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絶滅種族の転生譚《Reincarnation tale》  作者: 記角麒麟
王姫と執事 Und der Butler
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「28」王姫と執事2

「ここが例の...って、ん?!」


(なんでよりによってチホがこんなところにいるんだよ!?)


 オリガヤ・フレア邸に到着したタケルは、予想外の出来事に戸惑っていた。


(もしかして、ヒツギ。チホの足止めをしくじったな?...って、あれ?なんでカルラとカンナが一緒なんだよ?おかしいじゃねぇか?!手筈と違うぞ参謀!)


 屋敷に入っていく三人を見ながら、俺はニーフに心の底から愚痴り倒した。


(しかし、こんなところでモタモタしていて、もし何かあってもらっては困る。仕方がない。行くか)


 やけに長く感じる一日の終盤を彼は意を決して進みだした。












 同時刻、空中庭園個室。


「なっ...?!気づかれた、だと?!」


「ごめんね、ニーフ。どうやらステータスカードを渡したのが間違いだったっぽいよ。どうするの、参謀?」


 ニーフはヒツギの報告を受けて、ヤナギ・チホという人物の有り様を思い知らされた。


「くそっ。何で気づくんだよ...」


 今はそれどころではない。まずはカルラに連絡して...。いや、確か陛下はカルラと繋がっていたはずだ。おそらくもう手遅れだろう。なら、タケルに連絡するか?いや、これでもし追跡調査に支障が出てしまっては困る。


 新しく隊員を派遣するにしても、時間がない。


(...そうだ。カルラがついているなら、大丈夫だろう。よほどのことがかければ、つまらなくなって帰ってくるに違いない)


 それはいささか希望的観測すぎただろうが、今はそう願う他はなかった。


「メアリー、ラ・ピュセルのカーミラなら、身体能力と強度的に、陛下の元へ最速で飛ばせたはずだよな?」


「カーミラは元々そのために私が作ったんですよ、お兄様。カーミラ・レッドハウンドなら、いつでも出撃できるよう準備してあります」


 メアリーはステータスカードを弄って、赤い髪の少女──それは、フレアの幼い頃に良く似ていた──を具現化した。


 俺は、それをちらりと見やると、言った。


「カーミラを陛下に隠密的に同行させる。もし不味いことがあれば、そちらの意思で対処を願う」













「ゼレフ、何かわかったか?」


「ヤー。マスター、前方約452メートルの地点に、ラ・ピュセルを確認しました」


 ラ・ピュセルがもう一体?もしかして、参謀が?


 なぜ断りもなく...そうか。俺たちが一緒にいることを知らないのか。いや、正確には違うが...。


(一応、ニーフに連絡入れておくか)












 同時刻、オリガヤ・フレア邸。


「ふぅー。収穫はこれだけか...」


「...っ!」


 目の前には、赤っぽい茶髪をもった華一族の貴族小娘が一人。亀甲縛りをされて、口に猿ぐつわをくわえさせられて、みっともない姿で床に転がされていた。


 彼女の名前はフルーレ・リハヴァイン。今回の目的核であった。


 見つかったのは、彼女がコウモリに姿を変える直前。ちょうど、自分の足に手紙をくくりつけていた頃合いだった。


 その手紙の内容は、内部にネズミが紛れ込んでいたために、ネロ王国の乗っ取りが失敗した。ということだった。筋から考えるに、このネズミとはおそらくタケルの事だな。


「まったく、うまく考えたものだな、異次元人よ?自ら血の石に血を吸わせて、異界の人間がこの世界の吸血鬼になろうとは、考えたものだよ。いやまったく、感服したね」


「ほーひへほへほ!?」

(どうしてそれを!?)


 ニヤリと俺は笑うが、さぁ、どうしてでしょうね?と答えを焦らす。


「───!」


(うるさいコウモリだな)


