「01」真夜中の襲撃、後悔と彼女
絶滅種族の転生譚、第三譚、第一章、開幕!
そういえば、どれくらい眠っていた?今は何時だ?
俺はベッドから降りて、机の上に置かれていた端末から、時刻を確認した。
「ほぼ真夜中か。無理もない、あんな時間に......まてよ、真夜中?」
俺が大穴に行ったとき、ルート一族は影も形もなかった。理由は、華一族と戦争しているから。だから、彼らは俺たちのところへ亡命に来た。
もし、それが罠だったら?もしもそれが罠なら、ルート一族は一体、どのようにでてくる?
彼らが来るなら、俺が魔法を使いすぎて弱っている今がチャンスのはず。
俺は急いで物質生成から、この城一帯を覆う膜を生成しようとした。しかし、目の前に警告文と激しい頭痛が表れた。
「ぐあっ!!」
野郎...考えたな...。
本来、吸血鬼の百分の一程度の戦闘力しか保持できない人間が、俺みたいなイレギュラーを除いて、大量のコウモリを相手にできるわけがない。
「陛下?!」
水をもって戻ってきたニーフが、俺のところへ近寄る。
「ニーフ、今動ける城の兵は何人だ?」
「おそらく1000人ほどです」
ダメだ。それではあれに太刀打ちできない。
しかし、こうなったら、やるしかないだろう。
「全員へ通達。そろそろルートのコウモリが攻めてくるはずだ。絶対に中へ入れるな...」
俺はそう彼に伝えると、先程のショックが尾を引いて倒れた。
チホが顔をしかめて、そう言った、その直後だった。
一斉に屋敷の警報装置が鳴り響いた。
「襲撃?!」
とりあえず、俺は彼女を背負うと、屋敷の地下に設置させられた転移装置へ向かった。
「お兄様!」
「メアリー、カーミラに陛下を運ばせて、エディスタ様と共に第三浮遊城へ避難してくれ」
廊下ですれ違った妹に、チホを託して、俺は彼女に逃げるように指示を出した。
「お兄様はどうなさるのですか!」
「俺は、オラシオン部隊シガン分隊参謀として、参謀長の補佐につく。大丈夫だ、俺も後から行く」
久しぶりに見た妹の泣きそうな顔を見て、俺は優しく微笑んで頭を撫でた。
「フラグですよ?それ...」
彼女は少し微笑みながら、そう返した。
「......よろしく頼む」
俺は一言そう残して、その場を引き返した。
「全兵士に告ぐ!全員、ルート一族の吸血鬼から、我らが女王とこの城を死守せよ!」
俺は、彼らにそう告げた。
「「おおーっ!!」」
こうして、ヴァンパイアと人間の戦争が始まった。
「気がつきましたか、陛下」
俺は、とある一室で、俺は目が覚めた。
「ニーフたちは?!」
「屋敷にて、城の兵たちと交戦中と思われます」
なんということだ。
俺の、たったひとつの失態で、こんなことになるとは...。
俺は、その場からすっくと立ち上がった。
「どこへ行かれるのですか?」
「決まっておろう?助けに──」
俺がすべてを答え終わる前に、俺の服の裾を、エディスタが掴んだ。
「行っちゃやだ......です...」
彼女は、精一杯の力を込めて、俺にそう告げた。
彼女の、初めてのお願いだ。しかし、俺はそれを守ってやることができない。
俺は、心の中で小さなその少女の意思に詫びを入れて、視線を合わした。
「......ごめんな、エディ。俺、助けに行かないといけないんだ。だから、その手を離してくれ。必ず戻ってくるから」
するとしかし、彼女は更に意を強く固めて、裾を握る手を一層固くした。
「尚更だめです、陛下!今のあなたは、これまでと同じく不死ではないのですよ!?死んだら、それきりなんですよ?!」
メアリーが必死に俺を引き留める。
今の俺は不死身ではない。異能の力は今の俺には使えない。だから、俺が行ったところで無駄死にするだけだ。そう言っているのだ。
「じゃぁ!じゃあ、俺はどうすればいいんだ?!もう二度と仲間を死なせるのは御免だ!仲間が死ぬくらいなら、俺が死んだ方がまだましだ!」
「あなたは、逆の立場にいてもそう思えるのですか!」
メアリーの言葉が、俺の心にぐさりと突き刺さる。
「......」
「陛下。どうか、お戯れを過ぎないで頂きたい。貴方は人界の王なのです。その自覚をどうか、忘れないでください」
俺は、悲しそうに、涙を浮かべる彼女を見て、身体中から力が抜けていくのを感じた。
自分も同じなのだと。自分も、兄を助けたいのだと。しかし、自分達は行ってはならないのだと。
(くそっ!)
俺は心の中で毒づいた。
「はぁ、見てられないわね?レレム。あなたがそんなにバカだったとは、夢にも思わなかったわ」
気がつくと、俺は例のあの部屋にいた。
「チホ...お前か...」
彼女は、ふっと笑って、こちらを見上げた。
「どうして異能が使えないのか、戸惑ってるんでしょう?」
「教えろ。どうして異能が使えない?」
直球的に聞く俺に、呆れたように答えを返した。
「またまたー、本当はわかっているくせに。だから、自分の失態のせいでー、なんて思えるんでしょう?」
俺はキッと彼女を睨み付けると、勿体振らずに答えたらどうだ?と焦ったように聞き直した。
「怖いわね。まぁ、私はそっちの方がいいんだけど...」
「どういう意味だ?」
「さぁて、なんのことだか。──そろそろ本題にはいるよ。聞く耳は持った?」
うまくかわされて少々腹が立つのを押さえながら、俺は首肯した。
「答えは、魔法器官、エヴァが、神祖を全滅させたあの詠唱魔法の圧力に耐えきれずに半壊してるから。だね」
次回「02」




