「10」証明問題はご自分で
ピンクな内容が含まれています。ご注意ください。
この屋敷には、風呂が一つしかない。こんなに大きな屋敷なのだから、2つ用意する事もできるだろうと思ったのだが。
どうやら、浴場を作るためのスペースが少ないらしい。
近くに滝があるせいか、排水を大量に、ましてや二種類のルートから流すのは、自然汚染の原因になる、という理由らしい。
まあたしかに、あの綺麗な滝が汚れるのは、俺としても不満がある。
そこには賛成しよう。しかしだ。なぜだ。なぜに、混浴という手段を取るのさ?意味がわからないよ。
俺だってこの体は女だが、心は男だ。立派に男として断と居たいのだ。だから、俺は男より女が好きだ。えぇ、正直に申しますとも。
第一譚で『俺にとって性別なんてあってないようなものだ』とは言ったが、実を言うと、少々あの頃は嬉しかったさ。
しかし、だ。
今はどうだ?
今は、この現状に慣れきってしまっている。
そのためか、女性の裸なんて毎日見ているようなものなのだから、今はなんとも思わなくなってしまっているのだ。
だからといって、男の裸を見るような趣味は断じて無い。
言い切ろう。大事なことなので二度言おう。
そんな趣味は絶対にない!
むしろ、拒絶反応を起こしたいくらいだ。
なのになぜだ。
「不満そうね、六花ちゃん」
俺の隣で頭を洗っている白城が、ふと、俺の心境を見抜いたかのように言った。
「当たり前だ。そもそも、なぜ、混浴なんだ?意味が理解しかねんぞ」
「家族みんなで仲良くしましょってのが、小鳥遊ちゃんの発想なんだけどねー」
ざぱーっと、逆隣で体の泡を流す宮崎。
「小鳥遊って誰?」
「僕に何か用、白兎?」
(お前か!)
湯船から顔を出して、霧葉が応えた。
「混浴にしようって、霧葉が言ったのか?」
「まさか!」
彼女は俺の問いかけに、ブンブンと首を横に振った。
「そう解釈したのはなっちゃんと束音だよ!」
「なっちゃん?」
「私のことよ、りっちゃん」
隣から宮崎がその問いに返事をした。
「何で混浴なんかに?」
「そりゃ、お互い得だからだろうが」
二つほど離れたところから、桐野がそう言った。
「得?」
「「そう、得」」
声を揃えて頷く桐野と宮崎。
(得....なのか?)
今一、得と感じるのは男性側のみと思われるのだが、気のせいだろうか。いやしかし、宮崎をも得だと答えたんだ。女性側にも何か俺の思いもよらない考え方があるんだろう。
そう考えていると、宮崎は
「だってさ、生物学の勉強として、得になるじゃん。ナマモノを直に見て、さわって、感触を....ぬふふふふふ」
ダメだ、この人。アブナイ人だ。
何が直に見てさわってだ。
(こんな人間もいたものかな)
俺は心底あきれたように、息をついた。その瞬間。
「そういえば、因幡さんは、今日ここに来たばかりなんでしたよね」
「今更ですね、華望さん?!」
ふと、鏡に映った華望を見て、俺は叫びそうになった。
こちらに向かって、湯船からおりたって歩み寄る彼。
「では、親睦を深めるため、洗いっこでもしませんか?」
「するかああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
俺の大声が浴場に響き渡った。
翌日の朝。
「あー、なんか。悪夢を見ていた気がする」
俺は布団から起き上がり、眠い目を擦った。
悪夢の内容は、華望と名乗る変態が、風呂場で洗いっこでもしましょうとか言って、襲いかかってくる夢だ。
「あぁ、嫌な気分だ」
「では、宮崎さんをお呼びしましょうか?」
「いや、遠慮しておくよ」
「そうですか。朝食の準備がもうすぐ整うので、早く降りてきてくださいね」
「うん、了解──じゃねえ。まてコラ。自然と俺の独り言に入ってきて会話すんじゃねえ変態野郎!」
俺は目を扉の方へ向けた。すると、そこには華望が居た。
「あ、わかっちゃいました?」
「わかっちゃいました?じゃねえよ!出てけ!」
俺はそう彼に怒鳴った。
昨日に引き続き、俺はとても疲れる一日を送りそうになります。
などと現状にコメントしつつ、俺は布団から出た。
なぜか、やけに体がスースーする。
(なぜだ?)
その理由は、体を見下ろしてから数秒経って、ようやく理解した。
そういえば、昨日。俺はあのまま浴場を飛び出して、そのまま自分の布団に潜り込んだんだっけ。
とたん、変な感情が沸いて上がってきた。
『白兎も、ずいぶん変わってると思うよ?むしろ、この中に変人は君くらいのものだよ』
昨日の夕夏の台詞が、自分自身で肯定してしまった瞬間であった。
次回「11」




