「02」天才
案の定、と言ったところか。
教室に戻ってからも。俺に話しかけるような人はいなかった。
それでいい。そうしてくれた方が、無駄な時間を浪費せずにすむからな。
そして、一刻も早く、あちらに戻らないといけないのだから。
「あ、あの、因幡さん!」
そろそろ帰ろうかと思い、立ち上がろうとしたところに、一人の女子生徒が俺に話しかけてきた。
「何か?」
あえて高圧的な態度をとる俺に、彼女は少し安心したような笑顔で、話を続けた。
「先生が、職員室に来てって言ってたよ」
「あー、なるほど。わかった」
俺は、そのときすでに、教室の出口の上、つまりは廊下の天井に、何者かの気配があることを知覚していた。
概ね、強襲をかけるといったところだろう。
なので俺は、地上二階の窓から、下に降りることにした。
「あ、あの、因幡さん!ここ二階!」
止めようとする彼女の声を無視して、窓枠に降り立つと、幅の狭い窓の屋根を伝って、ちょうどいい高さまで降りる。
そして、俺はそこから飛び降りて、着地と同時に受け身をとって、ダメージを回避した。
そして俺は、そのままマンションまで徒歩で帰った。
「ただいまー」
「おかえり、りっちゃん!」
帰ってくると、宮崎がとても嬉しそうな、やけにハイテンションに出迎えてくれた。
(何かあったのか?)
俺は、そんな怪訝そうな顔をしながら、飛んできた両の手を掻い潜って、スルーした。
「桐野さん。宮崎さんどうしたんですか?昨日まで血眼だったのに」
俺は、いつも一緒にいる桐野に、事情説明を求めた。
宮崎は、追先日まで、プランターキメラの件で、レシピをもう一度一から作り直していたのだった。あれでもない、これでもないと、それはもう鬼の形相だった。
そりゃあもう、夜叉でも戦く程くらいに。
で、あれば、大体の察しがつくというものだ。普通に考えれば、そのプランターキメラの件が片付いたということだろう。
「プランターキメラが生きてたんだってさ。昨日、屋敷跡に行ったら、そりゃあもう、盛大に野生化していたんだよ。背筋も凍るくらいにさ」
俺は、まだ一度もそれを見たことがないので、どうなっているのか情景を想像することはできなかったが、言い様を見ると、それはもう凄かったらしい。
「ふぅーん。よかったじゃん」
俺はそう言って、リビングのソファーに腰を掛けた。
「お帰りなさい、因幡さん。制服、もう洗濯してしまうので、着替えてきてくれますか?」
「わかった」
俺は、普段着をもって、脱衣所へと向かった。
脱衣所には、小学校の制服を脱いだばかりの夕夏の姿があった。
「わっ!な、なんだ白兎か....」
少し残念そうに下を向く夕夏。
いったい、何を期待していたのだろうか。
「誰だと思った?」
「東ならよかった」
彼女はさらりとそんなことを口走った。
(何故に東?)
俺は少し疑問に思いながらも、普段着へと着替えた。
「どうして東ならよかったとか、聞かないんだ?白兎なのに」
「俺をあんな年中発情期の、耳の長い小動物と同じにするな」
「そこは普通にウサギって言おうよ?何?自分の知識を無駄に他人に見せつけたいの?知系ナルシストなの?」
「なんだよ知系ナルシストって。地形かとおもったじゃねえか」
「面白くないよ。っていうか、それもうナルシスト関係ないよね?」
やけに博学とした小学生だな。ひょっとしてエディスタより知能指数高いんじゃないのか?
「こんな話が成立するなんて、頭いいのな、お前は」
「当然です。高校一年の問題なら空を見ながらでも答えられるよ」
「天才か?!」
「天才ですが、何か?なにか?なにか?なにか?」
「自分でエコーをつけるな!」
「心外ですね。面白いと思ってやってみたのに」
「な、なら、そうだな。y=x×(8-2x)の式に置いて、yが0の時のxの値は?」
「中学生の問題ですか。答えは0と4です」
「すげー!即答しやがった?!」
こいつ、本当に小学生か?!
そう思った瞬間であった。
次回「03」




