「05」目的
華望の話によると、パーティーは夜から行われる予定らしいので、俺はそれまでは手持ち無沙汰な状態になる。
せっかく時間もあるということなので、俺は自分の部屋を確認することにした。
「206、206っと」
部屋の前にたどり着いて、ふと先程の記憶がよみがえる。
(また誰か部屋にいないだろうな?)
俺は少し疑心暗鬼な気分で扉を開けた。
すぐさま部屋を見回す。天井から机の下まで、ありとあらゆる場所を観察した。
「ふぅー。よかった、誰もいない」
「誰もいないだなんて失礼だな?」
俺が安心して部屋に入ろうとしたその瞬間、扉の後ろから霧葉が出てきた。
「うわっ」
「うわっ、てなんだよ、うわって。改めまして。僕が君とルームシェアさせてもらってる霧葉だよ」
少し抑揚のある声で、彼女は挨拶をした。
「ルームシェア......だと?!」
「Yes,yes」
彼女は人差し指を、部屋の左にある二段ベッドに指差した。
「上が僕ね。白兎は下。understand?」
「なぁ、その白兎ってのはどういう意味なんだ?」
俺は彼女の説明を無視して、気になったことを聞いた。正直、この世界じゃ魔法詠唱用の言葉を吐いたところで、何かが起きるわけではないので、極力無視したい気分なのだ。
彼女は、そんな俺の態度を見て何かがっかりしたように肩をすくめた。
「はぁ。まぁいいさ。どうして君が白兎かって言うとね?これはいわば連想ゲームなのさ」
「連想ゲーム?」
何からどう連想して、俺が白兎になるんだ?
「そ。白兎の名字は因幡でしょ?因幡といったら、やっぱり因幡の白兎って昔話が有名だよね。この白兎ってのは、そこから連想してきたんだよ」
(なんの捻りもなかった!)
俺は内心そんな風に思っていたが、それは一切顔には出さなかった。出してしまえば、からかわれると思ったからだ。
「主人から聞いたよ?君の名前、六花っていうんだってね?名前の由来は、5月5日。つまり立夏の日に産まれたからって理由だったんだね」
(日にちがそのまま名前になった?!)
俺はふーんと、興味なさげな返事をして(結局のところ大部分が興味なかったことだった)因幡六花と書かれた名札が置かれた机に座った。
(霧葉とルームシェアか。なんか疲れそうだなぁ......)
そう思った時間だった。
「あ、僕の部屋隣の5号室だから。よろしくね!」
そう言って二段ベッドの上段を肩に担いで部屋を出ていく霧葉だった。
(............え?ちょっと待ってどういうこと?)
「おい、霧葉!お前、騙しやがったな!?」
「ひっかかる白兎が悪いんだよー!さっきのお返しだー!」
「んの野郎!待て──っごほっごほっ!」
やべ、むせた。
くっそ、あの小僧め。リハビリ完全にはまだ終わってないから本調子じゃないけど......。いつか絶対泣かす!
俺はそう心に誓った。
「大丈夫?もしかして霧葉に何かされた?」
ふと、背後から女の人の声が聞こえた。
「──あぁ。えっと、ルームメートだって言って騙されて......」
振り向くと、そこには髪も肌も白い、そして赤い目をした背の高い女性がいた。
(アルビノ種?)
俺は彼女の姿を見て、心底驚いた。
アルビノなんて珍しい。
「あぁ、恒例行事よ。あの子にとっては」
彼女は微笑むようにそう答えた。
「恒例行事って......」
「そうよ。あなた、来るとき玄関で襲われなかったかしら?私もあれをされてね?気がつかなかったわ、ほんと」
玄関での強襲といい、今回のルームメート詐欺といい。どうやら霧葉は悪戯好きな性格らしいな。
彼女は思い出したようにふふっと笑って、自己紹介を始めた。
「私は白城戸隠よ。よろしくね、因幡の白兎さん?」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
と、挨拶を返したところで、俺は自分の失態にはっとした。
(違うだろ!俺はあの世界に戻るんじゃなかったのかよ!?)
このままじゃ、目的を失いそうだ。
俺は、戸隠の差し出してきた白手袋にはめられた手を無視して、部屋に戻った。
「主人は、濃い記憶をこの子に与えろっておっしゃってたけど、問題なさそうね」
そんな様子を見た戸隠は、そう言って一階のリビングへと向かった。
次回「06」




