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絶滅種族の転生譚《Reincarnation tale》  作者: 記角麒麟
人形劇 にんぎょうげき
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「03」番外 東の外出

「なるほど、それで、俺の夕夏たんは今、イナバに占領されているわけか」


 東は一人、リビングで数学の問題を出しあっている二人の少女を見ながら、頭をガリガリと掻いた。


「俺の夕夏たんって。東はロリコンなのか?」


 霧葉は、肩をすくめながらあきれたように呟いた。


「は?誰があんなガキを。あいつがいつもかまってくるから、俺は──」


「あー、はいはい。いつもご苦労さん。はいこれ。主人から」


 霧葉は、東に一通の封筒を手渡した。かなりの厚みである。


「千円札が、ざっと百枚か。けち癖ぇな。十万円札を一枚パッと出してくれりゃ、それでいいのによ」


「十万円札なんて聞いたことないよ?それじゃ、僕は少し出てくるよ」


「おう、行ってらっしゃい」


 振り返らぬまま、彼は彼女に手を振った。


(さて、茶飲んで寝るか)












「あれ、緑茶がねぇ。おいカズ!緑茶は?」


(....返事がねえな。出掛けてるのか?)


 仕方がない。買いにいくか。


 東は、欠伸をひとつすると、クロスワードで対決している因幡六花に、外出することを伝え、外に出た。


「んーっ」


 夏も終わり、季節はもう秋だというのに、残暑のいまだ残る外気に伸びをして、彼は徒歩で近所のスーパーに向かう。


「あれ、このドア、自動じゃないのか?」


 スーパーまで来たはいいが、扉が開かなかった。遠目に見ていた分には、完全に自動ドアだと思っていたのだが。


 彼は、開かない扉に手をかけて、半ば無理矢理といった風にその自動扉・・・をこじ開けた。


 手にかかる妙な抵抗力に、もしやと思い、手を引っ込める。が、しかし時すでに遅し。


 その扉は、怪物に喰われたかのようにぐしゃりと歪んでいた。


(またやっちまった....)


 東は、周りを見回した。多くの人が、その情景を目にしていた。今や、ちょっとした見物人の山が出来上がっていた。


「やっべ」


 遠くから、警備員とおぼしき人影が、こちらへと迫ってきた。


「君!ちょっと、事情を聞かせてもらえるかな?」


「....えっと....はい」


 逃げると、よけいな思い違いをされることは、経験上確認済みだ。ここは本当のことを言っておいた方がいい。


「で、これ壊したのは、君でいいのかな?」


「壊したっつうか、入ろうとしたら、自動ドアが開かなくて、マニュアルなのかと思って引き戸みたく引いたら、この有り様で──」


(あー、誰か助けてくれないかな....)


 この時代、彼が外に出ると、大概こうなった。

























「本当に申し訳ありませんでした!」


 頭を下げる店長と警備員。


 両の手にぶら下がるのは、無償で手に入れた菓子パンと緑茶の茶葉と綾〇のペットボトル数本が詰まったビニール袋。


「いいよ、こんだけタダで貰ったんだ。言うことは無し」


 結局のところ、あれはタイミングが悪く故障しただけだった。


 東の怪力で壊す前から。


 なので、俺は無罪だ。いや、正確には、扉を半壊させたのだから、こちらは本来有罪なのだが、そこは彼の身分証明書やらなにやらが一役買ってくれたらしく、結果的に無罪を勝ち取った。


 否。この場合は、もぎ取ったとの表現が適切だろうか。はたまたはえぐり取ったか。


 彼は、手を振って、そのスーパーを後にした。


「あー、疲れた」


 彼の外出は、トラブルが今日も、つきまとう。


 しかし、そこにそんなトラブルを楽しむ自分の姿が、そこにはあった。


 東はコップに注いだ緑茶を飲み干して、ソファーの上に横になった。

次回「04」

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