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絶滅種族の転生譚《Reincarnation tale》  作者: 記角麒麟
因幡の白兎 いなばのしろうさぎ
123/159

「04」別荘

2ヶ月が過ぎた。


 ここでの暮らしにも、ずいぶんと慣れてきた気がするが、俺は、ここの誰にも心を開かなかった。


 なぜ、俺は救えなかったんだ。


 ふと、脳裏に古継乃大蛇の言葉がよみがえる。


『殺さなかったことを後悔するがいい』


 たしか、そんなことを言っていた気がする。


 あぁ。確かに後悔した。


 あのとき、あそこであいつを殺していれば、こんなことにはならなかったのかもしれない。


 そう思う日々が続いていた。


 そんなある日。リハビリの帰りで疲れていつものベッドに横になっていると、病室に父親が入ってきた。


「気分はどうだ?」


 俺は、この人が嫌いだ。


 身なりからして金銭的に裕福であることがうかがえるが、そんなことを見せつけてくるような格好が嫌いだ。


 何より、あの世界での仲間たちを、悪い夢の一言で切って捨てたことが許せなかった。


 俺は、そっぽを向いた。


 父親らしき人物は、そうか。と言って、聞いてもいない話をしだした。


「もうすぐ退院できると聞いた。退院したら、お前を療養のために、田舎にある別荘へ連れていく事にした。別荘には、個性的な住人が居るから、お前も退屈しないですむだろう」


 彼はそれだけ言い残すと、部屋をあとにした。


 魂胆が丸見えなんだよ。


 おそらく、こちらで濃い記憶をつくって、向こうでの記憶を上書きしようって話だろう。


「なめんな、クソジジィが」


 俺は、絶対にそんなことで彼らのことを忘れたりなんかしない。するものか。してたまるか。
























 それから、半月が過ぎた。


「おめでとうございます、因幡さん」


 俺は、退院した。


 病院を出ると、長い黒色の車が停まっていた。


 車窓が開き、中から父親の顔が見え、扉が開いた。


「これから、別荘に送る。荷物は全部向こうに送っているはずだ」


 彼の言葉を半ば聞き流しながら、俺は車に乗り込んだ。


 もう、彼の顔を見ないですむと思えば、気が楽になった。


 何の揺れもなく、その車は走り出した。


「六花、気分が悪くなったら、すぐに言えよ?」


「ん」


 父親の心配を、俺は気のない返事で流した。


 しばらくすると、都会が開けていき、山を走ることになった。


 窓の外の木々は、どれも俺の知らないものばかりだった。


 ふと、空中庭園の水樹を思い出した。


「エディ。俺、約束守れなかったな」


 いつしか流れ出した涙を袖で拭い、膝を抱えて、その上に顔を押し付けて静かに泣いていた。


「六花、その俺っていう一人称はなんのつもりだ?」


 運転席から父親が、少し怒った調子で聞いてくるが、俺は無視した。


「六花、聞いているのか?」


(面倒な男だ)


「聞くわけがないだろう、無礼者」


 俺はそう返して、そっぽを向いた。


「こいつは......。寝ている間に、こうも生意気になったものだ」


 お前に言われたくはない。


 俺は心の中で愚痴て、窓の外に目をやった。


 流れる景色に、ふと、大きな屋敷が映った。


 おそらく、あれが言っていた別荘だろう。


 大きな屋敷の外観は、どこか空中庭園のあの屋敷を思い出す。


(シーデートの花畑も無ければ、水樹も水車もない。あるのは屋敷と丘だけか。つまらん)


 俺はそんな批評をして、窓を開けた。


 夏のような暑い外気が頬を撫でる。


「エアコンつけてるのに、この娘といったらまったく...」


 しかし、窓を強制的に閉めようとしない点、彼はそんなことはどうでもいいとでも思っているのだろう。


 やがて、車は敷地を区切っているらしい背の高い竹でできた壁の前に止まった。


 俺は、車から降りると、着せられていたワンピースの裾を伸ばした。


(家にズボンはあるだろうか)


 俺はそんなことを考えながら、木でできた門を、父親のあとに続いてくぐった。


「その子が六花さんですか、主人?」


 出迎えたのは、やや銀色のかった髪をした、背の高いスーツ姿の男だった。年のころは20台前半といったところか。


「そうだ。六花、彼がここの支配人の華望はなもち一葉かずはだ。足りないことがあれば、彼に言うといいだろう」


 俺は彼の顔を見上げた。


 彼は、そんな俺ににこりと微笑みかけた。


 この職業にはなれているらしいな。筋肉のつきかたからして、ボディーガードみたいなこともしているように思える。


 左手の親指のつけねに見える特徴的な切り傷は、居合いを習っている証拠だな?


