「12」一人法師と独裁領王
ボッチ、というのは、本来「一人法師」のことである。
それは、どこの宗派にもつかない、又は、その宗派から出ていった、はたまた追放されたお坊さんのことだ。
そこから派生して、現在のひとりぼっち(友達のいない人)の略称に至る。
なぜ、俺がそんな風になっているのか。理由はおわかり頂けるだろう。
俺はずっと、奴のことを探し、殺すことを目標として生きていた。
それが、周りからは奇異に映ったのだろう。
しかし考えてもみろ。
家族を皆殺しにした奴を、怨まないやつがどこの世にいる?
こうなったのは、必然なのだ。
俺は小さい頃から友達は少なかった。
と言うか、一人しかいなかった。
彼女とは、小学校半ばから疎遠になりがちだったが、卒業と同時にイルスへと帰ってしまった。
いくらトマヤが通信技術が発達していても、相手にその気がなければメールのひとつも来ないし、出しても返事がない。
そんな奴、もう友達と呼べるのか?
弟子にコナタがいるのだが、あいつはどうも友達とは言えそうにない。
年齢の逆転した親子のようなものだ....ん?なんか違うような気がする。
でもまぁいっか。
「さて、これからどうするかな....」
教室の机に顔を突っ伏しながら、俺は一人ごちた。
トマヤでは15歳、中学卒業までの義務教育を受けさせるという法律がある。
俺は、これに則り、バルスの外での常識を蓄えようと思っていた。
「で、卒業したら高等学校か、専門校か、はたまた就職か。どちらにしても、テンブまで行くには、間が開きすぎる」
このままでは逃げられてしまうのではないか?という想像をしてしまい、俺はため息をつく。
「なぁそこのお前。さっきから後ろでぶつぶつ言ったりため息ついたりするの、やめてくれないか?」
俺の席の前に座る女子生徒が、そんなことを言う。
あがいと呼べそうなほど色の濃い茶髪の少女だ。
「気分が悪くなるのは理解できる。しかし、俺と同じ立場なら、お前も同じことをするだろ?」
「は?自分のことオレって呼んでるとか、どこの人間だよ!はっはー!」
「一人称なんてどうでもいいだろ?てか、お前誰だよ?」
俺は心底めんどくさそうに対応する。
「てめえ、喧嘩売ってんのか?」
「この国最強の俺と、喧嘩で勝てるとでも?」
実際、俺はこの国最強と呼ばれている男、クロン・ベルゼと、小学3年生のころ、先手後手入れ換えて模擬戦をしたことがある。
結果、3勝0敗の圧勝だった。
「は?何いってんのこいつ。最強はベルゼ様でしょ?最強なのるなら、ベルゼ様を倒してから言いなさいな?」
目の前の女子生徒のグループが、ケラケラと頭の悪い笑い声を響かせる。
「昔」
「は?」
俺が話を切り出すと、彼女らは目を細めてこちらを睨み付けてきた。もう、笑い声は聞こえない。
感じるのは、無数の敵意と嫌悪だけだった。
「小学3年のころ、クロン・ベルゼと、先手後手入れ換えて、3回の模擬戦をしたことがある」
気がつけば、教室内の空気は止まっているように静かだった。
「結果は、俺の圧勝だったよ」
「ふざけるな!ベルゼ様が負けることなんてあるわけが──」
「なら、試してみる?」
空気がざわついている。疑惑の声だ。
「やってやるよ。そこまでいうならな!」
結果、俺の圧勝だった。
そうだよな、圧勝しない方がおかしい。
ベルゼとやらは、リーシャの三倍くらいの強さだったが、今回のは遊びにすらならなかった。
「わかった?」
俺はそいつを配下にして、俺の技を覚えさせた。
いずれ、奴と戦うために。
その日から俺は、この学校では俺に逆らう奴はいなくなった。
学校で俺の授業もたんまり仕込み、俺だけの兵を作り上げた。
なんというか、少し虚しい感じがした。
俺は、その中でも最も頭の賢い者の中から最も強い奴を三人選んだ。
「3位、フレア」
呼ばれたのは、真っ赤とも思えるような濃い茶髪の女。赤い髪と言っても差し支えないだろう。
彼女は俺よりは背が高く、長い髪を流している。
前線で戦うのに向いているだろう。
「2位、オルメス・トライデント」
彼女は髪が短い。
いつも冬服を着ていて、天候操作系の魔法が得意。
天候操作は、天災を使った奇襲にも利用できるため、頭の回転が良ければ良いほど、使えるものだ。
「1位、オリガヤ・チゼ」
彼は俺が教えた魔法や武術、戦法等を一番使いこなしている。
だが、まだ別れる前のリーシャほどではないにしろ、いずれは匹敵する強さを持つだろう。
「以上の三名は、放課後、俺の下へ来るように」
「「「了解」」」
俺はだんだんと、この感覚を楽しんでいった。
そしてその分、虚しくなった気がするのは、もっと先の話である。
次回「13」