 俺はそんな感想を抱いた。


「さて、話してもらおうか。華の巣はどこだ?」


 俺はナイフを生成して、その顎にナイフの腹を当てた。


 しかし、彼女は話さない。


 俺はナイフの腹で、彼女の頬を撫でる。


 すると、不意に彼女の頭が動き、ナイフの刃が猿ぐつわにしていた布を切った。


「っはぁ。はぁ。はぁ。はぁ。はぁ」


 驚いた俺の顔を、やってやったというような顔で見上げてきた。


「これはこれは。驚いたぞ。コウモリの癖に悪知恵は利くらしいな?え?」


「私はコウモリじゃない!フルーレ・リハヴァインだ!」


 彼女はそう叫んだ。


 それくらいは知っているというのに。


「じゃあフルーレ。お前がコウモリじゃないならわかるよな?今がどんな状況なのかくらいは」


「ええ!わかっていますとも!私のほうが、断然有利だってことくらいね!」


 彼女はそう叫ぶと姿を霧に変えた。


「なかなかやるね?しかし、手が甘い!」


 俺はその霧に向かって、イモウシスで斬りつけた。


 霧の中から血飛沫が飛ぶが、しかし、霧は逃れた。


 窓の外から出ようとした。


 しかし、出ることは叶わなかった。


 彼女は窓辺で人の姿に戻ってしまった。


 どさりと、窓辺に置かれた机に尻餅をついて、バランスを崩して床に倒れた。


「もう、いい加減に吐いたらどうだ?楽になるぞ?」


 彼女の目には、ゲスい笑みを浮かべる幼女の姿が映っていた。












 気がつくと、私は血まみれだった。


 どこにも傷は無いはずなのに、血でまみれていた。頭がくらくらする。貧血だ。


 そういえば、最近、獣の血ばかりを飲んで頭を騙していたからか、凄く体が血を欲している気がする。


 流れている血が自分のものだと気づいた頃には、もう大分と気分は安定していた。


 魔核が血を造るための材料を生成してくれているお陰だ。


 あぁ。身体中がまだ痛い。


 日本で産まれた私は、初めて手に入れた全感覚投入型フルダイブMMORPGソフト、『クライム・リンカネーション・オンライン』通称CROで遊んでいた。


 ゲーム内容は、自分が異世界を侵略する側の人間になって、この世界を侵略していく、というものだ。


 しかし、あるときだった。


 私は、絶対にしてはいけないと書かれていたことをやってしまった。それは、所謂寝落ち。


 なぜしてはいけないのかいつも疑問だったけど、ことが起きて、ようやくそれを理解した。


 このゲームは普通じゃない。


 寝落ちしたあとのことだ。私はこのゲームからログアウトすることが出来なくなったのだ。ゲームマスターをコールしても、全く応答がなかった。


 しばらくして、私はCROととてもよくにた世界へとトリップしてしまっていたことに気がついた。


 私は、最初は焦っていたものの、このゲームは好きだったし、しばらくは続けて遊べた。でも。でも、この世界に来てから、初めて人を殺した時は、本当に、これはゲームなんかじゃないことは、心の底から理解した。してしまった。させられてしまったのだ。


 いくらゲームの時は痛覚規制があったとしても、この世界ではそもそもゲームではないのだから、そんなものは効きようもしなかった。


 そして今日。生まれてはじめて、拷問というものを受けた。


 恐ろしかった。


 思い出すだけでも、胃が苦しくなる。


 喉に鉄と胃酸の味を覚えながら、私は天井を仰いだ。


「言ってしまった...」


 今の私にとっての家族を、華の一族を裏切ってしまった。


 そこに、とてもひどい無念と苦痛を覚えた。


「もう、戻れないな...」


 私がこの狂ったゲームから脱出する術は、思い付く限り二つ。一つは、ゲームのシナリオ通りに、この世界を侵略すること。二つ目は、とても恐ろしくて試すことなんてできないこと。


 そう。それは、死ぬこと。


 CROでは、一旦死亡すると、自動ログアウトされるプログラムが組み込まれていた。


 でも、そのあとログインすると、データを全てクリアさせられていて、キャラクターメイキングからやり直しだった。


 他の異次元人サイドの人達がプレイヤーかどうかはわからない今、それを迂闊に口に出すのは危険すぎる。もし、できたとしても、それを伝える術はないだろう。


 ゲーム通りなら、記憶ごとクリアされているだろうし。


「はやく、こんな狂った世界ゲームから脱出したい」


 私は立ち上がると、ウィンドウを開いた。


 おそらく華一族には、この事はすでに伝わっているだろう。だから、逆探知されて殺されないように、魔核は取り除く。大丈夫。今までだって、色んな吸血鬼の一族を転々としてくることができたんだ。今回だって、きっと大丈夫なはず。


 赤い髪の彼女は、そう決意して、装備欄から魔核を解除した。


 ついでに、服装も新調する。


 たしか、設定では華一族は日光と聖水に耐性があったはずだ。なら、使う武器は銀弾を打ち出すハンドガン。アイテム名シルバーガンが適当だろう。


 あとは銀糸で作られた服と、シルバー製の近接格闘武器。これだけあれば十分よね。


 私は窓から外を見上げた。


 あいつらは昼間でも動ける。だから昼行性が大半だったはず。


 私には、目標がある。


「絶対に、この狂ったゲームを、終わらせてやる!」



次回「29」

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