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絶滅種族の転生譚《Reincarnation tale》  作者: 記角麒麟
因幡の白兎 いなばのしろうさぎ
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「07」襲撃

 白城の部屋の前まで来ると、扉が開いた。


「あら、因幡の白兎じゃない。どうしたの?もしかしてケーキ?」


「あ、えっと、はい」


 ビックリした....。エスパーなの?この人。


「わかったわ。それじゃ、またね」


 彼女は手を振って、その場を後にした。


(さて、夜まで少し時間あるし、外に出ておこうかな)


 今からケーキを作るってことは、まだしばらく時間はあるわけだし。


「ただいまー」


 と、丁度そのころ、誰かが帰ってきたようだった。


「誰かー、荷物運ぶの手伝ってくれる?」


 男性の声だ。


 気になったので、俺は下に降りてみた。


「誰?あ、もしかして、君が六花ちゃん?」


「はい」


 黒い髪を後ろで束ねた女の人だった。目の前には男性らしき人物は見当たらない。しかし、声の主は彼女らしい。


(もしかして、オカマ?)


 そんな疑問を浮かべながら、俺は首肯した。


「そうかそうか。俺は桐野きりの束音たばねだ。よろしくな六花ちゃん?」


「えっと、はい。よろしく」


 なんか、調子狂うな。


「それじゃ、早速で悪いんだが、この荷物夕夏の部屋に置いてきてくれるかな?で、こっちはリビングね」


 渡された荷物をもって、俺は言われた通りに運んだ。


(なんだろう、ホントに調子狂う)


 荷物を運び終わると、俺はソファーでぐったりとした。


「ごめんね、こっちに来て早々こんなことさせちゃって」


 ぐったりとソファーの上で寝ていると、桐野が俺にアイスクリームを差し出した。


「あ....っと、はい」


(何て返せばいいのかさっぱりわからん)


 とりあえず俺は頷いてアイスを受け取った。


「あ、束音帰ってきてたんだ。お帰り」


「ただいま、霧葉」


 俺がアイスを食べていると、リビングに霧葉が入ってきた。


「白兎何食べてんの?って、あ!アイスじゃん!僕のは?!」


「ちゃんとあるよー。焦んなくてもいいのに。太るぞ?」


「わーってるわーってる!」


 それにしても。


(居辛い....)


「ちょっと周囲を散策してきます」


 俺はアイスを食べ終わると、外に出た。












(暑い)


 冷房の効いていた屋内とはうってかわって、外の真夏の暑さに俺はため息をついた。


 外に出ると言っても、行くところなんて無い。が、周囲に何かあるのかくらいは、知っておこうか。


 そう思って、まずは祠のある裏庭に向かった。


(案の定、小さな祠には、なんの仕掛けもないか)


 祠に何かあるかと思って少し調べたが、やはり何もなかった。


 すると、遠くの方で、水が流れる音が聞こえてきた。


(川でもあるのか?)


 俺は音の鳴る方へと足を運んだ。


 だんだんと大きくなっていく音。その音の様子が、次第にはっきりしていく。


(これは、川というより滝か?)


 しばらくすると、祠の奥に広がっていた森は開けていき、大きな滝が姿を現した。


 それは、絶景だった。


 入院中に見たナイアガラの滝の迫力をミニチュアにした感じの滝が、そこにはあった。


「うわー....」


 思わず感嘆の声が出る。


 と、そのほとりに、小さな黄色のワンピースが落ちているのに気がついた。


(もしかして....)


 そう思った俺は、そのワンピースを調べた。すると、猪森夕夏という刺繍が裾に縫われているのを見つけた。


 近くにも、同じ色の刺繍で名前が縫われている下着も見つけた。


(あれが裸だった理由って、そういうことか)


 俺は納得したように頷いた。


 他を見渡すと、所々に同じように服が散らばっていた。


「ふふっ」


 そんな光景を見て、思わず笑い声が漏れた。


 と、その時、どこからか殺気を感じた。瞬間、俺は臨戦態勢をとった。


 数は複数。少なくても五人はいる。


(どうする?殺すか?)


 殺気を向けられて殺さないという選択肢は、向こうの世界ならなかったことだが、なんせ、この世界では俺はただの一般人だ。


 この国の法律がどうなっているか理解していない以上、下手に動くのは賢明とは思えない。


 だが、少なくとも彼らは俺を殺す気だ。


 この殺気は、狩人が獲物を狩る時の物に似ている。


(人じゃない可能性も考慮するか)


 カサカサ、と後方で木の葉の揺れる音が聞こえた。


 振り替える俺の目に映ったのは、黒ずくめの人型をした何者か。そいつは手にボーガンを持って、こちらへと向けている。


 矢が放たれた。


「ふん!」


 手刀一閃。俺はその矢を手刀で叩き落とした。


 相手が驚いたように体をうごめかした。


 相手が隙を作った瞬間に、縮地で相手の懐に潜り込み、矢をつがえる暇も与えずに首を打って気絶させる。


 左から矢が飛んでくる。頭を狙った正確な射撃だ。しかし、俺はそれを頭を下げることで回避した。


 隣の木に矢が刺さる。


 刺さった矢の向きから放たれた方角を特定し、縮地を使って相手の懐へ行く。


「ひっ!」


 額に向かって発勁を発動し、脳震盪を起こして気絶させる。


 背後から刃物が降り下ろされる風切り音を聞いて、直ぐに横へと転がる。


 刃物は俺が気絶させた奴の腹部に深々と刺さり、血飛沫をあげた。


 その隙に、俺はそいつに手刀打ちをして気絶させる。


 すると、そのときにはすでに、俺へと向けられる殺気は消えていた。いや、ひとつだけ、薄いけれど遠くにひとつだけ残っていた。


 俺はすぐにその場から飛び退いた。


 何かが俺の居たところへと飛来する。


(スナイパーライフル、だったりして)


 俺はそんな思考を抱きながら、とにかく死角に入ろうと動き回った。


「はぁ、はぁ、はぁ、まずい。体力が....」


 昔にはなかった体力の消耗と、この体ではなれていない自然の道を歩いていたせいか、足首が痛い。


(くっそ。このままだと殺られる......)


 その時だった。


 一発の銃弾が俺へと向けて放たれた。


 俺は、三度目の死を覚悟した。しかし、その死はいつまでたってもやってこなかった。


「大丈夫ですか、因幡さん?」


「華望?!」


 俺の目の前には、日本刀を振り抜いた姿で立っていた華望一葉の姿があった。

次回「08」

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