「29」王姫と執事 エピローグ
(少し、やり過ぎただろうか)
フルーレ・リハヴァインから、華一族の棲息地を吐かせた後から、ずっと俺はそんなことを思っていた。
具体的な内容を説明してしまうと18禁確定なので言えないが、とにかく残虐だった。
そんな回想をしている内に、俺は目的地に着いた。
イルス国クザス州南東のオリガヤ・フレア邸から、さらに直線距離で18キロほど南東に進んだ辺りにある、大穴。
それは、文字通り大きな穴で、世界最大級の天然の洞窟だ。その入り口の長径は、大きいところだと数百キロにもなり、底は太陽の光が届かなくなるほどに深い。未だに完全に地理的情報が不足しているため、地図は毎年書き変わるほどである。
「なるほど、コウモリが棲みたそうな場所な訳だ」
俺はそう呟くと、カルラにフルハイドを使ってカンナと近くに隠れているように指示を出した。
「さて、巣穴はわかったわけだし、ここの貴族問い詰めて、あの蛇の野郎をぶん殴るとしますかね」
俺は従者召喚を使って数千億匹もの大蛇を造り出して、巣穴を徘徊させた。
しばらくして、数匹が死亡した。パーソナルイデアを使って確認すると、確かに中にはうじゃうじゃとヴァンパイアどもがひしめいていた。
驚いたことに、それが一種類だけではなかった。なんと、全種族のヴァンパイアが終結していたのだ。いや、ルート一族だけは見つからなかったというのが正確か。
「.........あ、なるほどね。そういう理由か」
俺が、ルート一族がここにいない理由に当たりを着けた、その直後だった。大穴から大量のヴァンパイアが出てきたのだった。
「貴様か!我らが居城に蛇を仕向けたのは!!」
どうやら大半は貴族ではなかった。したっぱの方だ。
しかし、彼らは出てきてすぐに混乱した。
「ん?小娘。貴様一人か?」
「Kannst du das glauben?」
(信じられない?)
俺はアムロ語でそう返した。すると、彼らはバカにするな!と怒ってこちらへと飛んできた。
「The vampire will be murdered to silver and flame and holy water by me」
(吸血鬼は、私によって、銀と炎と聖水に殺されるだろう)
それに対して、俺は高速で魔法を詠唱した。
「「ぐわぁぁぁっ!!」」
俺の周りから、銀色の爆炎が四方八方へと迸り、大量の吸血鬼を灰に変えていく。
しかし、必然ながら生き残った個体もいた。すべてに耐性をもつ神祖一族と、太陽と銀と聖水に耐性を持つトワイライト一族だ。
四方から剣が斬りかかってくるが、イリーガル・ボルグを使って迎撃していく。
「はぁ。トワイライトは問題ないが、神祖は厄介だな」
トワイライトは物理攻撃で殺せるが、神祖はそうもいかない。
(確か、神祖は死すら克服していたんだったか)
俺は知識検索の能力を使って、神祖一族の弱点を探る。
「余所見とは余裕だな、この尼!」
背後からの斬撃を、ひょいと体を捻って回避しつつ、重心を崩して相手の体をもつれさせ、前方から別の敵が斬りかかってくるのを、そいつを盾の代わりにして防御し、そのまま剣をもぎ取って隣からの剣を受け流しざまに、懐へ陰刀流奥義、陰勁を発動して、内から破裂させながら吹き飛ばす。
腰のイモウシスを抜刀して、前方から突進してくる敵に剣を刺して串刺しにして、それを横に払って、丁度隣から斬り込みにかかってきていた吸血鬼を一掃した。次にしゃがんで背後からの突きを回避して、立ちざまに背後の敵を文字通り一刀両断して、上空から襲いかかる敵をイリーガルボルグでみじん切りにした。
ここまで、俺は一切移動することなくこなしている。その技量は驚くほどであった。
(あ、なるほど。ふぅーん。そういう仕組みだったのか)
俺は知識検索によって得た神祖の死を免れる仕組みになるほどと舌鼓を打った。
同時平行異世界存在理論。
これは、俺がレレムとしてバルストリクトーニ国で暮らしていた頃に、陰刀流の師匠の、物知りな娘に教えてもらった理論だ。
これは、まぁ、簡単に言ってしまえば、同じ座標には複数のものを配置できないが、それが第四次元軸上で平行に重なりあっているとき、同じ座標に複数のものを配置できる。という理論だ。
実際、これはすでに彼女が実証しており、確かにそれはありうるということが魔学会等では常識らしい。
それが、なぜ、神祖一族の死に繋がっているかというと、正にそれなのだ。
彼らは、再生する際に緑色の閃光を放つ。これは、俺が神祖一族を殺した後数秒後に確認したので、確実だ。
おそらく、その光の正体はプラズマ光だろう。
プラズマで囲まれた空間は、一時的に異次元になる。これを利用すれば、同時に存在している複数の自分の肉体のデコイから、負傷した部分だけを採取し、そこに設置するということも可能になる。
そして、負傷したデコイは、その異次元で、何らかの方法で修復されていくのだ。
これが、神祖一族が不死である理由。
なら、どうすれば殺せるのか。
「殺して死なない。でも、一定時間内にその分、デコイが追い付かない速さで殺し続ければどうなる?」
俺はそう呟いて、ニヤリと微笑んだ。
「On the day when world reason collapses, thou will cease to breathe」
(世界の道理が崩壊する日、汝らは息絶えるだろう)
刹那、大量の魔力が俺の身体中から一気に抜けていった。
(ヤバイな。意識がなんか、朦朧としてきた...)
放出していく自分の魔力の勢いに耐えながら、俺は地面に方膝をついた。
そして、世界は闇に包まれていった。
気がつくと、俺はベッドの上で寝ていた。隣には、ニーフが俺を見つめていた。
(そうか。魔力切れして、気絶したのか。こんなの、いつぶりだろうか)
俺は、ガンガン痛む頭を押さえながら、上半身を起こした。
「陛下!」
俺の背中を、彼が支えて俺を座らせた。
「......すまんな。迷惑をかけた」
俺は彼に頭を下げた。
「いえ、事情を話さなかったこちらにも責任があります。どうか、頭をあげてください。女王陛下」
俺は、頭を振って、それを否定した。
「いや、これは俺が、自分の限界も知らずに魔法を行使した結果だ。お前が謝る必要はない。もとはといえば、この戦争に巻き込んだのは俺の方だからな...。すまなかった」
俺は、彼にそう謝罪すると、赤い髪の少年執事は、そうですか。と言って、席をたった。
「水を持ってきます」
彼はそう言って、部屋を後にした。
入れ違いに、メアリーが入ってきた。
「お目覚めになりましたか、陛下」
「メアリーか...。どうしたんだ、こんなところへ」
俺は不思議そうに彼女を見上げた。
よく見ると、彼女の肩が震えていた。
「私は...。いえ、何でもありません。気になったので、ついでに様子を見に来ただけです」
「そっか」
俺は痛む頭を抱えながら、彼女にそう返した。
すると、彼女は一振りの剣を俺に渡した。
「イモウシス...。陛下が倒れた後、カルラとカンナが運んできてくれました。後でお礼を言っておいてくださいね。それでは、失礼します」
彼女はそれだけ告げると、部屋をあとにした。
王姫と執事 ━終━
絶滅種族の転生譚 第二譚 ━終━
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