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絶滅種族の転生譚《Reincarnation tale》  作者: 記角麒麟
人形劇 にんぎょうげき
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「01」独特なパーティー

 西暦2042年9月1は月曜日だ。


 だんだんと涼しくなってきた今日この頃、俺は、東京馬と華望一葉に連れられて、近くにある私立中学へとやって来ていた。


「何で俺が....」


 酷く不快な気分で、俺はまるでグレイが二人の男にさらわれるような構図で、門の前にいた。


 否。それは少し言い過ぎだろう。両の手を繋がれていることには変わりがないが、別にぶら下がっているわけではないのだから。


「義務教育です。15歳になるまで辛抱してください」


 華望は、そんな俺に、ニコリと微笑みかけた。


(うぜぇ....)


 反射的にそう思いながら、職員室にやって来た。


 東が扉をノックする。


「失礼します」


「ああ、彼女が因幡さんですね。話は聞いていますよ」


 出迎えてきたのは、初老の男性教師だ。


(何でこうも男が多いのやら。逆ハーレムはお呼びじゃねぇっての)


 病院で覚えた言葉で、俺は心の中で一人愚痴た。


「助かります。後は任せました。因幡さん、くれぐれも──」


「わかってるよ。子供じゃないんだから」


 俺は、彼の言葉を途中で切った。


(心配性ということは、さんざんわかってる)


 心配性。それは、相手の行動に限りなく心配になり、逆に相手の行動力を狭めたがるサガのことだ。


 言ってみれば、サディスティック極まりないのだ。己が自覚しない分、厄介とも言える。


「では、ついてきてください」


 俺は、教師について教室へと向かった。











「──では、入ってきてください」


 教師の掛け声と共に、俺はその木でできた引き戸を開けた。


 壇上に上がり、チョークを使って、黒板に名前を書く。


「因幡六花。よろしく」


 特に話すようなことは思い当たらないので、それだけで済ませた。


「....あー、他に、何か一言ないですか?」


「知ってます?人と話すときには、自分はかなり無防備で、かつこのような時間はほとんどの場合、これだけの情報があれば足りるのです。知りたければ個人で聞いてくればいいし、そもそも聞きたくもない要らない情報を公開することに、意味が見いだせないのです。さらに言えば──」


「はい、はい。そうですか。わかりましたよ。それでは、因幡さんはそこの、右奥の空いてる席に座ってもらえるかな?」


 俺の演説を途中でぶったぎって、彼は俺に着席を命じた。


「了解」


 俺は、その示された席について、ふぅと息を吐いた。


 実際のところ、何を話してよくて、何が話してはならないのか、よくわからなかったのだ。


 もし、ここが以前のトマヤのように、魔法は実は使えるのに使えないと思い込んでいるのなら、その話しはするべきじゃないだろうし、また、この体ではいくら戦闘慣れしているかといっても信じてくれようはずもないのだ。


 消去法で行けば、何も話さないが無難だったのである。


(にしても、この学校の制服。酷いものだな)


 俺は自分のみなりを改めて見直した。


 制服は、基本的には女子生徒はセーラー服、男子生徒は黒の学ランだ。


 理事長の趣味なのかは知らないが、教科の中には、対人戦闘術の科目まである。


 普通はそんな科目は存在しないのに、この学校は。


 俺は、半ば担任の話を聞き流しながら、そんなことを思っていた。


 今日はどうやら、授業は無いらしく、この後はちょっとした歓迎会をして終了するらしい。


 その歓迎会というのが、この学校独特のものだった。


 それは、歓迎会という名前の、組み手だった。















 場所は、第二体育館。通称コロシアムと呼ばれている場所だ。


 ルールは簡単。クラス全員と順番に組み手をしていき、俺が何人抜きできるかを試すというものだ。クラス側は、俺を全力で勝たせまいと戦い、こちら側は、逆に全員をなぎ倒せといった感じだ。


(まあ、神気道のあれやこれを、魔力なしに再現できれば、殺さずに進められるだろうな)


 そんな物騒なことを思いながら、俺はコロシアムの真ん中に立った。


 組み手のルールは、相手が不意打ちを仕掛けてくる。こちらはそれをいなす。


 タイミングはバラバラなため、転校生のほとんどは一人も抜けなかったらしい。


(だがまあ、中学生だし、仕方なかろうな)


 俺は、無武の構えをとった。


 瞬間、背後から、ほとんど聞き取れないほどの小さな足音が聞こえてきた。しかし、俺はそこから相手の体重と身長と性格を見極め、最初の第一撃を、体をそらすことで避けた。


 相手が前によろめき、バランスを崩す。


 相手がよろめいたところで、足首に足を引っ掻けて、転がした。


 だん!という勢いのいい音が、コロシアムに響いた。


 これには技の名前がない。むしろ、名前をつけるとしたら、足を引っ掻けるの一言にすぎる、基本的な技術だった。


「足が踊りすぎだ。攻撃が当たるまで、気を抜くな。いや、違うか。例え当たっても気を抜くな。油断大敵。覚えておけ」


 そう言っているそばから、二人目の攻撃がやって来る。


 風切りの音が聞こえるが、ルール上武器の使用は認められていないので、角度的に考えてこれは手刀打ちだろう。


 俺はそれに小手返しを使って投げ飛ばした。


「相手に捕まるな。捕まったなら、それを利用して相手を倒せ」


 俺はそいつにそう指摘を入れる。


 二人目まで来ると、もはや誰も彼も、俺に立ち向かおうとはしなくなってきていた。


(なんだ、つまらんな)


 俺はそう思って、待機している生徒の方へと足を運んだ。


 その足取りはゆっくりだが、近づいていくごとに、相手は俺への恐怖心を増していく。


 神気道では、凶器の歩み、という由来で、凶歩きょうほと呼ばれている歩行術だ。


 気がつけば、俺は彼女の前に立っていた。


 そして、おもむろに彼女の目の前で、猫だましをした。


 瞬間、彼女は糸が切れた人形のように床に崩れ落ち、失禁した。


「どうする?まだやる?」


 俺は、満面の笑みで生徒たちに聞いた。


 生徒らは、皆揃って首を横に振った。しかし、一人だけ、俺の前へと出てきた人物がいた。


「まさか、担任の教師が出てくるとは予想外ですよ」


 俺は、初老の男性に、フッと嘲るような笑みを向けた。


「あなたは案外、楽しませてくれるお方でしたので、ここは敬意を示し、全力でお相手して差し上げましょう」


 俺は、もとの位置に戻った。


 彼との距離は、約一、二メートルほど。


 俺は、無武の構えの状態で彼の出方をうかがった。


 二人の間に、思い空気が立ち込めた。


 瞬間、柔道のような構えをとっていた彼が、動き始めた。


 そして、急に俺の襟首をつかみにかかった。


 俺はそれをわざとつかませ、瞬間に、胸ぐらをつかんでいる方を固定して、逆の手で前腕を掌で引き込んで、投げつけた。


 同時に、彼の上に馬乗りになり、目潰しを寸前で止める。


「残念。何も楽しめなかったよ?」


 この歓迎会、俺の圧勝に終わった。

次回「02」

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