「よろしくお願いします、六花さん」


「......」


 俺は何も答えないでその横を通り過ぎる。


「あいつは...。ろくに挨拶もできないのか」


「まあまあ、そう怒ってあげないでください」


「しかしだなぁ──」


 疲れる親だ。


 俺はそう思いながら、芝生の上を歩いていった。


 すると、突如上空から気配を感じたので、俺は勢いよくバックステップを踏んだ。


「あれ?気づかれたの、カズ以外はじめてだよ!」


 目の前に降りてきたのは、奇抜な格好をした少年だった。


「惜しかったな?小僧」


 俺はそう鼻で笑うと扉を開けようとして、背後から攻撃を感知した。


 俺はしゃがんでそれを回避し、肘打ちで相手の喉を打った。


「ごふっ?!......よ、容赦ないねぇ、因幡の白兎は」


「先に仕掛けたのはお前だろう?」


 俺は睨みつけながらそう言った。


「それもそうか。悪かったよ」


 なんか、しっくり来ないな...。


 俺はそう思いながら、屋敷の中に入った。


 すると、目の前に華望がいた。


 いつのまに入ってきてたんだ?という疑問は無視して、俺は横の立て札を見た。


(206号室か)


 俺はすぐとなりにあった階段を登って、二階に行こうとした。しかし、華望に呼び止められた。


「ちょ、ちょっと待ってください六花さん!なにか!何かいうことがあるでしょう?!」


 彼は慌てたようにそう言った。


「居たんだ?」


「居ましたよ!さらっと無視しないでくださいよ!?」


 俺はそれだけ言うと、階段を上っていった。


「あのー!無視しないでくださいよぉー!六花さぁーん!」


 無視。


 ひたすら無視した。


 なぜって、関わったら色々と面倒そうに思えたからだ。


 それに、この記憶を上書きされそうで、少し怖かったという気持ちもあった。


 しかし、それには気づくことはなく、俺は206号室の扉を開いた。


 すると、目の前に、華望がいた。


 バタンと音を立てて扉を閉め、何号室か確認する。


 206号室だ。なら、俺の記憶が間違っていたかと思い、玄関に戻って立て札を確認した。


(206であってる...よな?)


「六花さん、いい加減無視するのは止めてほしいんですけど」


 背後から声が聞こえた。


 一切、近づいてくる気配はなかった。


(この俺が背後をとられた、だと?!)


 戦慄を覚えた俺は、背後に向かって手刀を放った。しかし、それは容易に捕まえられた。


「危ないですよ、六花さん?」


 ウザい。


 反射的に俺はそう思った。


「お前が俺の後ろをとるからだろう?」


「とらせたのは誰の方です、六花さん?」


 彼はまだまだですね、と笑って、俺の体を抱き上げた。


「何をするつもりだ?」


「秘密です」


 彼はそう言って俺を肩車すると、ガッチリと足をロックして離さないようにした。


「離せ」


「嫌です」


 少しイラっと来たので、髪を引っ張った。


「痛い痛い痛い痛い痛い痛い!」


「じゃあ降ろせ。降ろさないと、貴様の百会が禿げるぞ?」


「止めて!ホントにそれだけは勘弁してくださいー!」












 離してもらえた。


「は、禿げると思いました...」


「本気で引っこ抜けばよかったと俺は後悔してる」


「後悔しないで!そこは後悔しないでください!」


 肩車から解放された俺は、とりあえずリビングの椅子に座った。


 華望は頭をしきりに鏡で確認している。


 そういえば、この屋敷に住んでいるのは、この二人だけなのだろうか。


「そういえば、ここには華望とあの小僧だけなのか?」


「いえ、違いますよ。立て札をよくご覧になりましたか?」


 立て札...あぁ、あれか。確かに、数は多かったような気がしないでもない。


「見てなかったな」


 俺は素直に答えた。


「なら、ちょうどよかったです。今晩、みんなで歓迎パーティーでもしようかと思っていましたので」


「歓迎パーティー?」


 俺は歓迎なんてさらさらされたくはないのだが。


「そうそう!白兎ちゃんちゃんのために、僕がやろうって言ったんだよ?」


 先程の小僧が俺の後ろから近寄ってきた。


「小僧が企画したのか?」


「そだよー!っていうか、小僧って呼ぶの止めてくれないかな?僕は女の子なんだよ?ちゃんと霧葉きりはって名前で呼んでもらわないと」


 え?こいつ女だったのか?髪が短いものだから、てっきり男だと思ってたんだが...。


「すまん、俺はお前のこと男だと思ってた」


「酷いっ!」


 彼、あらため彼女はそう言うと部屋をあとにした。



次回「05」

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