は体振動で空気の刃を作り出して(正確には、気圧を特殊な体振動で受け流して、そのエネルギーを発散させているのだが)攻撃しているのに対し、こちらは、放たれたベクトルを、向きだけを反面させて、そのエネルギーを大気に流して倍加させ、体振動を使って全く同じか、もしくはそれ以上のエネルギーを叩きつけている、ということか?
なるほど、崩壊剣の応用技か。
となると、技の発動にはタイミングが合わないといけないってことだな。
一瞬遅ければダメージを負うし、早ければ技はミスする。
タイミングが命か。
「わかってくれたか?」
「──何となく。しかし、かなり高度な技だな。これが基本って、他の技はどうなってるんだよ?」
「この技術を利用した、ほぼ筋力を必要としない技術だな」
針流だって、基本は相手の虚をついたり、エネルギーの向きをずらして威力を削減したり、速さによる威力の増強だったりするのに。
こいつのそれは、エネルギーの振動を支配することが基本なのかよ....。
習得に時間がかかりそうだ。
そうして、俺の長い修行の日常が始まった。




