表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶滅種族の転生譚《Reincarnation tale》  作者: 記角麒麟
因幡の白兎 いなばのしろうさぎ
135/159

「16」因幡の白兎 エピローグ

「その体で発破を使うって、無茶したな、チホ」


「あぁ。やっぱり、この体じゃ衝撃に耐えられないらしい。できないことはするもんじゃないな」


 俺は小刀を華望に返して、回復魔法を使った。


 病院で入院していた頃、いくつか魔法を試したことがある。当然ながらと言えばいいか、チホへと転生してから習得したものはさっぱり使えなかったが、レレムだったころの魔法は、難なく作用した。


 それを担当医に言うと、こんな話をしてくれた。


 シュレーディンガーの猫、もしくはシュレディンガーの猫と呼ばれる思考実験だ。


 簡単に言えば、認識するまで、その状態は確立しておらず、認識することで、何らかの結果がどちらか片方に収束する、というようなものだったはずだ。


 詳しいことはあまりよく覚えていないが、それが、集合的無意識とやらに作用して、現実にその効果を発揮しているのだという。


 つまり、よく慣れ親しんだ魔法なら、おそらくところ構わず使用可能ということらしい。


 彼は、俺の傷がみるみる回復していくのを、不思議そうに眺めていた。


「まるで魔法のようでね」


「魔法だからな。そんなに不思議か?」


 俺にとって、魔法は日常的に使用していたものだから、不思議とは思わなかった。


 担当医曰く、少しでも疑いがあれば、その効力は無になるらしいが。


 とにもかくにも、今は界災を終わらせないと。


 今や半ば山火事になっているからな。


「フレア、消火は頼んだ。俺はもう疲れたよ」


 地面にどさりと腰を落ち着け、伸びをした。












 数時間後、火は収まったが、そこら一帯には焼け野原が広がっていた。


「どうするの、これ?」


 消火に手伝っていた霧葉が、華望に話しかけていた。


「そうですね。一度、主人に連絡を入れますか。そのあとは、成り行きでどうにかなりますし」


 そんな会話を聞きながら、俺は消火の終えた、全壊した屋敷に、違和感を覚えた。


 その屋敷の残骸の奥に、何かがいた。


「ルーオル?」


 そう。その何かというのは、とてつもなく大きな蜘蛛。それもルーオル山脈にしか生息しないはずの生物、ルーオルだった。


「ああ。間違いないな。どうする、狩るか?」


 フレアの問いに、少し考える。


 あいつは多分、放っておいても死ぬだろうし、無駄な労力を労するくらいなら、放っておいた方がいいな。


「いや、止めておこう。どうせ、すぐに干からびて死ぬ」


「それもそうだな」


 と、そんな話をしていると、華望がルーオルを刀で一刀両断する姿が視界に映った。


「だめですよ。ちゃんと始末しないと、生態系が壊れてしまうんですから」


 ルーオルの皮は、かなりの強度を持つ。そのため、ダークエルフたちは、その皮を剥ぎ取るために、常人の数倍の筋力を持っている。普通の人は、そんな簡単にはあれを斬り倒せないはずなのだが。


 そこは、華望がすでに常人の域を越えているということで納得しておくことにした。


 しばらくすると、白い大きな車がやって来た。


「あれ、屋敷がなくなってるじゃん。どゆこと?」


あずまさん!お帰りなさーい!」


「おう、ただいま。で、どゆこと、これ?」


 車から降りてきたのは、三十代くらいの男の人だった。


 背丈は華望より少し高い。髪は手入れしていないらしくボサボサだが、それが妙に顔の印象にマッチしている。服装は和装で、腰の帯からは、その装備に似合わず拳銃が一丁見えている。


  胸の辺りの凹凸を見るに、棒状の何かが大量に仕込まれているようだ。袖の辺りの振りが重いところを見ると、そこに何かを隠し持っているらしい。


 桐野は、東と呼ばれた男に、状況を説明した。


「なるほどなぁ。よりによって界災がこんなところで起きるとはな。まあそんなこともあるって。気にすんなや」


 ふと、彼の目が、俺とフレアに向いた。


「彼女らはナニモンだい?」


 目線が鋭い。少々殺気立っている。


「私はオリガヤ・フレアだ」


 彼女は鋭い目で睨み返しながら、手を差し出した。


「なるほど。じゃあ、こっちのちっこいのが、くだんのウサギちゃんか」


「万年発情期の小動物と同じにしないでほしいな」


 彼は、俺のその言葉に、少し意外そうに思ったのか、口許をひきつらせていた。


「おう、そうかいそうかい。よろしくなイナバ」


 彼は俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でると、腕を組んで自己紹介をした。


「俺は東京馬あずまきょうまだ。さて、今後のことだが、カズ。主人に連絡は?」


「しましたよ。もうすぐ迎えか来るはずですが、主人はこれないので、使いの者を寄越すそうですよ」


「そうかい。ごくろうさん」


 彼はなにやら手紙を彼に渡すと、再び車の中に戻っていった。


「俺は他のやつらに連絡してから追いかけるわ。んじゃまたな」


 彼はそう言ってその場をあとにした。


「あの人も携帯持てばいいのにねえ?」


 白城が宮崎を後ろから抱えながら、不思議そうな表情で呟いた。


 宮崎は、ため息をつくと、やれやれという風に首を振った。


「彼は電子機器使うとすぐに破壊するもの。金の無駄よ」


「それもそうね。あの車も、もう何十台目なのかしらねぇ」


 彼女らの会話に、若干頬をひきつらせて、どんな人だよとコメントした。


 だってだぞ?車を何十回も買い換えてる人なんていないだろ、普通に考えて。


(おそらく、あの人もまともに見えて実は変人だったりするのかな)












 それから数分後、黒いバスのような車がやって来た。俺たちは、それに乗って、とあるマンションへと向かった。


 このマンションは、俺の親父であるアイツの別宅らしく、次の場所が決まるまでは、ここに滞在するらしい。


 滞在するのは、マンションの一室のみ。といっても、部屋はかなり広い。広いのは認めよう。けど、もともと独り暮らし用として建設されていたためなのか、個室がない。


 一切ないのだ。


「まあまあ、数ヵ月の辛抱だって。ほら、馴れれば都とも言うじゃない?」


「住めば都じゃなくて?」


「....そうとも言うわね....」


 白城は少し顔を紅潮させて、下を向いた。肌が白いためか、赤く染まっているのがよくわかる。


「あ、今さっきまで忘れてたけど、私のプランターキメラ。火事で燃えちゃったのかな?」


 彼女は思い出したようにそう呟いた。


「あれじゃあ残ってる可能性は低いと思うぞ?」


 桐野のセリフに、彼女は眉をハの字にして目を潤ませた。


「泣くなよ。どうせ遺伝子の作りは全部覚えてるんだろ?」


「んな訳あるか!いったい何桁あると思ってるのよ!まだ新作のやつ種子取ってないんだよ?配合の割合とか記録してる紙も全滅してたら、作り直せるわけないじゃない!」


 大きな声を出して、大人らしからぬ形相で、彼の胸の中に顔を埋めて泣く彼女。


「どうして携帯には記録してないんだよ?」


「ハックされたらおしまいじゃん!」


(あー、なるほど)


 彼は彼女に同情するかのように、頭を撫でた。


因幡の白兎 ━終━


次章、人形劇「01」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