「27」王姫と執事
同時刻、空中庭園。
(まさか、スターリンがオラシオン部隊の隊員だったとはな...)
俺はパーソナルイデア経由で、スターリンたち以下三名の動向を確認して、目をつむった。
(にしても、興味深い情報が得られた。なかなか面白いことを考えるな、あの蛇は)
俺は窓辺からすでに暗くなった空を見上げて、そんなことを思った。
すると、扉がノックされる音が聞こえた。
「チホちゃん!入るよー!」
そう言って入ってきたのは、ヒツギだった。
「ヒツギ、このステータスカードのことで聞きたいことがあるんだが」
「何々?使い方わからなくなったの?それともバグった?」
彼女は俺の方へと近づいてきた。
瞬間、俺は彼女をベッドに押し倒し、能力を使って拘束した。
「へ?どしたの?いきなりこんなことして」
「とぼけるな。薄々お前は気がついていたんだろう?」
「さぁて、なんのことかな?」
俺はポケットからステータスカードを取りだした。
「これを渡せといったのはタケルか?」
タケルはオラシオン部隊の一員だった。スターリンも同じものを持っていた。
秘密部隊であるシガン部隊が、市販のアイテムを果たして使うだろうか。そんなことをしてしまえば、相手側へデータが筒抜けになるだろうから、おそらくそれは考えられない。
だとしたら、これはオラシオン部隊の内部で作られたものだと推測できる。
昨日、タケルとヒツギが来なかった理由の徹夜ってのは、おそらくこの事に関連しているだろう。
これらを鑑みるに、手渡すように指示したのはタケルだろう。
そう踏んでの問いかけだった。
しばらく彼女はだんまりを決めていたが、やがて息を吐き出して、視線を横にずらした。
「気がついちゃったか...。絶対にばれないと思ったのになぁ...」
彼女はそう言うと、諦めたようにまたため息を吐いた。
「当たり前だ。俺を誰だと思ってる?」
俺は拘束を解くと、彼女の上から退いた。
「訓練もしてない人間が、体位反転を利用して横四方固めできる奴がいるかっつーの」
俺はダッフルコートを着込んで、外出の身支度をした。
「ちょっとチホちゃん!どこ行く気?まさかとは思うけど──?!」
「その、まさかだよ。ヒツギ。そんじゃ、ちょっと行ってくる」
俺はそう言って、屋敷の窓から跳び降りた。
「はぁ。おにぃちゃんに連絡しないと...。いや、まずはニーフからかな?」
ヒツギの諦念した声が、彼女の部屋に響いた。
四国連合の裏路地街。そこの一角にあるスターリン率いるギルドに、俺は転移した。
「お嬢ちゃん?!いつからそこに?!」
「今さっきだ。スターリンは...今はアシロか?」
辺りを見回しても、あの道化師のような風潮の彼は居なかった。
「へえ。そうですけれども」
「そうか、邪魔したな。あ、そうだ。カルラとカンナを借りてもいいか?」
俺は受付にそう呼び掛けると、彼女は、少々お待ちくださいと言って、奥へと引っ込んだ。
さて、これから次はオリガヤ・フレア邸に行って、調べものだな。
「師匠、何かご用ですか?」
しばらくすると、カルラとカンナがこちらへやって来た。
「あぁ。ちょっと同行してほしい場所があってな」
「それなら、掲示板を使えばよかったのでは?」
彼は尤もなことを言うが、俺はそれに頭を降った。
「緊急の用事だからな。五分で準備を済ませてくれ」
「了解です。お嬢様、車はいかがなさいますか?」
車か...そうだな。ステータスカードに収納すれば問題ないか。
「案内してくれ」
「御意に」
同日六時十二分。四国連合イルス区クザス州、オリガヤ・フレア邸。
空の色はすっかり暗くなっているというのに、町の賑わいはまだまだ暮れることはない。
俺たちは、そんな町から外れた所にあるひとつの大きな屋敷、オリガヤ・フレア邸の前にいた。
「それで、何をするんです、師匠?」
「フルーレ・リハヴァインの痕跡を探る。そこから、華一族の巣穴を探りだす。ひとまずはこれが目的だ」
俺の回答に二人はハッとしたような顔をしかけて、表情を怪訝そうな顔へと作り替えた。
しかし、それは俺の目を誤魔化すには難しかった。
(なるほど、こいつらもオラシオンの...。道理でカルラの足が速いと思った)
俺はそれに感心しながらも、屋敷へと足を踏み入れた。
次回「28」




