「12」ゲーム
「そういえば、普段華望さんたちは何して過ごしてるんだ?暮らすにしても、資金とかは必要だろ?」
俺は、隣に座る宮崎からトランプのカードを引き抜きながら聞いた。
現在は、王様ゲームは終了して、ババ抜きに移行している。
「資金調達は、基本的に政府からの依頼で賄ってますね。因幡さんは、西暦2034年に起きた『界災』についてはご存じですか?」
「カイサイ?」
「はい」
華望の手から、二枚のカードが棄てられる。
「界災。もしくは、世界の融化、または次元震災とも呼ばれている災害現象のことです。基本的には、僕達はそれを『なんとかする』ことが、仕事ですかね」
「ふぅーん」
2034年というと、病室であのフルダイブゲーム機についてあれこれ本で調べた時に見た、「最初の犠牲者」を思い出す。
2034年。日本の暦では、新和4年と書かれていたか。その時代から約二年前に、例のゲーム機が、記角麒麟博士によって、その原型となる軍事兵器、F.D-0.1.1が開発された。それが、現在の国際法によって、戦争で使用することを禁じられ、以後、ゲーム機や医療機器として扱われることとなった。
そして、その翌年。初めて医療機器として、それが使用された。が、それが問題だったのだろう。患者は意識を取り戻さなかった。死んだわけではない。いや、ある意味では死も同然か。脳や体は生きている。いわゆる長い昏睡状態に陥った。
世の中には、難病や奇病として、クライン・レビン症候群、または、眠れる森の美女症候群と呼ばれるものが存在するが、この状態は、それとは全く違った。
この病気は、ときどき目を覚ます(夢遊病みたいになることもある)ことがあるが、これに関しては全く目が覚めない。また、大人になれば自然治癒するとも言われてはいるが、これに関してはそれも当てはまらない。
斯く言うこの因幡六花もその1人だったらしい。
原因は何か、すぐにわかった。あのゲーム機だ。
以来、あれでプレイしている最中には、寝落ちしないようにするよう警告されている。
「それに、あの武力は関係あるのか?」
「ありますよ?」
界災というのは、俺の予想だと、その眠りについてだと思うのだが、違うのか。
まあ、災いというよりは病だしな。ハズレか。
「どういう関係が?」
桐野がカードをすてる。
「俺の上がり!さて、昼飯の材料買い出しにいってくるわ。霧葉、荷物持ちに任命な」
「えーっ!わかったよ、仕方ないなぁ」
立ち上がった彼に、渋々といった様子で、彼女は後を追った。
「まあ、関係については後々話すとして、宮崎さん。プランターの方はもういいんですか?」
「......あ、忘れてた。ありがと、今行ってくる!」
華望の言葉にしばし考え込む素振りを見せて、何か合点がいった様に立ち上がり、その場をあとにした。
(なんか、この話は俺から遠ざけられている感じがする)
そんな風に思いながら、俺はゲームを止めた。
「やあ、ヤナギ・チホさん。いえ、今はシステムと呼んだ方がいいのかな?」
「お?珍しいな、麒麟。何か用か?」
とある金髪の幼女、システムもとい、すでに死したはずの少女、ヤナギ・チホ──いや、レレム・リルだった人格が入っていた肉体、それに、夢を使って語りかけていた彼女に、とある男性が話しかけた。
彼の肉体は物理的にはこの世界に存在していない。彼の、彼女の視点で視るそれは、いわばデータの塊だった。
「用事なんて、ひとつしか無いでしょうに。面白いAIですね?」
「それを言うなら、それこそ貴殿の方こそ面白いというものだが?」
システムは、なにやら情報をウィンドウに移して、彼へと送った。
「......ふむ、そしたら、アリス計画は半ば成功ってことでいいのかな?」
「いや、まだ蛇の行動が、帽子屋にどうでるかは予測しかねるな。だいたいの予想はしているが、確実じゃない。確定しないと、次の段階は無しだな」
彼女は椅子の上でんーっと唸りながら背伸びをした。実に人間臭い動作である。
「で、どうする?界災については、そっちではもう成っているのか?」
「問題ない。後は蛇と兎の闘争劇のみだね。あのチキンが帽子屋の邪魔さえしなけりゃ、成功率はほぼ100%ってところかな」
彼はぎこちなく笑いながら、しかし、その先に見えている数々の事象を計算しながら、彼女にある物を送信した。
「うまくやれよ?」
そう言うと、彼の姿は、彼女の前から霧のように霧散して消えた。
次回「13」




